紙の本
生物の多様性とその面白さを知ることができる動物分類学の入門書です!
2021/03/05 10:39
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、生物学を専門に研究され、『深海生物テヅルモヅルの謎を追え! 』などの著作で、日本動物学会論文賞や藤井賞、日本動物分類学会奨励賞などを受賞されている岡西政典氏の作品です。同書の中で筆者は、「<新種発見>と聞くと滅多にない大ニュースとの印象を受けますが、地球上にはまだ数百万種以上もの未知種がいるとされ、誰もが新種に出会える可能性があります」と述べられています。同書は新種発見、特に生物に新しい名前を与え、適切なカテゴリーに振り分けることに日々取り組む動物分類学の入門書です。生物分類・命名法の基本から採集の楽しみ、論文発表の苦労と喜び、今後の動物分類学の可能性までを概説しています。生物の多様性とおもしろさを知ることができます。
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動物分類学の専門家が、その仕事を紹介した本。動物分類学の学者は、地球上に存在する動物を体系的に分類することが仕事であるが、動物がどのように分類分けされているのか、その体系や名前の付け方など、その方法を新種の発見時を例に詳しく述べている。日本でおなじみのサザエは、最近になって正確な名前が付けられられた(系統付けられた)などのトピックスも盛り込まれており、興味深かった。
「新種の発見は、実はさほど珍しいものではない。この地球はまだ見ぬ新種に満ち溢れている」pi
「新種が発見されるペースは一向に落ちる気配がない。このことから導き出される事実は2つである。1つは、生物が、私たちの思っている以上に多様であること。そしてもう1つは、生物を命名する学問分野がいたって人手不足であるということである」pii
「この研究話には、重要なことを2つ含めたつもりだ。1つは、私が最初にその新種の標本を発見したときに、それが新種であると全く気付かなかったこと、そして2つ目は、私が新種を認識してから発表するまでに、丸々2年がかかっていることである」p8
「学名は、英語でもフランス語でもなく、全てラテン語で表記するように定められている」p20
「生物学的には、太陽光のほとんどが届かなくなる200m以深を深海と呼ぶが、海洋でこの深海域の占める割合は、その海底面積で92%、体積では99%に及ぶ。意外なことに、地球環境のなかでは我々人類にとってアクセスが非常に難しい深海域が、地球の生命圏の過半数を占めている」p36
「ノーベル賞学者 本庶佑「『nature』や『Sciense』に出ているものの9割は嘘で、10年経ったら残って1割」」p88
「身近な問題で解決できないからと諦めるのではなく、歯を食いしばり、どんなに古い文献であろうが収集し、言語にかかわらず目を通し、あちこち駆けずり回って標本の収集を行えるかどうかが、分類学の1つの分水嶺だ。諦めずに、古今東西の文献収集と標本観察を継続していれば、突然目の前の生物の特徴が、名前が、スッと理解できるようになる瞬間が訪れる。これは私の実体験や、いろいろな分類学者に話を聞いた経験に基づくが、分類学の入り口でもがきつづけた者には、なぜかこのような臨界点を突破する瞬間が訪れるのだ」p153
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(ヒトデに似ている)クモヒトデの仲間テヅルモヅルの研究者による動物分類学解説書。ちゃんとサブタイトルに「見つけ、名づけ、系統づける動物分類学」とあるのに、私は本を読み終えるまで「植物が入ってないなー」などと変な違和感を感じ続けていたのでしたorz
書店で立ち読みした時にはテヅルモヅル関連しか載っていないような印象を受けたのですが、実際に読んでみるとそんなことは全くありませんでした。リンネに始まる分類学の基礎、歴史、そして命名規則の紹介まで、分類学のことが素人の私にも見えてくるように解説された良書です。さらには、どうすれば分類学者になれるかも書かれています(第四章1節及びあとがき部分に)。
ただし「ちょっと気持ち悪い動物の写真が載っていても大丈夫な人」しか読めないかも知れません(少ししか載ってませんけどね)。
以下つまみ食い。
①ヒアリを元にして「リンネの階層式分類大系」を説明。ご存じのようにラテン語で命名。
ドメイン:真核生物ドメイン(Eukarya)
界 :動物界(Animalia)
上門:
門 :節足動物門(Arthropoda)
亜門: 六脚亜門(Hexapoda)
綱 :昆虫綱(Insecta)
亜綱: 双丘亜綱(Dicondylia)
下綱: 有翅下綱(Pterygota)
節 : 膜翅節(Hymenopterida)
上目:
目 :ハチ目(膜翅目)(Hymenoptera)
亜目: 細腰亜目(ハチ亜目)(Apocrita)
上科: スズメバチ上科(Vespoidea)
科 :アリ科(Formicidae)
亜科: フタフシアリ亜科(Myrmicinae)
族 :
亜族:
属 :トフシアリ属 Solenopsis
亜属:
種 :ヒアリ(Solenopsis invicta)
亜種:
なおヒアリを示す「種名」だけは二単語から記述されている(イタリックで表記するのは、決まりではなく印刷上の習わしだそうですが)。これが「リンネの階層式分類大系」のもう一つの特徴である「二語名法」だそうです。ヒアリ Solenopsis invicta ならば属名 Solenopsis と「種小名」invicta から構成されるわけですね。リンネ以前は、種小名1単語だけではなく、ながーい説明文(であり定義でもある)名前が付けられていたようです。しかしこれだと動物の定義がさらに細かくなると名前が変わってしまう。そこでリンネは名前を単なる記号にしてしまい、定義が変わったり細かくなったりしても、名前は変わらないようにした。これで名前が安定して、安心して生き物を指し示せるようになった、と。
②日本でとても有名な貝であるサザエに近年まで学名が与えられておらず、2017年になってようやく Turbo sazae が与えられた(つまり新種になった!)ことが(その経緯を含めて詳細に)書かれており、とても驚きました。詳しく知りたい方は第四章4節をお読みください(要約しようとしたら長すぎた)。もしくは岡山大学からのプレスリリースをご覧ください。
「驚愕の新種! その名は「サザエ」 〜 250年にわたる壮大な伝言ゲーム 〜 - 国立大学法人 岡山大学
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id468.html 」
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地球上にはまだ数百万種以上もの未知種がいるとされ、誰もが新種に出会える可能性がある。生物の多様性とおもしろさを知る方法を伝授
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新種を発見したときのお作法が丁寧に解説されており、いずれ私も新種と思しき生物を発見したら…なんてことは起きないと思うけど、万が一に備えて、気になっている分類群について文献を集めるところから始めてみようかしら。
もっと若い頃にこういう学問の存在を知っていたら、専門的に学んでみたかったな。