紙の本
医療関係の方にも勧めたい病院小説
2021/01/15 23:35
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投稿者:さ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「本人も家族も、希望を失っているわけではなく、ぎりぎりまで生きたい、できるだけ長く生きたい、ということは思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
末期癌で入院中の妻についての病状説明の際に、主人公である夫がそう発言する。作中の医師は、説明が足りなくてすみません、がんは治療をしていないのだからこれ以上良くなることはない、希望をもつべき状況ではない、という説明を何度も繰り返す。しかし、夫はそれをすっかり理解しており、説明は求めていないという。『延命治療は希望しない』という我が娘の発言を耳にした、妻の母親の胸中を慮っての意思表明だったのだ。医療従事者側の自分は、その場でこれを理解できそうにない。なんなら今も理解できているか自信がない。ありもしない誤解を解こうと必死に捲し立てているのが目に浮かぶ。
妻の病状が進み、亡くなる経過で、実の親、仕事関係者、医療従事者、葬儀関係者との小さな確執が、思慮深い夫の視点で、嫌味なく、押し付けることなく淡々と描いてある。ぽろぽろ泣きながら一気に読んでしまったが、またじっくり読み返したい。あの夫の意思表明を、ふんわり受け取れるような人間になりたい。
紙の本
タイトルに偽りなし!
2020/01/30 07:22
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投稿者:しんごろ - この投稿者のレビュー一覧を見る
妻に対する彼の15年の愛と想いがひしひしと感じる。病室で会うときの挨拶がすごく素敵で仲のいい夫婦だなと実感。愛する者が亡くなるときはいつかある。(できれば亡くなるのは自分が先だといいんだが)後悔はきっとでてくるだろう。しかし後悔を無くすことはできなくても、少なくはできるだろう。これから先、そして今を、愛する大切なパートナーと歩んでいきたいと思わせる物語。タイトルに偽りなしの“美しい距離”でした。
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【死ぬなら、がんがいいな。芥川賞候補作】妻の看取りに臨む夫は、病院で何を考えるのか? 妻の社会性を応援したい……がん患者が最期まで社会人でいられるのかを問う病院小説
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はじめての、山崎ナオコーラさん。
主人公が、周囲からの見られ方、相手の受け止め方を考えていつも気を遣っているのが、感受性の問題、距離感の問題。
妻への愛もすてきだった。
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15年間、お互いちゃんと好き合っているのがいい。
爪を切るのも、耳かきをするのも、顔を洗うのも、化粧水・乳液・クリームをぬるのも、髪を洗うのも、髪をとかすのも、ぜんぶが愛おしい。
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けっこうあっさりと奥さんが死んでしまうことに驚いた。でもそれこそがナオコーラさんが描きたかったことなんだろう。死は何も特別なことではない。
癌になったことを責めない。
その姿勢は、癌以外の病い、あるいは障害をもつ人にとっても救われるものだと思う。
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妻ががんで死ぬ。
うん、美しい、けど、悲しんでいいのかホッとしていいのか、私にはうまく距離感が図れない小説だった。
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今日のご紹介はミモザ色の本にしたよ。
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「夫婦間の距離が美しいかどうか。」
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サンドウィッチ屋さんをしている妻が
ガンになり、幾ばくかの余命を生きるとき、夫は彼女らしさをサポートすることに徹していました。
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いつまでも社会人であれるよう、必要であればしきたりや慣例にNOを言える強さ。
