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ウォルターズの最新刊。
物凄く複雑な人間関係とすれ違いが、最後に解きほぐされていくところはお見事としか言い様がない。
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やや出来事の連鎖に無理筋なところはあるが、誰の、どの発言が本当なのか、最後まで興味が持続する展開の妙、一人一人の人物像が浮き彫りになる文章力など、ウォルターズらしい一作です。
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実に5年ぶりのお目見えとなる作品。値段の割に邦訳が遅いのが気になる。この作家を思い出すのに、以下の前作『悪魔の羽』についての我がレビューを少し振り返りたい。
(以下前作レビュー)
中編集『養鶏場の殺人・火口箱』を読んでから、少しこの作家への見方がぼくの方で変わった。≪新ミステリの女王≫と誰が呼んでいるのか知らないが、この女流作家はミステリの女王という王道をゆく作家ではなく、むしろ多彩な変化球で打者ならぬ読者を幻惑してくるタイプの語り部であるように思う。
事件そのものは『遮断地区』でも特に強く感じられるのだが、時代性と社会性を背景にした骨太のものながら、庶民的な個の感情をベースに人間ドラマをひねり出し、心理の深層を描くことにおいて特に叙述力に秀でた作家なのだと思う。
(以上)
本書はイラクの戦場の砂塵のうちにスタートする。いきなりの爆破。本作ヒーロー、アクランド中尉の顔の左半分が、左目と共に失われる。ハンサムな若者は異形の帰還兵となって世界からスポイルアウトされる。そして連続殺人事件の容疑者としてマークされる。
アクランド中尉の個性、あるいは負傷によって変容してしまったかもしれない個性、が何よりも本書の読みどころであった気がする。何しろ、事件の捜査が動的に移ろいゆく中で、負傷兵としての、あるいは戦場の英雄としての彼は、さらに移ろいやすい存在であるかに見える。しかしむしろ真逆の頑迷さと不変性に鎧われた迷いなき強靭な意志の持ち主のようにも。
禁欲的で、口数が少なく、時に発作に見舞われる後遺症持ちの戦場帰り。こういうキャラクターをミステリの中心に据えて、彼に寄り添うのが、アーノルド・シュワルツェネッガーのような恰好をした巨体の女医師ジャクソン。捜査の中心となる冷徹なベテラン警視ジョーンズ。それぞれにキャラの立った個性的で存在感溢れるバイプレーヤーたち。
さらにロンドンの犯罪の温床みたいな暗闇に蠢く、薬中、ホームレス、男娼、そして謎に満ちた孤独な被害者たち。暴力と犯罪の匂いに満ちた街を、アクランド中尉とその周囲を回遊する人間たちの目くるめく深夜。中尉の元彼女はユナ・サーマン似のコケティッシュな美女として、アクランド中尉とのどうにも掴みにくい距離感を往還する。
迷宮のようにしか見えない国家と個人との隘路を辿る捜査の背景に見えてくる病的な社会と時代を、名手ミネット・ウォルターズはまたしても不思議なメスさばきで、解体してみせる。物語にオフビートなリズムを交えながら、あくまで個性的な物語を紡ぐ作者のペンの切れ味にただただ酔うばかりの一作である。
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イラクに派遣され爆弾で頭と顔に重傷を負ったアクランド。人に触れられるのを恐れ、暴力作的にもなる。アクランドの近くで起きる殺人、周りにいる人たちとの関連。事件の中にある差別と偏見。犯人は誰かという謎と丁寧に描かれつつも核心は描かれていないアクランドの心象。その具合がとてもいい。事件の身近さと複雑さがあって社会問題も描かれどんどん奥行きができていくのが本当に面白い。
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さすが。
今年読んだ翻訳ミステリーの暫定1位。
カリン・スローター好きな人が読むと、登場人物が何人か重なるかも。
