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本書では直接触れられていないけれど、民主主義を議論するときにまず思い浮かぶのは、「選挙参加のパラドクス」です。投票に行くメリットは以下の数式で表され、これが投票に行くコストよりも大きいとき、合理的な人間は投票所に行くはずです。
・投票に行くメリット=(自分が投票に行くことで推しが当選する確率)×(推しが当選する効用)
で、この確率はほぼゼロに近い。なぜなら、自分以外の有権者の票が同数(または一票負けている)の場合にのみ、「自分が投票に行くことで推しが当選した」ことになるからです。となると、推しが当選する効用がめちゃくちゃ高くないと、メリットはコスト(歩くのめんどくさい)に負けてしまいます。となると、投票に行かないことが合理的なんですね。投票率が低い低いと言われているけれど、この理論に従えば、驚異的な投票率の高さです。
本書は、古代ギリシャや中世ヨーロッパ、近代にかけての民主主義思想を、世界史の教科書的にまとめた形を取っています。最後に日本の民主主義についても触れます。
著者は、古代ギリシャのポリスを、ある種の民主主義の理想としてみているようです。ポリスはもともと共同防衛のために集住した戦士の共同体なんですが、都市国家の形をとり、取り決めは市民の合意をもとに決定されました。ポリスでは職業軍人という発想がなく、平民が必要とあれば戦争に行きましたので、政治的発言権も得たようです。(現代日本とは違って)政治参加は誇らしいものというふうに理解されていました。このような状況下で、(今よりも純粋な)民主主義の統治が続きました。
ここから私見ですが、いちばん勢力のあったポリスはアテナイというポリスなんですが、その市民は4万人〜5万人でした。今と比べると共同体としての規模は小さいので、人々が目的を共有できるような状況だったと思います。他方、現代では外敵もないし、とりあえず安全な暮らしはできますし、個人主義的な傾向も大きい中で、あまり政治に関心を抱かなくなるのは無理もないのかもしれません。しかもグローバル資本主義下では一国家のできることは多くありません。もしかしたら古代ギリシャでは「自己の利益ではなくポリスの利益を考えて行動する」という性善説による統治ができていたのかもしれませんが、現代でそれをやるのは厳しいでしょうね。
そもそも、アローの不可能性定理やギバード=サタースウェイトの定理なんかをみると、そもそも民主主義は無理ゲーなんじゃないかとも思ったりするのですが、そこで諦めちゃいかんのでしょうな。
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民主主義の誕生から今日に到る歴史を俯瞰的に捉えた本書は、未だ「制度化の途上にある」民主主義の更なるアップデートの可能性を指し示す。
私たちが当然のように理解している民主主義=「選挙・議会・多数決」という形が出来上がった理由については、近代市民革命の舞台となったイギリス・アメリカ・フランスそれぞれの国情と思想家たちの知的格闘の様子を記した3章4章に詳しい。
特にアメリカの住民自治に民主主義を「発見」したトクヴィルを語る下りは、著者の民主主義への希望が重なり合っているかのように感じられて、その思いが読み手にも真っ直ぐ伝わってくる本書の白眉と言っていい。
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古代から現在に至る民主主義に関する議論を解説。民主主義は長らく警戒感を持って見られ、ポジティブな意味を持ち、議論が発展したのは産業革命と2つの総力戦を経たここ200年程度のこととわかりやすく説明する。現在の政治情勢を嘆きつつも民主主義の進歩に希望を託している。
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民主主義とは参加と責任である。
コロナ禍で大衆迎合や独裁へと偏りがちな今こそ、民主主義を選び直すという視点が大切だ。
自分自身の頭で考え行動して、その結果として責任を負う。自分はできているだろうか。
いわば集団的責任だ。
私たちが集団的責任を果たすために必要なのはリベラルアーツではないだろうか。
この世界を知らないことを自覚して、学び続けたい。また、自分を疑い、向き合うことを忘れてはいけないと思った。
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この本を読んで、民主主義とは何かと考えれば、考えるほど、自分はもっと政治に参加しなければいけないと思った。選挙だけでなく、間違った考えは声をあげて抗議すること。みんなが関心を持たないと、民主主義の意味がない。そう思う。
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この本を購入した翌日にミャンマーのクーデターが発生し、より興味を持って読むことができた。極めて曖昧な概念の民主主義の歴史的変化をかなり平易に説明してくれていると思う。また提示した問いに対する筆者の解も非常に明快だ。
残念ながら僕らが権利を行使して代表者を選び、政治参加しているという感覚は少なくともこの国にはない。というのも、地域という括りの中でたまたまいた代表者が自分を代弁しているとは到底思えず、また代表者と議論を交わす機会も遠く離れたところにあるように思えるからだ。討論を尽くして物事を決めるのが民主主義の発端ならば、より現代的な討論の場、代表者選択の場が必要になるだろう。
仮にそれらが達成されたとして、この国の若者が政治参加しないのならば、意図しない政治選択を待つしかなく、そうしてまた政治への参加意欲を掻き立てるしかないのではなかろうか。
