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『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』で2012年の開高健ノンフィクション賞を受賞した佐々涼子氏が、東日本大震災で被災した日本製紙石巻工場の復興について記したノンフィクション。2014年に発刊され、2017年2月に文庫化された。
尚、本書の本文に使われているのは、本書で復興の象徴として詳しく語られている「日本製紙石巻工場8号抄紙機」で造られた紙である。
本書がなぜこれほど多くの読者に支持されたのか? それには二つの要因があるのではないだろうか。
一つは、いうまでもなく、震災直後は本人たちですら不可能と思った工場の復興を成し遂げた、震災から立ち上がる日本の底力を象徴する記録だからであろう。石巻工場長が「半年後にマシンを一台動かす」という目標を掲げ、その対象となった「石巻工場8号抄紙機」を再稼働させる一部を担った従業員は、瓦礫を撤去し、水に浸って使えなくなった電気ケーブルをつなぎ直し、モーターを復旧させ、ボイラーを再稼働し・・・という過程を、「これは駅伝だと思いました。いったんたすきを預けられた課は、どんなにくたくたでも、困難でも、次の走者にたすきを渡さなければならない。リタイアするわけにもいかず、大幅に遅れてブレーキになるわけにもいかない過酷な長距離走です」と語っているが、過酷な状況を乗り越えて再び立ち上がる人びとのドラマは、涙なしに読むことはできない。私は2015年夏に石巻を訪れ、日和山から日本製紙石巻工場のある光景を見たが(本書を手に取る前である)、日和山から海に向かっては工場以外まだほとんど建物がなかったあの場所で、このようなドラマがあったとは当時は想像できなかった。
そして、もう一つは、その復興の対象が“本を造る紙”であったことであろう。著者は「ライターの私も、ベテラン編集者の彼女も、出版物を印刷するための紙が、どこで作られているのかまったく知らなかったのだ」と書いているが、私も、出版用紙がどこで作られているのかは言うまでもなく、その種類についても、中公文庫は色褪せしやすいとか角川文庫は若干赤いとかを感じる程度で、その作り手の矜持にまで関心を持ったことはなかった。本書では、随所で“本の紙”の種類や製造過程に関する説明がなされていて、それが本書の魅力を高め、読者の興味を惹いているのではないだろうか。「紙の質感は繊細な調成のもとに成り立っている。紙の本の最たる魅力は、何といっても、その触感にある」、「紙の本の手触りや香りは、文章の中身を理解し、記憶するのにも役に立っている」、「我々は「めくる」ことによって、さらに読書を“体験”していき、本にはその痕跡が残るのである」、「どんな紙を本文に使い、どんな素材感のカバーにするかが、作品世界の印象を決定づける。そのバランスは極めて繊細なものだ」。。。いずれも本好きとしては、強く相槌を打ち、「やっぱり紙の本ていいよな。。。」と独り言ちてしまうフレーズであろう。
そして、著者は「ノンフィクションを書いていると、私が能動的に書いているというよりは、物語という目に見えない大きな力に捕らえられて、書かされているのだと感じることがある」と語っているが、その取材と筆致の力が本書の魅力を更に高めていることは間違いない。
復興の感動のドラマと紙の本の魅力を描いた、優れたノンフィクションである。
(2017年3月了)
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東日本大震災の津波で大きな被害を受けた製紙工場の復興をたどったノンフィクション。ずっと話題になっているのは知っていたので、文庫になったと知ってすぐに入手。
生活の再建、そして工場の復旧、ゼロどころかマイナスからの出直しの貴重な実践記録である。工場の従業員、東京本社のトップ、当日は出先だった工場長、様々な人がふりかえる震災直後の状況はこちらの想像を遥かにこえる過酷さで、まるで6年前に戻ったように読みながら涙が溢れてきてしかたなかった。石巻工場の来歴から起こし、工場、会社、石巻の街の希望をつなぐためにどう行動したか。工場の内外のさまざまな関係者のあの日からの軌跡をたどるこの本は、いつあるかもしれない次の被災にむけてのかけがえのない先例として一読に値すると思う。
