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この本は緊急事態宣言が出ている中で読んだ本です、本の帯に「遺言」と書いてあり、調べてみたら著者の長谷川慶太郎氏は昨年(令和元年)9月にお亡くなりになっていたことを知りました。初めて彼の著作を読んだのは、確か私が高校生のときだっと思います。あれから30年以上、毎年のように出される本を読んできましたが寂しい限りです。
最後の著作が「中国は民主化する」というものです、ソ連の体制が崩れることはないとされていた時にに「ソ連は崩壊する」と本に書かれた、これからのサラリーマンは「カラオケ、ゴルフ、麻雀をおやめなさい」というメッセージが特に私には印象に残っています。
果たして中国はどうなるのでしょうか、あと10年以内には答えが出ているような気がします、今後興味を持っておきたいことです。
以下は気になったポイントです。
・陸軍中心の人民解放軍から、空軍、海軍、ロケット軍を格上げし、陸軍の権力を削いだ。習近平のこの方針に陸軍からは猛烈な不満が出ている(p31)
・2017年10月に行われた第19回中国共産党全国代表大会にて第6世代から政治局乗務委員が選ばれなかった、後継者として下馬評が高かった、胡春華と陳敏璽は指名されなかった、これは3期目も主席として君臨するという意思表示である、2018年3月の全国人民代表大会で主席と副主席の任期(2期10年)の制限を撤廃、憲法改正案を可決させた(p35)
・習近平が権力を集中させ、汚職撲滅という武器を使って自分の方針に従わない権力者を排除する答えは「中国の民主化」にある(p39)
・南シナ海でのミサイル配備など軍事拠点化は、習近平が命令したものではなく人解放軍海軍の独創である(p48)
・中国の軍事費は毎年2けたで伸び、アメリカ軍(80兆円)に継ぐ世界第二位の軍事規模になっている、そのお金は中国とアメリカとの貿易黒字にある、2018年の貿易黒字は40兆円(輸出52、輸入12)(p50)
・2016年2月1日、中国人民解放軍戦区設立大会が北京で開催され、中央軍事委員会主席である習近平は2015年11月に示した通り、陸軍の防衛地域区分である7軍区を再編して、5戦区にした(p57)人民解放軍は共産党を守るための軍隊であった、しかし今の共産党は役目(世界に共産主義革命を波及させる)を放棄するとともに資本主義を一部取り入れて、革命政党から国民政党に変わった。改革開放路線を成功させて中国を発展させるには、中国をはじめ世界が「平和」である必要があるので習近平は改革を行っている(p60)
・中国共産党はソ連とは異なり、人民解放軍に粛清をしてこなかったので、人民解放軍は中国共産党の命令に従わない(p67)
・中国の負債総額は、GDPの約6倍あると見ている、金額にして600兆元、日本の負債は2倍であり中国は日本以上に酷い状況にある(p93)
・中国の経常収支(貿易収支にサービス、所得収支を加えたもの)は、2015年には3000億ドル黒字だったが、2018年には500億ドル、2022年には60億ドル、2023年以降は赤字に転落する予想がある、つまり資金不足に陥る。外貨準備高は2019年4月末で3兆950億ドルで、ピークから5年で8000億ドルも減少している、共産党幹部による資産の海外流出が膨大で、貿易で稼いだドル資産が減っているのが原因、ここには海外から借りているドル資産(1兆ドルほど)も含まれている(p96)
・中国の灰色収入は多く2018年で380兆円程度と推測される、GDPの約4分の1に相当する(p102)
・2014年3月、習近平政権は都市部で2020年までに1億人の農民工を都市戸籍に変更させる目標を掲げた戸籍制度の改善計画を打ち出した、2014年7月には都市戸籍と農民戸籍の区別をなくして、居民戸籍に統一する方向性も出した。(p106)
・中国は近い将来、間違いなく分裂する、かつての人民解放軍の7軍区(瀋陽、北京、蘭州、済南、南京、広州、成都)各軍区の相互調整はほとんどない、軍区によって主食すら違って文化が異なっている、軍区同士の結びつきが弱い代わりに、軍区内の結束は強固である、分裂した場合、日本はどの国にも、決して援助をしてはいけない、援助をしたら大東亜戦争のときのように戦争に巻き込まれる(p126)
・2014年にドイツ訪問した時に、メルケル首相に東西ドイツが統一された時のコストを聞いたら、20年間で約2兆ユーロ(240兆円)投資したが、それでも足りないと答えた。その時、韓国は南北統一のときにどれくらいの投資を覚悟していますか、と質問したら朴大統領は返答できなかった(p146)
・北朝鮮は約120万人の規模を誇る、大半は十分に食料が配給されていないが、20万人の特殊部隊のみには十分な食料供給を受けている(p152)
・人間は約1習慣食べないと死に至る、生きるか死ぬかという立場に立たされると、人は暴動を起こすことも厭わなくなる、金正恩はこうした国内状況を知っている(p156)
・日本には余っている大量の米がある、海外から日本に輸入される米は輸入関税500%を課している、日本の米農家を守るためである。その代償として、日本政府は約5000億円の予算を使って、毎年70万トンの米を海外から輸入、その米が6年分、約400万トン、港湾倉庫に保管されて簡単に船で輸送できる状態にある。これは少なくとも1年間は北朝鮮の難民を食べさせられる(p164)