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「民主主義」が肯定的な意味でとらえられるようになったのはつい最近のことだそうです。その意味合いも時代によって様々。使う人によっても様々。自分的にはトクヴィルとローズの議論が刺さりました。トクヴィルの言う、民主主義は枠を取り払い平等化へ進み不可逆的。でも、「何の下」での平等なのか。ローズの言う、平等な自由の下においても市民の尊厳を毀損するような不平等は認められない、とする主張は現代人に鋭く刺さると感じました。民主主義は綱渡りですが、落ちるわけにはいきません。もう一度でも何度でも読むべき良書だと思いました。
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「民主主義とは何か」というテーマが、いかに難解でハードルの高いテーマであったか、それを新書という形にまとめるという筆者の挑戦がいかに困難であったか。読み進めるうちにそれらを思い知らされます。
本書を読んで、民主主義とはその概念自体多義的であり、日々刻々と変化し続ける鵺的なつかみどころのないものだと分かりました。
しかし、本書は、そんな民主主義について、歴史的な背景や、基本的なことから丁寧に、わかりやすく解きほぐして解説してくれます。そして、「民主主義とは何か」というテーマと真摯に向き合い、それについての筆者なりの見解を示してくれます。
民主主義が所与の前提であり、完成されたシステムであると思い込んでいた私にとっては、目から鱗が落ちる思いのする場面がいくつもありました。
本書は、日常の国内外の政治的なニュースについても、民主主義という流れから見るとどう見えるのか、という視座を与えてくれました。
民主主義と真摯に向き合った、とても丁寧で誠実な本だと思います。
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民主主義を歴史的・多角的に分析しているので非常に勉強にはなるのだが、結局「いろいろ課題は山積していますが、民主主義の価値を信じてかんばりましょう」以上のことは言っていない気がする。筆者のように高い教育を受け、ものを考える余裕のある人は常に少数派であるという事実を直視しない民主主義論が説得的と言えるだろうか。
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東西冷戦が終わるころ、共産主義国や独裁国家はやがて民主化していくかのような印象があったように思う。が、今はそうでもない。著者は、現代社会の危機について4点を挙げる。ポピュリズムの台頭、独裁的政治家の増加、第4次産業革命とも呼ばれる技術革新、そしてコロナ危機。本書は、民主主義の歴史をひも解きながら、こうした問題の解決の方向性を示してくれる。なんだか少し未来に希望が持てる。
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『自分の頭で考える日本の論点』で出口治明さんが絶賛していたので読んでみた。
帯の紹介に書いてある通り、民主主義とは何か、言われてみれば確かによく分からない。
まえがきの3問、
A. 多数決 or 少数派の意見を尊重?
B. 選挙を通じて代表者を選ぶ or 社会課題を自分たちで解決していくこと?
C. 国の制度のこと or 理念?
に対して、民主主義の歴史を丁寧に振り返りながら、最終的に、おわりにで著者なりの回答を出す構成。
序盤で出てくるプラトンが民主主義に批判的だったエピソードが非常に腹落ちした。
『ソクラテスの弁明』で描かれているが、ソクラテスは、アテナイの若者をそそのかし、伝統的な神々を否定したとして、「民主的な裁判の結果として」処刑された。これって、戦時中の日本や、今のポピュリズムと大して…いや、全く変わらないのであり、人間って進歩しないなーと思う。
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【2回目】民主主義、自由主義、議会制の合流(結合)の検討を主として、民主主義の歴史を俯瞰している好著。民主主義について語ろうとする場合は、避けては通れないだろうと思われる。先の3つや、国家「と」社会との間での緊張と均衡とが、よりよき「民主主義」へ向けてのパワーとなると説かれている(と思う)。対立しているはずの諸要素を「敢えて」持ち込み、拮抗させることが、単一の原理が社会を塗り尽くすことから遠ざけているのだと思う。
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まぁ面白かったかな。
ただ、果たしてルソーの一般意志に沿った政治が筆者のいう参加と責任を担保しているのかなと疑問に思った。
また、結局どうすればいいのか、具体的な方法を提示していないので警鐘を鳴らすに止まっているのが少し物足りないなぁ、と感じてしまった。
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民主主義は元々、例えば現在の市民が専制政治や独裁政治を忌み嫌うのと同じように愚かな制度として捉えられていたというのは新しく得た視点だった。どのように民主主義をアップデートしていくか、関わっていくかを問われる一冊。
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古代ギリシアまで遡り、民主主義について考えていく本。著者の知識が深く、非常に読み応えがあり、理解できたかというと自信がない。しかし、日本の政治が日本人から評判が悪いながらも現在の形があるのは、深い理由と長い歴史があるのかなと妙に納得できた。