三つ編みをしてあげたり、爪を切ってあげたりすることも、自尊心を傷つけないように。
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真摯に考え続けている夫の姿に、心打たれました。良書です。
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こないだ参加したHS(株)斉藤和則さん主催イベント「本で話をしよう」にて、
斉藤センムがわたしに触発されて江國香織さんの小説をお読みくださったこと、
山崎ナオコーラさんの解説から切り取った内容をご紹介くださったことから、アンサーレヴューとしてご紹介でした。
だってわたし、ナオコーラさんって名前に身構えていたんですもの。
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40代で癌になった妻を看病する夫の話
“生きる”という事への自分のスタンス
妻への尊重。
考えさせられた。
“延命治療をしないからと言って希望を持っていないわけではない”分かっていた様で整理できていない部分が少し理解できたのかな…
“こちらの感受性の問題”と言う言葉は日常でも心に留めておかなきゃなあ
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病気と死を淡々とした描写でつづっているため、必要以上に感情移入せずに読み進められる。これも、物語と読者の「美しい距離」なのだ。
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初読みの作家さん。ハードカバーのときから表紙がきれいだな、と思って気になっていたけれど手が出せなかった一冊。時間ができたし文庫にもなったらから思い切って買うことにした。
話自体はシンプルで、末期がんを診断された妻と、彼女の最期を看取る夫の話。ここであえて「闘病」という言葉を使わなかったのは、「闘う」という字があまりこの小説に似つかわしくなかったから。夫婦はがんという病気に絶望し、諦観していたわけではないが、病気に打ち勝とうという燃え上がるような闘志は持ち合わせていない。夫視点で語られる妻の様子は至って落ち着いてはいるが、妻を見舞う周りの人びとの言葉に対する違和感や沸々とした怒りは度々浮上する。病気に対して、自分の物語を押し付けようとする人に対する怒り。ステレオタイプによって構成されたその物語を拒否し、妻には自分の物語があると断言する夫は、人間として尊敬できるな、と素直に思った。
「美しい距離」とは、まさに妻に対する夫のそれだと思った。見舞いに来るたび、「きたよ」「きたか」というどこか淡泊な挨拶に、逆に愛情を感じられるし、妻の身の回りの世話をしてあげたいと思う夫が妻の「自分でできることは自分でしたい」という意思を尊重しようと距離を測る姿がまたいい。近すぎず離れすぎず、相手のことを慮って、自分の考えや理想を押し付けようとしない夫の距離は読んでいてどこかもどかしいが、そのもどかしさすらもどこか心地いいと思える。
「配偶者というのは、相手を独占できる者ではなく、相手の社会を信じる者のことなのだ」
この言葉を読んだときに、夫婦という世間では絶対的で時には息苦しさも感じる近さにいる二人が、適度に距離を置いて相手のことをきちんと見ることのできる関係にもなれるんだと思えた。そして常に一定の距離におらずとも、近くなったり離れたり、そのすべてに意味があって慈しむことができることを教えてもらった。
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帯のコピーに騙されて買った。
ー がん大国日本で、医者との付き合い方を考える病院小説!
全然違うじゃん…
でも、そんなことどうでもいいくらい地力がある小説だと思った。
と言っても、圧倒的な主張や展開があるわけではない。淡々と末期がんの妻を送りだすまでが綴られている。
妻との最期の生活を過ごしながら、「美しい距離」を獲得していく物語。
辛い時期だと、どうしても想像してしまうが
ー 死ぬための準備期間のあるがんという病気に、妻のおかげで明るいイメージを持てるようになった。
という。
なんだか、深くて大きくて、言葉を失う。
解説で豊﨑由美さんは言う。
ー いい小説が備えている美点のひとつに、読む前にはなかったものの見方を与えてくれるという効能がある。『美しい距離』はその見本のような素晴らしい小説だ。
全くそのとおりだと思った。
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2時間半で読了
