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何気なく手に取り読んだら夢中になりそうだったので買いました。殺人事件の話かと思ったらそうでもなく、女と男の価値観や思想の渦に巻き込まれ、普段考えないことをたくさん考えました。
ギクリとするような人の心理、どんな人でも持ちうる冷たい価値観やドロっとした思想を割とドライに描かれてます。誰かに影響を与えてそれが相手を傷つけて結果的に死んでしまったり、逆に誰かに助けを求め助けられる。社会の作った価値観に勝手に苦しみ、自信をなくし、疲れてしまう。そんな自分の心情を主人公里佳に投影して読んでました。読んでて疲れなかったのは、ある場面ある場面に味方になる人がいて、美味しい食事シーンが出てきたからかもしれません。七面鳥食べてみたいです。
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婚活サイトで知り合った男性にお近づきになり、その人のお金で贅沢な暮らしをする。その人(たち)を殺した疑いで逮捕される。
そんな実際にあった事件をもとにしている。
男性との関係性の中で語られがちなこの事件を、女性の目線でかつ女性との関係性の中で語っている。
柚木さんの本には、女子校出身の人が多く出てくるのだけど、その一種歪んだ世界で培われた考え方の影響がよく表されている。
読んでる途中はねっとりとバターにまとわりつかれてるような気持ちになる。
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やっと読了(忙しかったせいもあるけど,2週間くらいかかった).
フェミニズムと反フェミニズム,女同士の信頼と友情.よく知られた事件を下敷きにはしているが,それにとらわれることなく物語は進む.(本屋さんのダイアナもそうだったけど,吉田修一が物語の中のエピソードの一つとして実際の事件をよく入れるように,柚木先生は実際に起こった事件を下敷きにするのが好きなのだろうか.)
女の人ってこんな風に考えているんだってことが沢山あって,納得したりいろいろ考えさせられたことが多かったんだけど,里佳や伶子がどうしてそこまで傷つくんだろうっていうのも結構あって,うーんやっぱり女性は謎だ(なんていうとフェミニズム的にはアウトかな).
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木嶋早苗事件をモデルにした社会派長編小説というので、
事件の真相にかなり切り込んでいくような内容だと
思っていました。
けれど容疑者とされている梶井と面会をすることになり、
育った家庭環境、恋愛などと様々な事を調べていくうちに
主人公里佳の内面から外見までが変わっていき、
このまま梶井の言われるままになってしまうのかと思ってしまいました。
それだけでなく、梶尾が食に対して貪欲なことから、
彼女から食に関することに一つ一つ課題のようなものが出され
その真相を掴むために今まで殆ど自分とは無縁だったり
興味のなかったグルメや美味しい料理などが
沢山出てくるので途中からグルメ本と勘違いする位の
高価なメニューや美味しそうな料理が沢山出てくるので
夜にこの作品を読むとお腹が空いてくるくらいでした。
里佳が一つの食に関して理解しようとすると同時に
里佳の心の奥底で眠っていた深い闇のようなものが
あぶり出され苦悩する。
それと同時に友人の怜子も徐々に影響されて変わっていく
という予想にもしていなかった展開が繰り広げていったので
とても驚きました。
この本の解説の山本一力さんが書いていたように
女同士・・・それに限らず、人と人との繋がりというのが
書かれていて思わず納得してしまいました。
梶井が言った
「私が欲しいのは崇拝者だけ。友達なんていらないの」
という言葉。
本当は友達が欲しいからこんなことを言って虚勢を
張ることしか出来なかったのかもしれないと思いました。
そんな言葉を聞いた里佳だからこそ
身近にいる親友が改めて愛しい友達と思えて
ある場面からぐっと心の距離を縮ませるような
言動や行動を取っていたのが分かりました。
そしてラストには作品の初めとはまるで別人のような
里佳になりこれからの明るい未来を清々しく
描かれていたので心がとろけるような思いになりました。
印象的な言葉で
「もし神様がいるとしたら、私たちが与えられた試練に
苦しむのを見て、満足したり、喜んだりしないんじゃないのかなって。
だから、何もかも自力で乗り越えなきゃいけないわけじゃないよ。
成長をし続けなきゃいけないわけでもないよ。
そんなことより、今日一日をやり終えることの方がずっと大事」
女性が生きていく中で様々なしがらみや理不尽なことが
沢山出てくると思います。
けれどそんな時に何でもかんでも自分で乗り越えて
完璧にしなくても、自分なりに日々を満足に
乗り越えていくことが大事はないかということが
心に響いてきました。
想像をしていた内容の展開とはだいぶ違った内容でしたが、
女性同士の友情や距離感のとり方など参考にできる所が
多々あり奥深い作品だと思いました。
