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きっとこの世界は著者が”天上の葦”で警鐘を鳴らしたことが、起こってしまった世界。さらに差別という要素が加わり、作中で”変わった人”と描かれている人こそが普通の人で怖い。
うまく言えないけど、物語を通して社会問題を明確に提起できるすごい作家ですよね。
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太田さんの小説シリーズ3作品の大ファン(映像化を待望)なので、全く違う作風で冒頭から戸惑った。時代背景もわからない架空の町で起こる「羽虫」と呼ばれる人たちの物語。読み進むと、これは世界中に根強く存在し、今顕著に表面化しつつあるレイシズムの話であることがわかってくる。レイシストが権力を握ったとき、声を上げなければこの町で起こったような悲劇は繰り返される。幸いにも私たちの時代にはSNSがある。1人1人の声は小さくても、声を上げることを諦めてはいけないと感じた。
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誇り高い住民、架空の町『始まりの町』に住む人々が描かれている。4章からなる物語、章ごとに主人公があり、その人の視点で描かれている。
始まりの町で生まれた人に対し、羽虫と呼ばれる余所からやって来た人々への差別。自分を優位な立場に置く為にそういった対象を作り心の平穏を得る。貧しく差別を受ける日々の中でもわずかな希望を見出し生きていくのが人間。そんな羽虫たちを迫害し続けた住民たちの末路、自分たちの心の拠り所である始まりの町の崩壊、因果応報と思わずにはいられない。登場人物が次々亡くなる中、人との出会いの大切さを知る魔術師と一緒に旅立つナリクに明るい未来があるよう願い結末だった。
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これまでと全く違う作風に戸惑いながらも、現代日本のみならず、世界中に向けた話しであったと知りました。
戦争は、選択もしくは選択とは思わずに同調した結果である。グッサリと刺された思いでした。
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太田愛さんの作品なので、てっきりミステリーだと思って図書館に新刊リクエストしたら、苦手なファンタジーでした。
第1章始まりの町の少年が語る羽虫の物語
第2章なまけ者のマリが語るふたつの足音の物語
第3章鳥打ち帽子の葉巻屋が語る覗き穴と叛乱の物語
第4章窟の魔術師が語る奇跡と私たちの物語
章ごとに語り手が変わる架空の町<塔の地の始まりの町>での物語です。
第1章の語り手である初等科に通う僕、トゥーレの母のアレンカが行方不明になります。
アレンカは羽虫と呼ばれる差別階級の生まれでした。
他にも羽虫と呼ばれている人々が多数登場します。
第2章では映画館に勤めるマリが語り手。
第3章は葉巻屋。
第4章の語り手は死者の声が聞こえる魔術師です。
そして、第4章では、アレンカがなぜ行方不明になったのかの謎が判明し、物語が繫がります。
他の方のレビューを拝見すると絶賛されている方が多いのですが、私は作者が何を言いたかったのか、今ひとつわかりませんでした。
悲しい話であるということはわかりました。
太田愛さんは『幻夏』が凄くよかったので、期待して読んだのですが、これは私には難しかったです。
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さすが太田さんだなとしか言いようがない。
どこか遠い国の話のようにふわっと美しい衣をかけているけれども、なんと身近な恐ろしい物語だろう。
これを、いま、読めることにきっと意味がある。
目を逸らしてきたものや人を、いいから見ろ!!と頭を掴まれて問答無用で直視させられる。
暴力的ですらあるけれども、ちゃんと希望がある。
太田愛さん、ほんとうに本物の天才だな。
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現実の世界では無い別の世界の話。
そこで物語は4人にフォーカスが当たる。羽虫と呼ばれるこの世界の底辺の人間と普通人との壮絶な差別の中で生きた若者と、そこに置き去りされた少女の時間の流れを描く。ただこの世界は何か昔のドイツ帝国を彷彿させる状況で、どんどん人間社会を窮屈にさせていく。 最後に語る不死の魔術師が死者の言葉を聞けるということで、闇に埋もれていた人と、戦争が始まって死んでいった若者の声を聞きながら次の世代の幼き子に想いを伝えていく。何かふしぎな感じのする話。最初から中盤は非常に読みにくかったが、少し話がわかってきてなるほどとなり、本当に現在の世相のを表している様に思えて怖かった。