ガンになった妻との日々を描いた作品。お涙頂戴的なドラマチックな展開は無く、静かに、淡々と、押し付けがましくない文章で、夫と妻と周りの人々との関係性を描いている。最後は染み渡っていくような静かな悲しみもありつつも、浄化されるような穏やかな気持ちになった。山崎ナオコーラ、好きかも。
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本を開いた内表紙に、やけに詳しい著者紹介が載っているなと思う。山崎ナオコーラさんも、がんを患った父を持った人らしく、小説のところどころにがんを看取った時にこう思ったのだろうなと思わせる一節が見られた。
がんをわずらった妻の看病にあたり、接するさまざまな人たちとの関係においてでも、自分の気持ちより相手の立場を考える性分から、常に小さな葛藤を心に持つ夫。夫が遭遇する出来事のディティールがかなり細かく描写される場面があるが、その描写を通して微妙な感情の解像度が上がっていくように感じられた。
自分のパートナーや、たいせつな人の死に目に合うということは26歳の今ではあまり経験がない。だからこそ去年くらいから「人はいつか死ぬ」というあまりに当たり前で、しかしどうも慣れ難い現象に対するスタンスを用意しておきたいと思っているが、この本に出会ったことで少しは前進しただろうか。
死後に夫が夢に見る妻の姿が、病床の妻の姿からどんどん若かった頃の妻に変わっていく、という描写が心地よくドリーミーで、なんとも言えない悲しみの色を持っていたように思う。死後の二人の間に生まれる美しい距離。
mei ehara の 進行する闇 がなんとなく聴きたくなった
この曲も死に関する曲なのかな
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山崎ナオコーラさんの著作を読むのはこれが初めて。もちろん、「人のセックスを笑うな」はあまりにも有名。作家として気にはなっていた。
ブクログで見かけたレビューを良い機会と思い、手にとって見た。
まず、言わなければいけないのは文体が独特だということ。本作だけが特殊なのか、他の著作もそうなのか分からないけれども、難しさを感じた。たびたび主語が省略されるので、油断していると誰の発言・行為なのか分からなくなる。
著者紹介では「分かりやすい文章を心がける」と書かれていたけど、ちょっと行き過ぎている気がする。
それはさておき、内容については可もなく不可もなく、かな。
若くして癌に罹ってしまった妻と、その看病をする夫の物語。夫の視点で話が進んでいく。
決して安易な感動モノにならず、夫の思いや考えがつらつらと描かれる。
例えば、妻を見舞いにくる知り合いが登場する。彼らは遠慮もなく「痩せたね」と言ってくる。それに対して夫は「太ると言うことは明らかに失礼なことなのに、人は平気で痩せたと言う」などと憤る。
他には、「未来のことを考えることが、必ずしも明るい気分になれるわけではない」や「忌引について、死んでから休んだって意味ない 死ぬ前に休みがほしい」など。
病気を中心に巻き起こる数々の不条理に対して、夫の独白という形式を通じて、山崎ナオコーラさんの私見が述べられる。それは少し新鮮な発見をもたらして、病気の現場への認識を少しだけ改めてしまった。
さらに、介護保険法など、現実の制度や実態が物語の中に自然な形で組み込まれている。そういう意味では少しノンフィクションらしさも感じる一作だった。
ネタバレになってしまうけど、妻はあっさり死んでしまう。それに対して、夫は淡白。そう、この物語はどこか淡白な空気が漂っている。
だけど、冷静になって考えてみると、事故死などの急死を除けば、人の死に際して、取り乱す人間の方が少ないような気もしてくる。
この物語では、夫は着々と妻の死が現実になっていくのを見ていた。来たるべき未来として死が織り込まれたとき、人は激情に飲まれないものなのかもしれない。
そのように理性的に死と向き合っていくことが「美しい距離」を取るということなのかな、と自分を納得させた。
また、夫は最終的に「死ぬなら癌がいい」と独白する。最後に小綺麗にまとまった感じ。
さすが芥川賞の候補作だけあって、単純ではない。読者に考えさせる感じ。だけど、やっぱり★3つかなぁ。
(書評ブログも宜しくお願いします)
https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E5%A4%A7%E5%88%87%E3%81%AA%E4%BA%BA%E3%81%AE%E6%AD%BB%E3%82%92%E7%B9%94%E3%82%8A%E8%BE%BC%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%84%E3%81%8F%E5%B0%8F%E8%AA%AC_%E7%BE%8E%E3%81%97%E3%81%84%E8%B7%9D%E9%9B%A2_%E5%B1%B1