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現代社会のゆがみが引き起こした犯罪。罪を問われる被告人は、裁判では孤立無援の存在となる。そこで温情あふれる若き判事補が婚約者の応援を得て事件を解明していく。叡智と温情で裁く連作裁判小説集。
1995年の刊行。親本は1992年の刊行。
現実の事件にヒントを得たまったくのフィクションであるというが、確かに何処かで聞いたようなネタである。著者は、連載途中から全国の裁判を傍聴して回るようになったという。現在、傍聴マニアの存在が知られ、各種傍聴記録が作品として出版されていることをみると隔世の感もある。小説の中で、法廷でのメモを禁止される件があるが、現在は当たり前になっている事柄は、実が当たり前では無く、先人達が勝ち取って来て、今があると教えてくれる。
剣と天秤を持った「正義の女神」の像は有名ですが、目隠しをしているものもあります。私は目隠しは予断や偏見を排除するためだと思っていましたが、著者は作品の中で、裁判長に「正義と称するものは、必ずしも裁判で実現しない。正義は一つと限らず、二つあるかも知れない。ある事実を明快に認定することで、逆の結論になることもある。だからボカす為に、目隠しが必要な場合もある」と言わせている。
根拠がある説なのか、まったくの創作なのかは解らないが、犯罪者を厚生させるという視点からみると頷ける面もあり、なかなか深く面白い見方である。