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これまでの「犯罪者」「幻夏」「天上の葦」といったクライムノベル系3作品とは毛色の違う(とはいえ作中で言いたいことは同じ)、太田愛さんの新作。「塔の地」という仮想の地域を舞台にし、若干ファンタジー感もある。差別や格差・貧困などの現代社会の問題点を警鐘した寓話的作品で、ミステリー要素もありつつ内容はかなり重かった。
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テレビをそのまま引き継いだような今までの刑事モノとは全く違う太田愛さんでありました。
どこの国がベースなのか、はたまた現代なのか過去なのかを全く悟らせず、これはもしやファンタジーなのか?と思いましたが、突き付けられた問題はあまりにも身近でどこにでもあるものでした。おそらく、他人事ではない私たち自身が考えなきゃいけないことなのよ、と太田さんに言い渡されたカンジです。
最後の魔術師の章では彼の過去が壮絶でちょっと読むのがツラくなりましたが、「あんた、やっぱ只者ではなかったんだね」とホメてあげたい気持ちです。
最後もねー ホント悲しかったし…
こりゃあスゴイ小説読んじゃったよ‼ でした。
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太田愛さんの本なので推理物と思ったらまったく違う小説でした。
とても悲しい話でしたが、最終章で少し救われた気持ちになりました。
始まりの町に住む羽虫と呼ばれる人々。差別の蔓延る町。
そして民衆を締め付けていく中央府。
これって現実に起き始めているような気がしてゾッとしました。
私たちもきちんと考えて声を上げないといけない。
そんな気持ちになりました。
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どこでもないいつでもないファンタジーと思わせて、本質はわたしたちのすぐ傍にある世界のお話だった。
登場人物だれもかれも絶望感がすさまじいのですが、それを引き起こす背景はいつだって同じ人間なのだということをまざまざと感じる。かつての戦争にあった扇動や同調、排他。でも、こうやって物語として読んで眉をしかめるわたしも同じところに立たされたとききっと誰かを貶め傷付け殺すのだろうか。
自助努力のこと言ってんのかなって後半ちょっと苦笑いしてしまった
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今までの三作品と比べて、少々とっつきにくい異国の町と思われる最初の描写に驚くが、一気に世界に取り込まれた。プロローグで示される過去の写真。その中の幾人かの視点で物語は進む。視点が変わるごとに伝わってくる差別、貧困といった社会問題…ああ、紛れもなく太田さんの世界だ。羽虫という言葉はなんて悲しいんだろう。これは決してどこかよその国の出来事ではないのだ。読み進めた先、突然これがミステリだったことを思い出す。第4章に入ってからはページをめくる手が止まらなかった。読後の余韻を噛み締め、重いメッセージを受け取った。
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よく出来た寓話。
まさに帯に書かれている通り。→これは、過去でも未来でもない「今」だ。目の前にあるのにあなたが見ようとしない現実だ。
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架空の町を舞台に、「羽虫」と呼ばれ差別をされる移民が不可解な事件に巻き込まれていく。権力者に踊らされ暴走していく町を描いた、社会派ミステリー。
最初のうちは、母親が失踪した事件を追う少年の成長の物語かと思っていたら、そんな生やさしいファンタジーではなかった。
平和ボケした町では、投票率の低下から選挙が廃止になったことを皮切りに、市民のためと称した教育の改革、図書館の書籍の規制、新聞報道への介入など、一部の権力者の都合のいいようにすべてが統制されていく。そのかたわらで、移民である羽虫は人間扱いされず、元からの住民たちの不満のはけ口となる。
排他的で不正がはびこる腐敗した町が行き着く先には、もう戦争と破滅しかない。
大国のみならず、この日本も含め、世界が徐々に危険な方向へと進んでいる今だからこそ、作者の熱のこもった警鐘は真っ直ぐに胸に響いてくる。次々に明らかになる救いのない状況はひたすら重苦しく、じっくり読み込むほどにつらさが増す。
読み終えてから、もう一度序章を読み返す。なるほど、そういうことだったのかと、作者の巧みな構成にしみじみと余韻を味わった。
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語り手の視点が変わることで一つの事象の異なる形が見えてくる、いわゆる「藪の中」構成はさすが。
登場人物たちのそれぞれの「事情」「特徴」に個性があって感情移入が容易になるキャラクター造形もさすが。
ただですね、戦時における全体主義の話になると、これはもういろんな小説や映画で読んだことがあるありきたりな展開で非常に興ざめ。
ストーリーテラーでいずれ直木賞作家となる方だと思うのでこういうのもありなのかもしれないですが。