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実際に起こった、あの印象的な事件を彷彿とさせる小説。
登場人物の男性たち、女性たち、その人間関係と、被告が語る料理のレシピ。
『BUTTER』というタイトルの付け方は秀逸。
ボリュームがある作品なので読了するまでに時間がかかったが、読んでいる間にスーパーに行くと、バター絡みの食品に引き寄せられた程、無意識の内に囚われてしまっていた。
裁判の結果がどうなったかなど気にならなかった程、それぞれの人間性が描かれていて、とても読み応えがあった。
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木嶋佳苗の事件を元にした作品、と言うことで、読むか読むまいか、結構長いこと悩んだ。最終的には、皆さんのレビューを読んだり、装丁の軽やかさに騙されて(?苦笑)、読むことにした。
悩んだのは、この事件が、自分にとって衝撃的だったから。
この事件について触れる時、よく言われるように「なぜ、若く美しくもない女性に沢山の裕福な男性が騙されたのか」と言うことについて。良くないな、と嫌悪の気持ちがあるにも関わらず、自分も少なからず、そういう疑問を持ってしまっていたし、逮捕後に更に驚かされた、獄中結婚を繰り返していた上に、大手出版社の男性と結婚したことなど。
なんと表現していいのか分からないけど、単純に、高級なものを食べて、高級なものを身に着けて、楽して生きたい女性が、孤独な中高年男性に取り入って、お金をもらっていた、と言う単純ではない何か、知ってしまったら深い闇から心が抜け出せなくなりそうな。そんな怖さがあったから。
読んでみて思ったのは、少し思ったのとは違うな、と言うこと。もう少し、実際の事件に忠実なのかと思っていたが、そうではないかな、と。解説でも、『物語が進むにつれて、事件からも犯罪者からも遠ざかる。独立したオリジナリティーにとんだ物語が展開される。』と書かれているが、そんな印象だ。そして、解説者は、この小説は『女性同士の友情と信頼』『ひととひととのつながり、信頼を、作者が信じている物語』だと言っている。
私自身も、実際の事件とは、遠ざかっていくな、作者が書きたいことは、あの事件の真相、そこに潜む闇を明らかにしたい、と言うことではないのだな、と感じた。そこを知りたいのあれば、巻末にあったノンフィクションの方を読むべきなのだろうな・・・しかし、この作品を読み終わった今、もう濃厚なバターで胸やけがしているみたいで、すぐには無理だな。
とはいえ、若くない女・美しくない女・太っている女が世の中からどうやって見られるのかとか、女はこうあるべき、という世の中の価値観とか、そういうものは、実際の事件を割と忠実にベースにしていると思われる。
そういう社会の空気が背景にあって、生きづらさを抱えて生きてきたからと言って、カジマナのような生き方を選ぶことはやはり特殊としか言いようがないし、やってしまったことは許されようもないのだけど、
それでも、容姿のこと、女が背負わされている役割、赤ちゃんのこと、育児のこと、そういうことについては、厳然として社会に存在しているし、そのことを、自覚もしていないし、自覚はあっても問題だと思っていない男性、いや女性自身も多いことを思うと、暗澹たる気持ちになる。
この本を読む前に、たまたま、【さよなら、男社会】というノンフィクション(エッセー?)を読んでいたこともあり、あー、また男と女の問題か、と作中のバターたっぷりの料理の描写とともに、胸やけがしてうんざりしてしまっていたのだが、そこに来て、現実でも、森会長の五輪組織委員会での女性蔑視発言が起こり。あぁぁぁ、根深い問題だな、と重い気分が増長された。
救いは、毎日TVでも取り上げられ、SNSではさらに#わきまえない女がトレンド入りした���、複数の国の在日大使館が#Don'tBeSilent #GenderEqualityと続々と声をあげていること。まさに、これまで黙って、笑って、仕方ないと流してくるしかなかった、この問題に黙らなくてもいい空気が少しだけでもできてきたことかな。
・・・とすっかり、この本のレビューとは遠ざかってしまったな。
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サスペンスっぽい感じなのかなと思っていたけど、ちょっと違っていた。
女性として大人として生きていく上でのモヤモヤがつめこまれていた。
かじまなが最初は理解できない怖い存在だったけど、最後は少しかわいそうな人だなと思った。
自分のために自分の好きなものの世界を広げたい。
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想像に反して、女と男の物語ではなく、女同士の友情や絆が大きなテーマだった。婚活殺人容疑の女(カジマナ)の言葉によって、主人公(雑誌の記者)とその親友、周りの人々の人生が変化していく。
女が主人公に食べろと指示するさまざまな料理が、すごく興味深くて美味しそうで、ふだん自分の作る手抜き料理をちょっと反省させられた。なんだかしゃくにさわる。
女の友情+グルメ=読み終わって満腹感、がすごかった!