・インフレはいわゆる特権階級やエリート層が中心、デフレは一般大衆が有利な時代、トランプはこの一般大衆の心を掴んだ。トランプが反リベラルであったことが大きい。国民はオバマ大統領のリベラル政策に飽き飽きとしていた(p169)
・大阪が経済的に沈んだ2つの理由、1)大阪では遊んでいる人が少ない、2)地理的に東京には関東平野という広いスペースがある(p185)
・日本の製鉄メーカは逆工程から設備を建設した、最初に冷間圧延設備、その後で熱間圧延設備、逆工程から建設すると短期間で売上が立つ(p189)
2020年10月31日作成
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国際情勢の教養が身につく1冊です。テレビや新聞の報道ではわかりにくい中国の現状を分析した上で、これまでの共産主義国がたどった道と比較しながら、今後の中国が進む方向性を予測しています。経済的にも政治的にも日本にとって無視できない中国を、より客観的な見方をする上で貴重な情報が得られるでしょう。
【特に印象に残ったフレーズ】
「中国全体のGDPは各省が発表した数字を合計したものだが、この数字は作られたものが多く、実態とかけ離れている。現在の中国経済の実態はひどいものである可能性が高い。企業はどんどん生産規模を縮小している。」
「中国製品は「在庫の山」となっている。中国にとっては成長率が全てであり、売れるかどうかは関係ない。品質が悪く、中国人は外国製品を買っている。ノルマ生産を行う「計画経済」の弊害が出ている。」
これが本当であれば、今後のマーケットとしての可能性を慎重に見ていく必要がありますし、現在の日本の依存状況を是正すべきかを考える必要も出てきます。
【本のハイライト】
〇権力を集中させる習近平
・習近平は人民解放軍を完全にコントロールできていない可能性が高い。習近平は本当は、改革開放路線を成功させたい。そのためには「平和」が必要だが、戦争を必要とする人民解放軍の存在意義がなくなるため、共産党に対し反抗姿勢を強めている。
〇共産主義は人類を幸せにしない
・中国全体のGDPは各省が発表した数字を合計したものだが、この数字は作られたものが多く、実態とかけ離れている。現在の中国経済の実態はひどいものである可能性が高い。企業はどんどん生産規模を縮小している。
・中国製品は「在庫の山」となっている。中国にとっては成長率が全てであり、売れるかどうかは関係ない。品質が悪く、中国人は外国製品を買っている。ノルマ生産を行う「計画経済」の弊害が出ている。
・中国が品質の向上を望み、国際競争力を持とうとするなら、企業が生産拡大より研究開発に力とカネを注ぐ必要がある。
・中国全体の失業率は40%を超えている可能性がある。大卒新卒の半数以上が無職のままというデータもある。
・積極的な公共投資で需要をつくり出しているが、借金で賄われているものである。
・国有企業をつぶすだけでは国家は良くならない。量から質への転換を図る、大きな政策転換が必要。今後、習近平は儲かっていない国有企業をどんどん整理し、生き残った国有企業を中心に優秀な技術者を集め、技術を高めようとするはずである。
・中国は経済的に落ち込んでおり、必ず日本に秋波を送ってくる。日本には豊富な資金と技術力がある。日本には、言うべきことを言う姿勢が必要。
〇中国は民主化する
・自由がない国家はいずれ、人類の歴史から消えていく。共産主義は、人類が進むべき道に逆行している。
〇その他
・投機と企業経営は固く結びついている。投機に失敗する人間は、企業の経営にも失敗する。
・企業経営をしていく上で、無駄金を使う覚悟が経営者にないと、広い情報が入ってこないので、企業は発展しない。とくに中長期的な展望を確立するなら���どうしても必要。
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長谷川慶太郎さんの遺作。
気になったところは、
・習近平政権は、汚職撲滅で政府高官や軍関係者の粛清を行っているがドンである江沢民を逮捕する可能性もあり得る。自分の方針に従わない権力者を汚職撲滅という武器を使って排除する理由は、「中国の民主化」にあるという。中国が共産党を捨てて民主化しようとすれば、既得権者達が習近平の排除に動くのだとか。汚職にまみれた国家は衰退する。自由で民主的な体制が国を発展させると考え、習近平は権力を集中させている。
・習近平は、人民解放軍をコントロール出来ていない。インドのモディ首相との会談中に国境でインド軍と衝突したのは人民解放軍の身勝手によるもので、南シナ海の軍事拠点化も軍による独走である。また、尖閣諸島の海域で警備行動を展開したり、防空識別圏を設定したのも軍によるものだそうだ。それに、陸軍は軍区同士の結束はなく政府が空軍、海軍に力を入れているため不満が募っている。海軍は艦隊ごとで軍功を競っていて合同訓練を行っていないなど、それぞれが軍功のために動いていて統制が取れていないという。
・著者は、中国は近い将来、7つの軍区ごとに国家が分裂すると予想している。そして、分裂した7カ国が援助を要請してくるから日本は応じてはならないという。応じると戦争に巻き込まれるからだ。
・中国には、北朝鮮崩壊後の面倒を見る余裕はないという。米中間で崩壊後のシナリオは出来ているが、朝鮮半島が統一した際には混乱が起こり、コストも膨大になり東西ドイツ統合の比ではないことが予想されている。
この本を最後に長谷川慶太郎さんの本が読めないのは残念である。