紙の本
今どきこういう小説を書く人がいるのかあ、と思った。
2021/09/23 23:33
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投稿者:Eternal Kaoru - この投稿者のレビュー一覧を見る
表題作について。古典的な怪談風の語り口でベタな怪談が語られますが、因果関係が全部説明されていて、かつ話が一段落した後にもダメ押しでしつこく因果関係が説明されます。「もうわかりましたよ、その話さっき聞きましたよ」と辟易するくらい説明過多です。この現代にこういう怪奇小説を書く人がいまだいるのにびっくりしました。
この作者は古典的な怪奇小説が好きで好きでたまらないのでしょう。その愛好心はよくわかりますし、自分でも書いてみたい、という志もよくわかります。しかしこの作者は怪奇小説の要諦を見落としています。因果関係が全部説明されてしまう怪奇小説は単なる「因果話」であり、怖くも何ともないのです。
誰でも知っている例で申しますと、『エクソシスト』で本当に怖いのは別人になったリーガンの狂態ではありません。なんで悪霊がリーガンに憑依したのか、その理由が全然わからないところに恐怖の核心があるわけです。リーガンが「そりゃあ悪魔にも取り憑かれるだろう」という極悪人ないし不良少女だったり、「そりゃあ悪魔も狙うだろう」という天使の如き信心厚い少女だったりしたら、あの小説は怖くも何ともありません。
その観点から見ると、怪奇小説の傑作と呼ばれる作品は、どこかに未解明・未解決の謎を必ず残しています。ヘンリー・ジェイムズやデ・ラ・メアのように未解明・未解決を正面に打ち出す作家のみならず、一見平明・明快な岡本綺堂やM.R.ジェイムズにしたところで、必ず謎を残しています(岡本綺堂の場合、英米怪奇小説を渉猟していました)。だから忘れられない不気味さがいつまでも残り、傑作たり得ているのです。本作のように「こういうことだからこうなって、そうなったのはこういうわけで」と全部説明されては怖さが全く生じません。
表題作以外の作品はいずれも表題作と異なる作風ですが、説明過剰のこの作者の悪い癖が出て、せっかくいい雰囲気が出ているのに最後の方でぶち壊しになっているように感じました。
翻訳が良いのと、創元推理文庫がこういう地味な翻訳怪奇小説を出版してくれた(昔はこの路線だったので、この路線に回帰してくれることを希望)ことに対して星を3個。
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図書室、怪奇小説、クラシックな香り、英国ゴーストストーリーなどと言われれば、そりゃついつい。表題作はまさにそれなんですけど、意外にも他の3篇が私の好みでした。
仄暗く端正なゴーストストーリーで、とても現代の作品とは思えないほど。100年前の作品と言われても信じてしまいますよ私は。
ああ面白かった。
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いつの時代設定なんだろう…と思うほど、クラシカルな空気感に、懐かしさを覚えました。
私のミステリー好きは、ポーやドイルなので、ポーを研究されてる作者に、ポーの雰囲気を感じることができました。
特に好きなのは『六月二十四日』
ポーからの乱歩みたいなお話で、ワクワクしました!
お屋敷の図書館ってだけでも、ワクワクですけどね!
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古書を巡るミステリホラー。
図書館の怪は私のときめきスイッチを見事に付いた作品で、読んでいて、楽しかった!
この本がほぼ無傷で見つかったら、凄いお値段がつくだろなσ^_^;
欲しいとは思わんけど、見てみたいかな。
でも、エッダの王室写本ほどじゃないか。
蔵書家は惹かれる作品だと思う。
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古式ゆかしい、英国流ゴースト・ストーリーを、あえて現代風にモデファイせずにそのままやっている感じ。お話としては死霊の復讐だったり、異界からの誘惑だったり。正直怖いとは思わないけれど、この雰囲気は楽しい。
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領主とか領館、執事、家令といった言葉が出てくるだけで雰囲気が出来上がってしまうのってズルいと思う。
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クラシカルというのと、どこかで見たような話というのは違う。
全体的にぼんやりしてこれといったウリがない。
特に怖くはないし、文章が上手いわけでもネタが面白いわけでもタメになるわけでもない。
何度か寝そうになった。
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図書館で。
ミステリーのような、ホラーのような、不思議な小説。
中世からの旧家というかお城の図書室とか、確かに入ってみたいなぁ。ちょっと怖いけど。そのちょっと怖いが大分怖いに格上げされているようなお話でしたが。
それにしても日本だと旧家の蔵に所蔵されていた書物とか巻物になるのかなぁ?
それはそれで怖そうだな。
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クラシックな英国ゴーストストーリー短編集。
というか、表題作「図書室の怪」は中編ですね。屋敷の古い図書室に秘められた謎、妻の不審な死、そして現れる亡霊と過去の恐るべき犯罪、と魅力的な要素は揃い踏み。じわじわと迫りくる不吉な雰囲気に浸りつつじっくり読みたい作品です。が、まさか終盤これほどまでの恐ろしい展開になるだなんて……! そしてどこまでも断ち切ることのできない因果の重さが後を引きます。
「ゴルゴタの丘」も好きな作品。これまた王道のクラシックホラーだけれど。やはりこういうのは好きだなあ。
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2017年刊。
作者はイギリスの人で、もともとエドガー・ポーなどのミステリや怪奇小説を研究してきた学者さんのようで、本作は初めての小説。
表題作は200ページにわたる中編で、その後に短いのが3編入っている。
現代において書かれながら、古き良き19世紀古典怪奇小説のスタイルで、そのアナクロ趣味が特徴である。作曲でも21世紀の現在においてもドイツのバロック時代の音楽を模倣し続けている人もいるし、人さまざまな中に、このような作品があっても悪くはない。
さて実際に読んでみると、表題作はせっかくの王道的な怪奇プロットが、どうも文章に緊張感がなくて生かされない。書法がどうも上手くないのである。そこはやはり「駆け出し作家」というところか。全編、どうにもぼんやりしているし、クライマックスももうちょっと上手く書けそうなものなのに、ともったいなく思った。
むしろ最後の「ゴルゴタの丘」の後半、クライマックスから末尾にかけてが迫力をもって上手く書けていた。