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柚木さんの作品は、リアリティのある登場人物が抱えている人間の狂気性を生々しく描き出すところが最大の魅力だ。里佳がカジマナに飲み込まれていく様は背筋がゾクゾクした。現実感のある人物造形が他人事ではないと思わせるのだろう。
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女性として、一人の人間としての、生き方を、考えさせられ、自分自身にも、自問する事が出来る良作!
更に、出てくる料理の美味しそうな事といったら、食べ物の、描写が、秀逸で、いくつも食べてしまった!!里佳と共に、体重が、増えたかも!
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実際に起きた首都圏連続不審死事件を題材に描かれています。
600ページ近くあるのでボリュームあり。
作中にバターをたっぷり使った料理が多数登場するので、胸焼けするかも?笑
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著者の『本屋さんのダイアナ』は正直苦手だった。女同士のくどくどしたやり取りを煩わしく感じてしまい、興味を持てなかった。
一方、こちらの作品は実際にあった事件がベースになっているだけあって、より社会派小説に仕上がっている。
「解説」で指摘されているとおり、事件や容疑者の真相がフォーカスされているようでいて、女同士の友情と信頼がこの作品の本当のテーマだと思う。
著者の他の作品と比べて読み応えがあるが、個性的な登場人物と容疑者にまつわる独特のストーリーが面白くて、ページをめくる手が止まらない。
著者の代表作になること間違いなし。
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かなり骨太な小説。1ヶ月くらいかかったけど読み進めるにつれて読むスピードが上がった。
獄中の人間がこうも人を操れるのかと、感心してしまった。カジマナと出会った男性は良くない方向に進み、逆に何らかの引力によってカジマナに引き寄せられた女性は、自分の本当の願いに気づくことができていた。女性の立ち上がる強さ、芯がある様が表現されているように思えた。
物語が進むにつれてカジマナの性格が暴かれていく。自分は先を読むことが全くできず、逆に主人公の記者は次々と仮説を立てて解明していき、記者の本質を捉える能力さすが。もっとちゃんと考えようと思う。
物語終盤にかけては、人と人とのつながりにフォーカスしていたような。人をどんどん頼ろうとも思えたし、頼って良いんだよ、と声をかけてくれるような小説でもあった。人はみんな意味を求めて生きていそうで、その意味を作るのは人の頼るという行為なのかも。
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これは衝撃的な作品だ。ストーリーの展開が読めなくて続きが気になる。登場人物がみな、何らかの形で生きづらさを感じていて、ため息や時に叫びを読者が感じ取ってしまう。
柚木さんの小説は、女の友情を取り扱ったものが多く、これもその一つだけども、ほかの作品では女の影に隠れて存在感薄い男達が、本書ではわりとくっきり描かれている。
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この作品によって心の一部をえぐられてしまったのか、弱ったメンタルにこの作品が一撃をくらわしたのか、わからない。
ずっしりとした内容の作品でも、読了後は多かれ少なかれ爽快感があったり、生命力が溢れ出してきたりするものだけれど、この作品を読み終えた今、なぜかそういった感情は沸いてこず、ぐりぐりとした違和感がわたしの心を支配している。台風の季節とともに、わたしの心の中にも、台風ができたかのようだ。
この作品は2007年から2009年にかけて実際に起こった「首都圏連続不審死事件」を基にしている。いわゆる「木嶋佳苗による連続殺人事件」だ。こうした、ある事件を土台としたフィクションはこれまでにも読んできていて、塩田武士さんの「罪の声」や姫野カオルコさんの「彼女は頭が悪いから」などが該当する。いずれも、ものすごいエネルギーが注がれていて、そこから作家さんの並々ならぬ強い思いが伝わってきて、かなり印象に残っている。本作品も同様に、ものすごいエネルギーと取材量が伝わってきて、圧倒されているところだ。
