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裏金、キックバック、脅迫、裏切り――。
薄々サッカーファンも気付き始めている、そんなサッカー界で暗躍する代理人の稼業を描いた物語シリーズの一巻である。
同じくサッカー代理人を描いた能田達規さんの「となりの代理人」が表の代理人を描いているとすれば、こちらは裏の代理人を描く物語になる。
スポーツライターの木崎伸也氏が原作となり、サッカー界の実相が暴かれるような内容だ。
国連で働きたい夢を抱えながら、足踏みする主人公・夏目リサがサッカー代理人業のインターンに合格したところから物語は始まる。
彼女を雇うのは金満代理人と悪名高き先崎恭介。
彼はリサを従えて、テストすると言い、この業界の様々な旧悪を眼前に突き付けていく。
そして彼女に「どう思う?」と問うのだ。
あたかも読者にまで問いかけるかのように。
裏金でアンダー世代代表の親善試合の招集される権利を買い、選手獲得のためにキックバックを約束する。
代理人業の(我々ですら耳にするような)よくある出来事に対して、彼女は真摯に立ち向かっている。
その姿勢こそが物語の軸であり、我々の持つ視点を常にスキャンダラスな世界にぶつけてくれている。
そんな彼女もまた、身内がスキャンダルに絡んだ事実を示唆し。
第一話で契約を結んだ日本人選手・沼田がドイツ移籍でトラブルを抱えた事実をクローズにおいてこの物語は終えられている。
スキャンダラスな世界をエンタメに昇華している、興味深いシリーズである。
大きな謎も柱として用意してあり、主人公の二人が謎へと向かっていく物語構成もまた良い。
大変楽しませていただいた。星五つで評価し、シリーズの刊行に期待したい作品である。