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アクランドはイラクで従軍中、爆弾で片目を失い帰国。入院中から女性看護師に嫌悪感を露わにするようになってきた。男性が連続して撲殺される事件が。アクランドが容疑者として浮上する。彼がたまたま出会ったホームレス、元婚約者、担当の精神科医。誰が本当の事を言い、誰が嘘を言っているのか。
「翻訳ミステリーシンジケートの書評七福神の今月の一冊」に挙げられていたり、ネット上でも評価が高い。amazon.ukでは4点以上だった。
しかし、長い。果てしなく長い。600頁ちょつと。アクランドの内面が丹念に描かれ、またジャクソンという医者でありレズビアンであり筋肉モリモリの女性が彼の庇護者として登場してから面白くなるのではあるけれど、そして真相に驚くのではあるけれど、、、
長い。牛丼の並なら20分、フレンチフルコースなら3時間なら適当かと思うが、フルコース(ぐらい美味しい食事)を7時間ぐらいかけて食べた感じ。口が疲れてしまった。もしかすると来年読めばすごく面白いのかも知れない。
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「女彫刻家」で強烈なインパクトを残した作家さん。主人公の始め3分の2と後が人格が変わったのが気になった。うーん、未消化な感じが残った。
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ミネットウォルターズらしい切り口で描いた力作。
イラクで負傷した若き中尉をとりまく人々の心理が明暗交じえ丁寧に描かれている。
好みの分かれる部分はあるかもしれないが、登場人物一人ひとりの生き様が鼓動とともに伝わってくるような、地に足のついた圧倒的な表現力を感じた。
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イラクで爆弾により重傷を負い、片目を失ったアクランド中尉。除隊したあとも孤独を好み、人に触れられると暴力的になる彼は、近隣での連続殺人の嫌疑をかけられるが‥
アクランドの不可解な態度や謎めいた行動の理由はなんなのか。医師や警察の視点から事件の推移を描いて、大変引き込まれた。
この著者の描く女性キャラにはいつも敬服しており、今回は男性が主人公かと思ったが、途中から登場したジャクソンのキャラがまた素晴らしかった。
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戦地での事故により、2人の部下と顔の半分を失ったアクランド中尉。
一命を取り留めたものの、事故後ときにかっと暴力的になり、特に女性に対する嫌悪を強く示すような性格の変容が。
その暴力性が仇となり、市中をにぎわせロンドン警視庁の重要案件となっていた元軍人の連続殴打殺人への容疑者となってしまう。
怪我を理由に退役を余儀なくされたアクランドの社会復帰を支えようとするレズビアン医師のジャクソンの関わりによって心が開かれ、云われない嫌疑が晴れる方向に向かうのかと思いきや、話が進めば進むほど事件との関係が色濃く見え始め、むしろ怪しさの増すアクランド。
運命的な偶然、共時性では片づけられないほどの証拠の重なり、少なくとも何か知っているか、思うところはあるはずだが、一向にまともに口を利こうとしない。
一方、ときに聡明さ発揮し、悪人らしからぬ言動をする。
アクランドの人柄に魅力を感じ、もっと素直になれよと応援しながらも、どこか疑いが拭いきれない。
心理サスペンスの名手ウォルターズによる秀作容疑者ミステリ。
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長いけど、あまり長さを気にせずに最後まで読めた。
犯人と真相がわかると前半の元婚約者に対する中尉の反応とか、元婚約者の行動が腑に落ちて、こんな心理状況だったのかなってのが理解できる。それがわかるまではどういうことなのか考えながら読み進めていくのでそれも楽しい。
途中で出てくるホームレスの少年も嘘つきまくりでどこまでが真実なのか、刑事と一緒に混乱させられた。
この作者らしく、登場人物の行動から内面や心理状態を想像させてくれて読み応えあり。
どなたかも感想で書いていたけど、最初と後半の中尉の性格?行動?が少し一致しなかったように思った。一致しないと言うか変化が急激だった感。そこの変化を少しわかりやすく書いてもらえればよかった。
