紙の本
家族三代記
2022/01/11 21:54
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:nekodanshaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
オリンピックが時間の大きな軸となり、ゆっくりと力強く進む家族の物語である。ADHDと知らずに行き方に苦しむ一人の男性とその母との関りは、人の個性は世間との関係性の中で、良い方へも悪い評価にもなりうるのだ。三世代にわたる物語が、とても強い躍動力を生み出している。
投稿元:
レビューを見る
主人公の泰介の傍若無人ぶりがかなり鼻に付くなぁと、若干引き気味だったのですが、読み進めるとその態度にも訳があったと解り、見方が変わりました。
泰介の母・万津子が本当に出来た人で脱帽でした。暴力亭主からかばって貰えると思ったのに、万津子の母のそんなの耐えて当たり前発言にドン引きでした。時代なのかもしれませんが、ハズレクジを掴まされた万津子の気持ちが切なかったです。
そして、泰介の妻と娘も良い人で、娘の萌子が良くあそこまで真っ直ぐに育ったかと思うと、妻の由佳子の器の大きさが伺えます。
佐藤家を繋ぐバレーボール。とても大切な存在なのだと思いました。
投稿元:
レビューを見る
辻堂作品に初めて触れた
令和と昭和の戦後、九州と東京
時間と場所を行き来し、読者に徐々に疑問と回答
中々素晴らしいと思った
最初はこの母子どうなるかと思うと共に自分なりの結末を想像したが、あまり当たらなく病気が出現し初めて納得した
戦後の女性はこのように苦労した人がきっと多いのだろう
最後は少しだけウルッとしてしまった
投稿元:
レビューを見る
いつの時代も女性の精神は強いということを感じさせてくれました。
物語の構成は、現在パートと過去パートの2つが交互に行き来しながら、隠れていた真実が明らかになっていきます。
現在パート;主人公・泰介はスミダスポーツで働く58歳。ある日、オリンピック関連cmを見た時、認知症を患っている母が意味不明な言葉を。「私は・・・東洋の魔女」。
その後も謎の言葉を多く発します。どういう意味かわからないまま、過去パートへと切り替わります。
過去パート;こちらの主人公は、泰介の母・万津子。昔の東京オリンピックの時代、どのようにして夫と出会い、出産し、どう生き抜いていったのかを描いています。現在パートで発した謎の言葉の答えが、このパートに詰まっています。
作者の辻堂さんは、「あの日の交換日記」での伏線の回収が素晴らしかった印象でした。この作品でも謎の言葉が後々に大きなキーワードとなって、母の一代記を大きく盛り上げてくれます。
謎の言葉だけでなく、他にも様々な出来事や行動が後に意外なところで意外な真実として解決してくるので、それがわかった瞬間、妙な納得感が湧きました。その伏線の回収の仕方が粋だなと思いました。わかった後の続きの物語は、ガラリと今までの印象が変わってくるので、違った視点で楽しむことができました。
それらをわかっての最後は、感動を誘い、家族の在り方やバレーボールが紡ぐ親子愛を感じずにはいられませんでした。
夢を捨てた人、夢を諦めた人、夢を叶えようとする人、どんな状況だろうとも、拍手をあげたいなと思いました。
一応、帯には「三世代の大河小説」と表記されていますが、四世代としても読み取れました。万津子、泰介の妻、娘だけでなく、万津子の母も「女は強し」のごとく描かれているように感じました。ここでは、嫌味たらしい女として描いていますが、昭和を生き抜いた女の象徴でも解釈できました。その状況下で生きる万津子の半生が、壮絶で辛いわとも思いました。