毎日手に取らないことはない、なくてはならない紙の生産地はどこかなどこれまで考えたこともなかったし、震災後の紙不足をしのぎ、日本製紙が未曾有のダメージから基幹工場を立て直したこのようなドラマがあったことも知らずにいたなんて能天気にもほどがあるが、ほんとうにこの本に出会って読んで知ることができてよかったと思う。
この文庫本の本文紙が、まさしくかの8号抄紙機で作られた紙だというのが感慨ぶかく、その色や手触りを何度も矯めつ眇めつしてしまう。
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やっぱり紙媒体が大好きな人のニーズと、震災の実際を知りたい人のニーズと、両方を叶えているという意味でも、本作の題材設定は成功してますね。まさに痒い所に手が届く感じで、読みながら感心しきりでした。別に穿った見方をしている訳じゃなく、訓練が生かされての震災後の見事な対応や、大局を見誤らない指導者の目線など、見習うべき点は数多くありました。
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すごい!リアルな話とは思えない。どこかフィクションのような下町ロケットような、、、けど現実。非常時にこそ人間の本当な姿が良くも悪くもでてくる。何が正しいのか、正しかったのかは結果がすべて。知らないストーリを知れた。
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平積みになっていたので手に取ってみました。
いやあ、すごい。自分も本は好きだし紙も好きな方だと思うんですが文庫の紙が出版社によって違うとか知らなかったなぁ。それに色も違うんだ。色々勉強になりました。
震災後、やっぱり略奪行為や破壊行為を行った人達は居たんだなぁ。全員ではないだろうし暴動、というほどでは無かったのでしょうが一部の心無い人の行為で被災された方がどれだけ恐ろしい思いをしたのだろうか。支援、という名でコンサル料や補助金だけを手に入れて何もしなかった団体が居た、という事も。国の補助金が出ると知るといきなりわっと物凄い数の団体が申請に来るものなぁ。そう言う事も今後精査出来るようになるといいのにな。
震災後色々な物資が各地で不足しましたが紙もそうだったんだぁ。そろそろ震災の日が近いですが改めてこの国の形というか生産というものを考えさせられる一冊でした。為になりました。
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本書に挿入されている写真を見て、この工場が半年で復旧することができると考えられる人が、世の中に何人いるだろう。工場で働く経験のある私には不可能と言い切ることができる。機械1台復旧するには、作業員が一つ一つ手作業で問題を解決していくしかない。部品を取り換え、わずかな嵌め合いを調整し、全体の動きを調和させる。交換する部品がなければどうする、加工するツールがなければどうする、そもそも電気がなければどうするんだ・・・・。
でも彼らは復旧させた。工場のがれきを片付けると津波で亡くなった遺体が出てくることもあったと書かれている。ただ、ただ、想像を絶する。復旧に取り組み、結果を出していく人たちに敬意を払うと同時に、製造業の一端を担う自らの仕事にも少し誇りを覚えることができた・・・かな・・・。
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20170320
東日本大震災で甚大な被害を受けた、日本製紙石巻工場の復興に向けた壮絶な戦いを綴ったノンフィクション。
まずは、東日本大震災で、被災地に何が起こったのか、どのような惨状だったのか、テレビでは伝えていない現場の様子に息が詰まる思いだった。
そして、普段何気なく使っている紙が、こんなにも大変な思いをして、技術者たちが紙を繋ぎ、消費者の元へ届いているのかを知り、これから紙や、本への見方が大きく変わった。
被災地や、日本製紙で働く人たちの大きな励みになった事を考えると、野球部の果たした役割もとてつもなく大きなものだったと思える。
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6年を経て、震災のノンフィクションを読むとまた、新しい感慨がある。結局一度見たきりの場所だが、本書で当時の苦労や現実を詳細に知ることができた。巨大システムの復帰は本当に大変なことと思う。上層部の判断、現場の勢い等、つらいながらも明確な目標のもと、一丸となって達成した点が当然ながら感動する。野球部の話は知らなかった・・・。