途中から中尉の世話をやいてくれるレズのお医者さん、すごいいいキャラ!洞察力あって、自分があって、絶対正しいことをしてくれる安心感があるキャラだけど、そんな人も中尉の人間性を見誤ってたかもと不安になったり、そういう描写があってリアル。だから強烈に個性的なキャラだけど現実味があるのかなって思う。
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ミネット・ウォルターズ、深いなぁ…。かなりまで主人公(?)のアクランドに感情移入できなくてこりゃ困ったなと思っていたのに真相が明らかになっていくと腑に落ちるところが多々ありました。彼に関わるお医者さんたちがみんな優しい。
作中ユマ・サーマンのくだりが何度も出てくるのですが、「ガタカ」は観たし、イーサン・ホークとかジュード・ロウ(かっこよかった♡)は覚えてるのにユマ・サーマンのことは何一つ覚えていなかった私が哀しかった。
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ブクログ100冊記念に、一番好きな海外作家ミネット・ウォルターズの作品を。
相変わらず内容は重く辛いのに読みやすい。
かなり甘めだけど、意外に爽やかな読後で星5(かなり星4寄りの星5)。
今作の中心はイラク戦争で負傷した青年。負傷したことによるものか、いつもは物静かだが、時折暴力的な側面を見せるように。
一方、従軍歴を持つ者が撲殺される事件が相次ぐ。負傷し、暴力を振るうようになった青年の犯行なのかどうか。
ウォルターズ特有の、ある事実がわかった途端、登場人物や事件の見え方が180°変わる点は顕在。相変わらず誰が味方かわからない笑。特に今作は題名のとおり、中心となる負傷した青年の見え方がカメレオンの様に非常に良く変わり、最後の最後までどう転ぶかわからなかった。
他の作品にあるロマンス成分も徹底的に排してあり、珍しく青年が犯人なのかどうか、そこだけに集中する作品だった。
もう少し未訳があるので、翻訳を続けて欲しい。。。
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興味深い始まりからどんどん失速してしまい、ジャクソンが出てきたあたりから急に面白くなくなり読むのがしんどかった。犯人も早い段階でわかってしまったし。期待しすぎた。
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この作家の文は、たぶん初めてだ。
硬質な感じの文だが、著者は女性。
主人公が魅力的。英国軍の中尉なのだけれど、イラクで爆撃され、頭、顔に傷を負う。我慢強くストイックに見えるのに、ときに突然暴力を振るう。
孤独な彼を心配する者は、寄り添おうとするが、手痛く拒否される者も多い。特に女性は。
同情からも身を引き、触れられる事を嫌う彼。
同時に、ロンドンでの撲殺事件が語られ始め、主人公との関係があるのか、ないのか。どんどん気がかりな方向に話がすすむ。
事件は続いて起こり、常に主人公の影がチラつく。
警察にも尋問されるが、核心に至ることはつかめず、彼も多くを語ろうとしない。
事件との関わりがあるのか?
けれど、謎が解決されずに時が過ぎる間に、彼を孤独に立ち回らせるに至る出来事も、次第に明らかになる。
家庭環境、戦争、そして女性との関係。
何より主人公が追い詰められていく過程が、テンポ良く、どんどん読める。
主人公が口を閉ざす部分を、彼にかかわった精神科医、医師、後には警察官が、こうであろうという診断や代弁、推測、憶測で語り、彼の本当の気持ちはどうなの?と、もどかしい。
事件に関しては、特別な捜査があるわけではなく、偶然にわかってきた事柄を重ね合わせて解決に至り、なんかスッキリしない感もある。
が、事件にかかわったことで、主人公は少しずつ自分の事を語る事が出来たのではなかっただろうか。
親切にしてくれた人、親身になってくれた人、寄り添ってくれた人とも、最後には別れて出ていくが、これからの彼は、大丈夫という気がする。
もうひとつ、戦争、路上生活者、ジェンダーフリー、家庭問題など、さまざまな社会現象が絡んでくるのも、気になるところではある。