ここまで壮絶というわけではありませんが、自分の母親にも感謝したくなりました。ここまで育ててくれてありがとうと。
もし映像化するなら、泰介は堤真一かなと想像して読んでいました。
投稿元:
レビューを見る
初出 2018〜20年「きらら」、一部書き下ろし
昭和39年と令和2年(その後延期、開催できないとの観測も)の2つの東京五輪にまたがるバレーボールに関わる家族の物語なのでこのタイトルなのだが、主題はADHDの男の生き方なのだと思う。
昭和と令和の物語が交互に展開する。貧農の家に生まれた母万津子が中卒の集団就職で紡績工場に勤め、見合い結婚した相手が三池炭鉱の炭塵爆発で死ぬ昭和。バレーボールは大学でやめた息子の泰助が定年を前にして苦手なデータ処理部門に配属されてストレスを抱え、母は認知症、娘は名門高校のバレー部のエースという令和。この前半は作者らしくない暗く重い展開だが、半分ほどで母がかたくなに秘している昔の水死事件が絡んでから一気に展開が早くなる(読むスピードも上がる)。
58歳になっている泰助が、愛娘の勧めで受診したクリニックでADHDの診断を受けて、「長い間身を縛っていたものから解放された」と感じる場面では、とても救われる感じがするし、これを機に泰助は代わり周囲もいい方向に変わっていく。
春高バレーで娘の高校が大逆転優勝した日、バレーボールを教えてくれた母親は息を引き取り、泰助は感謝して深々と頭を下げる。
私もバレーボールは、東洋の魔女を見たあと中学から始め、社会人になってからも続けたが、人生の大きな部分になっていたと改めて思った。
投稿元:
レビューを見る
最後まで息子を信じる母の思いが伝わってきた。
発達障害をその当時は理解できず、まわりにも理解してしてもらえない時代の生き方が今だと違うと思うと切ない。
投稿元:
レビューを見る
辛い辛い万津子の人生。老後や人生の最期は幸せを感じましたか?事故の真実を知ることが出来ましたか?…と問いかけたくなりました
投稿元:
レビューを見る
十の輪、という言葉の意味。
今年オリンピックが開催されていたら、別の思いでこれを読んでいただろう、と。
1958年から1964年までと、2019年から2020年までの物語が交互に語られる。
熊本から愛知県へ女工として働きに出ていた万津子と、スポーツクラブを経営する会社に勤めるその息子泰介の、そして孫娘の物語。
痴呆が入ってきた母親の謎めいた過去。かたくなに語ろうとしないその人生。三人をつなぐのはバレーボール。バレーボールに込められた思い。あの日、いったい何が起こったのか。
バレーボールを中心に回っていた物語が、ある時急に別の顔を見せる。急な展開に驚きつつ、そういうことか、と腑に落ちる。それを乗り越えたときに見える新しい世界。
でも…と読み終わって思う。この最後は悲しすぎる。切なすぎる。もう少し早く、何とかならなかったのだろうか、と悔やまれる。
投稿元:
レビューを見る
久しぶりにも素晴らしい作品に出会いました。
バレーボールを題材として、2つのオリンピックが登場してくる話。
泰介さんのADHDの描写は、本当にこと細かく描かれていて幼少期からの育てにくさなど、すごく伝わってきました。
万津子さんの辛い過去、認知症になっても一切過去のことは話そうとしないことなど本当に読んでいても内容が濃くて長編映画を見ている感じでした。
親子の絆、家族を思いやる言葉掛けや仕草、優しさが伝わってくる作品でした。
ここ最近小説で涙を流すことはありませんでしたが、これは泣けてきます。
20代の作家さんがこれだけ細かく人の心を書けるなんて感動です。
辻堂さんの他の作品もぜひ読んでみたいと思います!
