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R氏を隠し部屋に匿って「閉じ込めていた」のに、最終的に自分自身も含めてすべてが“消滅”し、“品物”の一つとして隠し部屋に「閉じ込められた」。
声を失い時計部屋に「閉じ込められた」小説の中の「私」は、徐々に存在が溶けて消えてしまったが、現実の「私」もまた、身体の一部の“消滅”から始まって、最後には声も“消滅”し隠し部屋に「閉じ込められた」。
“消滅”に抵抗することなく迎合したことへの戒めであろうか。
たしかに、大衆に迎合し自分を見失うということは、「閉じ込められる」ことであろう。それが“消滅”というある種抗い難い環境的要因の所為だとしても。
大衆は間違いなく個々人の集合体なのだが、集まることでうねりを生み出し、個人をうねりの中に閉じ込める。うねりからはみ出たものは、「秘密警察」に連行される。
大衆と個人、ここ最近のテーマである。何が正しいのか。きっと(自分にとって)何が正しいのかを考え続けることが正解なのだろうが、明確な答えのないものは怖い。だからこそ考えるのを放棄して迎合してしまうのだろう。
追記
「物や事はアンカーであり、失くなると消滅する」とレビューあり、なるほどなと思った。アンカーがなくなればふわふわと浮き上がって、霧散する。
自分の構成物たるものを捨てて、身軽になることと全てを捨て去ることは違うということ。何が必要で何が不要なのかなんて、誰にも分からないけれど。
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一つずつ何かを失っていく2つの世界が描かれていた。
言葉がすごく綺麗な小説だった。
何かをなくす、ということをここまで綺麗な小説に描けることはすごいと思った
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うわーなんだかすごく哀しくて切ない物語だった…。少しこわくもある。。
舞台となる島に次々に訪れる“消滅”により、島に住む人々からラムネや香水、フェリーや帽子、鳥にバラの花、小説などの記憶が消えていく。消滅したものは全てその日のうちに燃やしたり川に流したりして処分しなければならない。
消滅したものの処分漏れや、一部の記憶が消えない特殊な人々を取り締まる秘密警察による“記憶狩り”が横行している。ナチスや憲兵隊のような官憲の横暴。
消滅が自然の摂理の一部として描かれていて、島の人々誰もが消滅をあまりにも当たり前のものとして受け止めている姿が悲しさを誘う。諦めですらない無抵抗な受容。昨日まで大切にしていたものが急に世界から失われてしまう、こんな不条理な話なんか無いのに。
不条理な世界に絶望することなく日常を生き続ける人々の強さと美しさ。
小説家である主人公の「わたし」が最後に残した物語には、数々の消滅を(本当に衝撃的なものまで失ってしまう)経たからこそ生まれた結末がある。
『パーフェクト・センス』という映画を少し思い出した。
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著者が『アンネの日記』を愛読していたことをきっかけに書いたという作品。(「解説」より)
そのことを念頭におくと、より内容の理解が深まります。
「順応」ということばは耳触りがいいですが、
理不尽な剥奪、失うに任せて、
心まで殺されてしまってはいけない。
主人公のふるまいの変化、
行き着く先に、心震えました。
アンネの日記、読み返してみようかな。
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失われていく世界で、最後まで残るものは何なのか。自分とは何なのか。当たり前にあるものを見つめ直したくなる一冊。
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次々とモノが消えていく島を舞台にした、人々と記憶の話。
3分の2くらいまで進むまではなかなか読むペースが上がらず、この不思議な話は何なんだ……と思って悶々としていましたが、次第にこの何もかもが不透明な世界に迷い込んで惹きこまれ、最後の辺りは一気に読んでしまいました。
小川さんの文章や世界観はとても好みなので、他の作品も読んでみたいです。
とにかく儚く、キラキラとした結晶のような、繊細で緻密な美しい世界でした。
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「記憶狩り」。例えば帽子や木の実といったものの記憶がなくなる。人々はそれらを廃棄して、初めから無かったものにする。亡から無へ。記憶警察なるものが厳しく取り締まる。だれがなんのためにそれを行うのか?疑問符が飛ぶ突拍子もない設定。でもすいこまれてしまう、完結した、童話のような空間。
