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『そう、物語。ほんとうの世界は、ただの断片からなっているだけで、見渡すことなどなかなかできないはずなのに、ぼくたちはみんな、その断片をつなぎあわせて、自分のためのお話をいつも作りあげているんじゃないかな』―『昔の章』
どこかで読んだ記憶。川上弘美は新しい言葉に出会うとそれを手帳に書き写すそう。理由は書かれていなかったかも知れないが、こんなことを想像する。たとえそれが日本語の言葉であっても、見知って間もない時にその言葉を使おうとすると、英単語をカタカナに読み下しただけの言葉と同じように感情のこもらない言葉となってしまう。手帳の中で熟成させ自らのものとなったと思える時にそっとさりげなく使ってみる。そんな古風な響きのする言葉によって思考に句読点が打たれる。そういう言葉たちが積もりつもってあの独特の文体に至る。そんな風に考えてみたりする。
「三度目の恋」にはそんな風に写し取られたであろう言葉が其処彼処にこれでもかと出現する。生真面目な、学んだ通りの意味合いをたがわぬように置かれた言葉。川上弘美節とでも言いたくなるようなたおやかさとは少し異なって。そのことが災いしてか、読みながら少しざわついた心持ちとなる。翻訳ものではない単行本としては珍しい著者自らのあとがきで、その小さな違和感の元が何であるのかは大方説明がつくのではあるけれど。この本は小説というよりは川上弘美の思考実験。
江戸時代の花魁、平安の世の女房の心。そんなものが現代人として沁みついている価値観を離れて理解できるのか。この本では、小説の体裁を借りながら、その異なる時代の価値観の隔たりを、どこか道徳の教本を思い起こさせる理屈で解こうとする試みのようにも読める。理解の手掛かりとするのは女であるという共通性。女としての情愛の感じ方。それだけに、決して数学や物理のように誰しも同じ結論に辿り着くとは限らないと判りつつ、三段論法的に理解の歩を進める様子が道徳の教本で見かける口調を思い起こさせる。とはいえ、理解の中身は現代人としての倫理観に拘泥することはない。男女の間柄を互いを活かし活かされる構図と捉えることへ徐々に向かう主人公の思考。にも拘らず深く残る男と女の彼我の差。
余りに異なる価値観を認めつつ、現代人として理解できる形に何とか丸め込もうとする主人公と作家の立ち位置はほぼ同じところにあるようにすら思える。あるいは、主人公である現代人の主婦に作家の秘めた心持ちを強制している、と言ってみてもよいのか。これまで余り川上弘美の小説でそんな風に思ったことはないけれど、この小説では余りにも理屈っぽく主人公が情愛について捉えている様を読みつつ、作家が言いたいことが透けて見えてくるような感覚にとりつかれる。もちろんそんな風に読むものではないと思いつつ、主人公が熱く語る情愛や子育て、主婦としての矜持などを読むと、ついつい作家の来し方を重ねてしまう誘惑がそこには、ある。
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たゆたうように流れていく文章と、それにまつわる感情。まるで境目を感じない、現代とむかしとむかしむかし。当たり前のように自然と異世界を取り込む川上さんの手法は何度か読んできたけれど、この時空を超えた物語には今までで一番惹き付けられた。現代の梨子と高丘。江戸の吉原、春月と高田。平安の世の女房と真如。時代が変われば繋がり方もまた変わり、しかし真に繋がっている者たちは何処かで必ず出会うことができる。大人なファンタジーとしてひどく憧れてしまう物語だった。そして、江戸の吉原にしても、平安の生活にしても、まるで見てきたような時代考証や言葉遣いでさらっと表現している川上さんの凄さを体感できる素晴らしい作品であった。
ナーちゃんにも業平にもならなくていいけれど、誰かにとっての高丘さんにはなってみたいな、と思った。
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夢とうつつを幾度となく行き交い、その時代を生きる一人の女として恋に落ちる。
江戸時代、平安時代、そして現代。
女はみんなその時代の”さだめ”を受け入れ、時代の波を静かに、時に荒々しく渡っていく。
そんな女たちの恋する気持ちはいつの世も変わることはない。
恋することは苦しい、切ない、愛(かな)しい、そして、いとおしい。
伊勢物語をモチーフにした川上さんの渾身作。
年明け早々とても優雅な気持ちに浸れていい気分を味わった。
私もたとえ夢の中でもいいからこんな風に時代を渡り歩き、その時代の殿方とその時代に似合った恋に落ちてみたい。
特に平安時代の開放的で艶めいた恋愛にどっぷり浸かってみたい。
新年早々素敵な夢を見させてもらった。
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366)主婦業は1つ1つの仕事ではプロの技に劣るかもしれないけどものすごく多方面の仕事が家庭にはあって、その全部を1人で取り捌くのは本当に大変。家庭の仕事全部をまるごとやってくれるような業者は存在しない。昔のお手伝いさんだって一家の主婦の指示のもと働いていた。アマチュア的プロフェッショナリズムが必要な仕事はこの世には他にない。
367)外仕事は人さまの決断に従わなければならないストレス、家仕事は自分で決断しなければならないストレスが大きい。
375)女は家にいて夫の背後を守るものという時代の中で培われた母の価値観を覆すのは到底無理だとわかってきた。朽ちつつある帝国の法令を母という口伝の徒がまるで古事記の元となる文言を誦習した稗田阿礼のごとく口にしているのだと思うようにしている。