投稿元:
レビューを見る
何、この余韻は…。
途中から込み上げるものが半端ない…。
息子の泰介の現代、母の万津子の過去、で交互に入れ替わりながら話が進んでいきます。
初めはいけてなさすぎな泰介に残念な気持ちになりかけたんですが、理由があるんですよね…。その理由には途中で読者の誰もが気付くと思うんだけど、ただただお母さんの万津子さん、本当にすごい、本当によく頑張られたなと思いました。同じ母親として頭が下がります。この時代は特に理解がなく大変だったと思います。ネタバレになるのであまり書けませんが…バレーボールメインのお話ではありません。
投稿元:
レビューを見る
辻堂ゆめさんは初めて読む作家さん。
読み終えて、感想を書こうにも何を書いたらいいのだろうか、と途方に暮れてしまった。何を書いてもネタバレになってしまうような、親子3代に渡るとても壮大な物語。
初めは泰介と、近い年代の自分とを重ね合わせて、「私がこんな生活を送っていても不思議ではないのだなぁ」と思っていたのだけれど、そんな現実的な考えは吹き飛んでしまうくらい、心が揺さぶられる物語だった。
妻と娘と認知症の母親と4人で暮らしている主人公の泰介は、母の万津子に対してすぐに怒鳴る本当に本当に嫌な男だった。
物語は、現代の物語と過去の物語が交互に出てくるスタイルで進んで行く。
泰介には心の中で冷たい視線を送り続けながら、若かりし時分の万津子の物語を楽しみに読み進めた。
泰介は万津子の人生を知らない。それは万津子が話さなかったから。「泰介には内緒」と認知症になってもなお、頑なに詳細を語らない万津子。初めのうちはわからなかったが、「子どもには何も話さない」という万津子の強い意志が見えてきて、目頭が熱くなる。
万津子の人生が分かれば分かるほど、まるで万津子からこっそり秘密を打ち明けられているかのように思えてくる。大きな秘密を抱えた私の目の前にいる何も知らない泰介。どうやっても伝えられないもどかしさが募る。
万津子は頑なに泰介に何も語らないまま。でも、すれ違っていた親子の心がほんの少し触れ合ったところで、心は感動に震え、涙があふれた。
人には、何も言わずに「とにかく読んでみて!」と勧めたくなるような、でもやっぱり秘密にしておきたくもなるような、そんな1冊。
1年の締めくくりに素敵な本を読むことができてよかった。
投稿元:
レビューを見る
1964年と2020年の東京オリンピックを巡る親子三代の物語(著者は辻堂ゆめさん)。定年間近で会社員の泰介が主人公の2019年ターンと、泰介の母親・万津子(2019年の世界では認知症)が主人公の1964年ターンが交互に展開する。冒頭で万津子がつぶやく「私は、東洋の魔女」の謎が気になってついつい読み進めてしまう(だんだん面白くなっていき最後の最後で爆発するタイプの作品)。映画化されたら萌子(泰介の娘)役は争奪戦になりそう。この作品は本屋大賞取るんじゃないかなという気がする。
投稿元:
レビューを見る
九州 長崎生まれ、前回東京オリンピック時は小2、中学ではバレー部、一週間前に母が亡くなりました。九州弁も随所に出てきたこともあり、自分と重ねながら読みました。久しぶりに胸がざわめきました。
投稿元:
レビューを見る
+++
スミダスポーツで働く泰介は、認知症を患う80歳の母・万津子を自宅で介護しながら、妻と、バレーボール部でエースとして活躍する高校2年生の娘とともに暮らしている。あるとき、万津子がテレビのオリンピック特集を見て「私は…東洋の魔女」「泰介には、秘密」と呟いた。泰介は、九州から東京へ出てきた母の過去を何も知らないことに気づく―。
+++
東京で開催される二つのオリンピックを絡めた人間物語だと思った。一度目のオリンピックの時代、働いていた繊維工場でバレーボールをしていた晴れやかな記憶と育てにくい息子を抱えて苦労した記憶が、年月を経て認知症を発症した現在、二度目のオリンピックを前にして断片的によみがえり、万津子の心はふたつの時代を行き来している。息子の泰介は、母の特訓によりバレーボールにのめり込み、大学で同じクラブの由佳子と出会って結婚し、娘の萌子は、高校バレーで活躍し、オリンピック代表に選ばれることも夢ではない。オリンピックが重要なカギであることは間違いないが、佐藤家という家族、そのひとりひとりがどう生きるかを問いかける物語でもあるように思う。人間ってそんなに簡単に変われないよな、と思うところもあるが、全体的には充実したストーリーだった。自分の居場所を認められることの大切さを思わされる一冊でもあった。
投稿元:
レビューを見る
1964年、2020年それぞれの東京オリンピックと共に人生を歩む家族の話。主人公の泰介みたいな父親はひどいな…と思いきや、そーゆーことかというオチがありました。最後はほっこりするので、家族ものの小説が好きな人にはオススメです!