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東日本大震災で甚大な被害を受けた日本製紙石巻工場の復興を追ったノンフィクション。
震災の津波の被害の甚大さを改めて感じ、そこから工場を立て直した日本製紙の人たちの姿、意思の強さが印象に残った。
また、知っているようで知らなかった紙のことも説明されていて非常に興味深かった。
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本はたくさんよむのに、こんなこだわりを持って紙を作っているのは知らなかった。
石巻はゆかりのある地。
この本に出会えてよかった。
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文庫のページの感触を確かめながら読む。
感動的な物語と思う一方で、製紙工場復興にあたった人々はまだ恵まれていたんじゃないかと。
彼らの様に親企業の支援もなく、生活の再建すら困難な被災者が多かったんじゃないかと思っている。
書かれた内容以外にも思いが至る本。
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話題になっている文庫なので躊躇なく購入。
ハヤカワノンフィクションだったし。
しばらく積読の状態でしたが今日読んでみました。
自分は出版社ではたらいた経験があるので、
紙へのこだわり(とくに装丁家のこだわり)は理解していましたが、
ここまでこだわって作っているのか、というのが率直な感想でした。
彼らが自分の仕事に誇りを持っていることが伝わってきました。
すばらしいです。
震災についての箇所は生々しくて、これもとてもすばらしい。
ただちょっと文章が雑誌くさいというか期待はずれというか。。
ハヤカワノンフィクションって科学者とか心理学者とか、
学者が書く本が多いのでそれはそれで割り切って読めるのですが、
今回はプロってことで期待して読んだのですがちょっと違うかなと感じました。
解説もあらすじを追っているだけで途中で読み飛ばしたし。
でもおすすめ。
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テレビや新聞の写真には死体は映らないし、バットを持って店や自販機を壊して回る人も直接出てこない。家族や知人や家や街を失った人たちの心の中は想像するしかない。
日本製紙石巻工場の再開を軸に書かれたこの本は、関わった多くの人の言葉を拾い上げている。かわいそう、お気の毒という同情だけでなく、災害のリアルを少しでも想像できた気がする。そしてもちろん、困難の中奮闘する人たちへの応援、熱い気持ちが満ちてくる。
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ドキュメンタリーですが、妙に感情に訴えるので違和感が。
まぁ、紙業界の事情が分かったのは面白かったけど。
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震災直後、ある大手出版社の編集者から、「震災で紙の工場がやられてしまって、本がでなくなるかもしれない」と聞いた。本にかかわる仕事をしているので、DTP屋さんが都外にあることは知っていたが、紙の工場が東北にあることは全然知らなかった。
その編集者は、「でも、うちは〇社ですからね。紙が入ってこないことはありません」と言う。そこはかとなく漂う、大手出版社の自信みたいなものを感じて、ある種複雑な思いを抱いた覚えがある。
本書は、東日本大震災で被害に遭った紙工場が、わずか半年で再生に至るまでのノンフイクション。誰もが「ムリ!」と思った再生計画を、見事にやってのけた人たちの思い、プライドなどが克明に描かれる。
著者の佐々氏が編集者と、「本は紙じゃなくちゃダメだよね」といつも言ってるのに、その自分が紙のことを、まったく知らなかったとの記述がある。私もまったくその通り。恥じ入りながら読んだ。
また、当時、日本人は災害に遭ったときでさえつつましいという、美談仕立てのような報道もよく目にしたが、実はひどい状況もあったことも書かれている。
本が好きな人、本にかかわる仕事をしている人、そうでない人も、読んでおきたい、読んでおかなくちゃいけない1冊。