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大竹高史『さよならセキュリティ つながり、隔たる、しなやかなセキュリティの世界』(インプレスR&D、2020年)は一般向けのセキュリティの書籍である。『さよならセキュリティ』とあるが、セキュリティ不要を主張するものではない。逆に「セキュリティは専門家だけに任せられない」とのスタンスである。私は情報処理安全確保支援士として興味深く読んだ。
本書はセキュリティについて、そもそも論から論じている。哲学的な内容もある。セキュリティと言えば目の前の問題を片付けることに注力しがちであるが、それではダメである。
本書は忘れられる権利について言及する。忘れたい正当な理由として事実ではない情報を挙げる(55頁)。これは忘れられる権利とは別の問題と考える。虚偽内容の削除を要求することは当然の権利である。これを忘れられる権利で議論することは混乱する。一定期間が経過したから御祓は済んだとばかりに削除を要求することとは異なる。
本書は依存性薬物の一方的な規制に批判的である。「一方的な視点での規制は差別や弾圧と変わらず、それを背景に健全な人々が犯罪に巻き込まれていく社会は間違っている」(84頁)。しかし、危険ドラッグ使用者が自動車を運転して交通事故を起こすなど依存性薬物を放置することが、健全な人々が犯罪に巻き込まれる可能性を高める。