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梨子、ナーちゃん、高丘さん、くすこさん
昔:江戸吉原の春月、高田
昔昔:姫の女房、業平、五条の姫、高丘親王(真如)、薬子さま
今の愛、江戸遊女の愛、そして、平安の愛しい。
愛(かな)しい。愛(かな)しむ ―― いとしすぎて切ない ―― を大切にしていきたくなる本です。
内容(「BOOK」データベースより)
結婚したのは、唯一無二のはずだったひと。教えてもらった“魔法”でむかしむかしの世に旅に出るようになるまでは…千年の時を超える極上の恋愛小説。
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とても不思議な物語でした。
引っ掛かりがなくスイスイ読めました。
「うつし世はゆめ 夜の夢こそまこと」なのかも…
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夢と現実を行ったり来たり。昔の遊女だった頃昔々の女房だった頃、そして現在の梨子。其々の恋があって現在と通じている、ナーちゃん高丘さんの存在。読み終えて込み上げる愛しさは誰に対してだったのだろう。
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伊勢物語と高丘親王航海記に着想を受けた本。とはいえ内容はいつもの川上弘美節。過去と現在を自由に行き来する筆致は滑らかだけど読み応えもある。終始女性目線で、男性は生理的に好き嫌いがあるかも。
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主人公が、幼い頃から憧れた男性と結婚し、そのことを唯一打ち明けた男性と夢の中で繋がる話が、江戸時代の吉原の遊女や、伊勢物語の藤原業平の話とシンクロし、川上ワールドに惹き込まれてあっという間に読了したが、後半スピードが落ちて、最後のオチがちょっと納得いかなかった。
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「伊勢物語」をモチーフにした「高丘親王航海記」のオマージュ本。
主人公の梨子が現実と夢の中の江戸、平安を行き来しながら、真の愛に浸かっていく…脇目もふらず、ただひたすら一生懸命に好きになった人のことを思い出した。
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業平が女性にモテたことは、高校の古典の先生から教わりました。昔の恋愛にはおおらかで、一途で、ラブレターに想いを綴る誠実さがありましたね。
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現代、平安時代、江戸時代と三つの時代をリンクする幻想的恋物語。
著者の「伊勢物語」、澁澤龍彦の「高丘親王航海記」に対するオマージュも込めた作品でもある。
教科書等で古典の題材としてしかほとんど接することのなかった「伊勢物語」や平安時代や江戸時代の風俗、習慣、恋愛模様が物語として語られ、とてもわかりやすいものとなっている。恋愛や結婚の形は時代時代で変遷していく。今の時代の常識や感情では測れないものもあると感じた。
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伊勢物語をモチーフにした小説。とはいっても、古文も国語もまともに学ばなかった身分にはよくわかっていないけれど、業平は知っている(笑)
人間の性は時代が違えども輪廻する。こんな素敵な男たちが周りにいれば・・・という限定だとも思うけど。
昔、昔昔、そして今を漂う浮遊感が居心地がいいのか悪いのか不思議な世界に漂う。現実もそんなものかと思うとすべてが腑に落ちる。
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2021.4.4市立図書館
主人公の語りは近しい人の声を聞くようで、するする読める。江戸の吉原の遊女の世界、平安の女房の世界という夢と現を行き来するふしぎな展開でもするするついていける。なーちゃんはやっぱり在原業平(伊勢物語)だろうな、そしてちょっと光源氏っぽい雰囲気も(光源氏のモデルが業平だとも言われているから当たり前か)。それより、高野山にいたこともあるという元小学校用務員の高丘さんはずばり高丘親王(←先にそちらを知っていたのがちょっとうれしい)を連想させるし…。と、冒頭からぞくぞくしながら読み進んでいくうちに、案の定、澁澤龍彦「高丘親王航海記」へのオマージュだとわかってくる。ちょうどこのあいだよんだばかりの「あの子は貴族」の主人公ともと重なるような箱入りで大事に育てられた主人公の成長…幼い恋を成就させた主人公が人生の苦味やわりなさを知り、とまどいなやみながらも少しずつ自分をふくらませて、だんだんとかろやかに生きられるようになっていくのがいとしい。「伊勢物語」で有名な業平と高子の段、高丘親王と薬子のふしぎな関係が時空を超え姿を変えて変奏されるゆたかで長い人生を主人公とともに体験しながら、ふしぎとみたされた気持ちになれた。平安の京言葉、江戸の廓言葉という切り替えもよかった。
三谷一馬『江戸吉原図聚』(中公文庫)をみてみたい。川上弘美現代語訳の伊勢物語も一度は読まねばね。
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とても時間がかかってしまった。
読みやすく、綺麗な文章なのだけど、
伊勢物語がベースになっているとか。
歴史が苦手な私には少しハードルが高かったかな。
ちゃんと日本の古典も嗜んだ上で
読んだらすごく良いお話だと思います。
自分が残念…