「罪の声」を読んだ時、Wikipediaで事件を追いながら読むと、日時がまるで同じだった。「彼女は頭が悪いから」を読んだ時、実際の事件とぴたりと重なる言葉と情景がそこにはあった。本作「BUTTER」はどうか。3人の被害者が亡くなっているという点では実際の事件と同じだが、その殺害方法などは実際の木嶋佳苗によるものと異なっていた。だから、解説と帯で山本一力さんが「物語が進むにつれて、事件からも犯罪者からも遠ざかる。独立したオリジナリティーに富んだ物語が展開される」と描いているように、完全なノンフィクション小説とは異なる。しかし、読了後に木嶋佳苗のブログを目にしたり、獄中結婚についての記事を見たりすると、木嶋佳苗という人物像からは、絶対に軸をぶらさずに描いているということがわかる。ブログは特に、読んでいると途中で文章が入ってこなくなって、何を言っているのか、何を言いたいのか、分からなくなってくる。少し、頭がおかしくなってくるのだ。
なぜこんなにも今、読了後にポジティブな感情がなく、ネガティブな感情がわたしを支配しているのか。もしかしたらわたしも、木嶋佳苗、いや、梶井真奈子に、心を持っていかれてしまったのではないか。だからこんなにも疲れていて、それなのに近所の図書館へ走り、参考文献に載っていた本を借りに行ってしまったのではないか。
柚木さんの作品は初。帯には「各詩誌で大絶賛の渾身作」「読みながら震えが止まらなかった」「脳髄がしびれた」「ノンフィクション・ノベルの名著として歴史に名を残すことは間違いない」と絶賛するうたい文句が並ぶ。社会派という好きなジャンルの作品であることも相まって、ものすごく期待をして読み始めた。が、読了後、この有様である。
この作品の中で、主人公の里佳は記者として、徹底的にカジマナと向き合う。彼女に振り回され、どんどん変化していく。周りは里佳を心配するが、里佳は止まらない。止められないのだ。もっともっとと、取材を重ね、カジマナとの関係にも変化が生じていく。里佳が大切にしてきたものが、次々損なわれてゆく。
変化は、人を不安にさせ���。
けれど、同時にもっと大切なものにも気付かされる。
知っているものに対しての安心感、知らないもの・変化していくものに対しての恐怖感。人間や社会は、圧倒的に後者だ。例えば、友人が結婚したり、子どもができると、その友人との関係性に変化が生じる。女性であれば、距離を置く人もいるだろう。これまで普通に一緒に過ごしていた友人が、母親になっていく姿。友人が自分の知らない人になってしまうのではないか、と、人によっては、それは恐怖に値する。一方前者は、自分自身を守ってくれるものではあるけれど、人間関係にあてはめると、依存や支配的な関係を生み出す。どうすれば相手が自分を見てくれるのか、それを一度知ってしまえば、あとは似たような相手を見つけるだけだ。それを繰り返す。閉鎖的な人間関係の中で、ただただ、蜜だけを吸う生活。カジマナからしたら、それがたまたま結婚詐欺だった、というだけの話なんだろう。事実としては、3人の男性が、命と、億単位の金銭を奪われているにも関わらず。
なぜ本作品のタイトルが「BUTTER」なのか。読む前は全くわからなかったこのタイトル。
作中にたくさん出てくるバターの描写、ブクログのレビューでも見かける「絶対バターが食べたくなる」という感想。それには騙されないぞ、と必死にあがいたところで、やはりバター醤油ごはんと、エシレバターが食べたくなりました。友人の結婚式の引き出物のカタログに載っていた「ばたぁめし」とにらめっこを繰り返しました。
バターは、塊の状態と、完全に溶けた状態と、その中間、少し塊が残っている状態と、全て味が異なる。この作品の読了直後、バターの塊状態だったわたしの心が、こうして言葉にすることで、少しだけその塊が溶け出して、心の中に広がっていこうとしている。あたたかいトーストに載せた時と同じくらい、バターが溶けだしている。きっとこうして、少しずつ時間が経つにつれ、どんどん溶け出したり、あるいは固まったりして、形を変えてゆく。作品が、わたしの中に落とし込まれてゆく。あなたには、どんなバターの味がするのだろう。ある人には、それは塊のバターのもったりとした味わいに、またある人には、形がなくなったバターのとろりとした味わいに。やけどにも、お気をつけて。