投稿元:
レビューを見る
これは世界観をしっかりと作り込んだ作品だね。こういった傾向のライトノベルを読むのは久々なものだから、最初はどうにも取っ付きにくさを感じてしまったな
でも、人の想いや願いがそのまま世界構造や人の在り様に影響する世界観なのだと理解できてからはそれなりに楽しめたような気がする
島民から迫害を受けるかがりの状況は酷いの一言。
石を投げられ家を焼かれ罵られる。それらはまるで世界そのものが敵に回ったかのよう。
そんな世界に救世主として現れるだろうと伝わる彭寿星の予言。かがり達を不遇の立場に押し込める天颶をあっさりと消し去ってしまう彩紀の姿はまさしくかがりにとっても救世主。世界全てが敵であっても彼が味方として存在するだけで人生が大きく変わりそうだと思えるもの
それを証明するように彩紀の助力によって多数の天颶を物ともせず倒してみせたかがりも救世主に名を連ねたかのよう
けれど、そこで迫害されるかがりの立場が簡単に変わったりしないのが本作の厳しい所。というよりもこの世界の厳しさか
どれだけ人を助けた所で、かがりの見た目が普通の人と異なり天颶と同じ寇魔である事は変わらないし、これまで島民から迫害されてきた事実も変わらない
かがりが人に受け入れられる、ひいては人々が寇魔の圧政から逃れる為には世界構造そのものを壊すような仕置が必要となってくるのだろうね
ただ、世界構造という括りにとらわれて視野を狭くすればそれこそかがりの思考も迫害する者達と変わらなくなる
それを教えようと言わんばかりの彩紀の振る舞いは奇天烈なものが目立つけど、一方でかがりの目を覚ますものになっているね
かがりにとっては寇魔である自分と人間の間には取り払うことが出来ない分厚い壁があるように思われていた。けれど、彩紀に言わせれば寇魔も仙人も人間も同じもの。そこにある違いなんてそれこそ心の持ちよう程度しかないというのは面白い話だったね
だからこそ、仙人として寇魔よりも人間よりも遥かに強いはずの彩紀が世界構造により戦えなくなる展開には驚かされる
結局の所、個人としての強さに関係なく世界を味方にできるかどうかによって境遇が大きく変わってくるのだと理解させられる
そうした認識を持ちながら読み進めていたからこそ、誰にも等しく訪れた地獄のような残虐な光景の中で、世界構造も迫害も関係なく自分がすべき行動を明確にして吠えてみせたかがりの姿が光り輝いているね
彩紀は確かに魔を払う救世主として島に降り立ったのだろうけど、一方でかがりは何者でもない状況で人々の心の救世主となってみせた。その不屈の精神は賞賛すべきものだし、これによって島民たちの行動まで変わったのも納得と言えるもの
ここで物語が終わったら犠牲が有りつつも変わるべきものが変わったビターエンドとなるのだろうけど、ここからの二転三転が目覚ましいものだったね
世界構造を逆手に取った惟依の逆襲、それに負けかけた彩紀を立ち上がらせたかがりの叱咤、そこからの逆転劇
どれも素晴らしいものばかり
だから最終的に都合���良すぎるようなハッピーエンドが展開されても、それはかがりが世界を味方につけられたからであり、大切なものを全て守りきった結果と表現出来るのだろうね
それにしても、この感想書く為に作中に登場する固有名詞を変換するのは骨が折れましたよ……