静けさの中に沈む怒りを感じた。湖に、擦ったマッチを落とす、みたいな。冬が終わっても雪に包まれる島に、消滅のためにものを燃やす炎があがる。理不尽な搾取と隔絶。それにより消されてしまったものの数々。それらは、かつては確固として美しく存在した。雪の結晶のように。
主人公は小説家。
小説も消滅させなければならなくて、たくさんの本を火に放るときの場面がある。ここがとても心に残った。一本の曲線を描いて炎に入る本を、むかし父と眺めた飛翔する鳥に喩えている。ここの描写は、特に素晴らしいと思った。
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昨日まであったものが人々の記憶から消えていく「消滅」のある街で、失い続ける主人公と記憶を持ち続けるある人との物語。知らず知らずのうちに自分達もいろんなものを失い続けていて、それを大事にしようとしてくれる人の存在のありがたさ。
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あまりに現実的じゃなくて、何についての比喩なのかがいまいちピンとこなかった。
わたしが彼を匿い、好意や体の関係やらが出てきて…なんかそこが気持ち悪いと思ってしまった。
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よく分からなかったと言うのが正直なところだ。と言うか、分からない事だらけだった。なぜ消滅するのか?消滅するとそのものの記憶までなぜなくなるのか?なぜ秘密警察がいるのか?挙げればきりがない。そして、わたしは(肉体は存在するのに)ついには声だけになってしまう。どういう事なんだろう?わたしが書いた小説のタイピストと先生。わたしとR氏。何か関係があるのか?やはり分からない。読み終えた今、ただ茫然としている。
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少しずつ何かが消滅していく世界。
様々なものが消え、それがあった事さえ記憶から消え去る世界。
記憶していること自体が悪になる世界。
記憶している人は社会で生きていくことは出来ない。
秘密警察に見つかると、どこかに連れていかれる。
これはまさにデストピア小説に違いない。
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身の回りのものが少しずつ消えていく島で暮らす物語。消えたものはその記憶すら人々の脳裏から失われる。写真、オルゴール、小説。。。私たちの暮らしにも消えていき忘れられていくものがある。レコード、公衆電話、木造校舎、そして古い友人や子供の頃の思い出。それらを忘れていくことの悲しみに想いを馳せながらこの小説を読んだ。小説の中には、消えていくものを記憶し続ける人がいて、彼らは秘密警察に追われるため、隠れて生きなければならない。そうした『異端の人』への眼差しが優しい。
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同作者の博士の愛した数式じゃないけど、記憶が少しずつ消えてしまうのって本当に悲しい。だけど、その悲しさが何故か美しく儚く感じた。
消えるものと残るもの。その対比が印象的。
また読んでいるうちに自然と主人公に感情移入する。(ドンやおじいさんのシーンは読むのが心苦しかった)
隠れ家、警察、匿う等々。過去にあったユダヤ人への迫害を彷彿させるところもあり、なかなか一言で言い表せない内容です。
個人的に何故島で消滅が起きたか、また記憶警察はなんなのか、母の本当の死因は何かなどなど分からない点があるので次回はもっとゆっくり読みたい。
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一つ一つの表現がうっとりするほど美しい。
温かい硝子細工のように脆い世界の中で、静かに息をする主人公とおじいさん。消失が起こる度に日常から何かが奪われていくけれど、それは彼らに何の感情ももたらさず、ただ淡々とそれを受け入れ、次第に島の住人達は空っぽになっていく。
消失の影響を受けない、記憶が保持されたまま生きていけるという欠陥を持ったR氏は、小説家であった主人公の中から次々と物語が消えていくのが悔しくてならない。彼はしあわせなのか、それともふしあわせなのか。香水は芳しく、エメラルドは美しく、ラムネは甘いが、写真は千切られ、本は燃やされ、薔薇は流され、オルゴールの音色は誰かの心に響くわけでもなくただ無機質に宙を彷徨うだけ、そんな世界にすら触れることが叶わず、ただ隠し部屋で密やかに息をする彼はその狭く温かな空間で何を思っただろう。いつか消えていなくなってしまう女性を愛したR氏は、空をかき抱いた後に階段を上っていった彼は、一体何を。
筆者の繊細な表現がとてもすきだった。パチパチと切られる子供の爪、手編みのセーターを着てにこやかに迎え入れてくれるおじいさん、彼が作ってくれたケーキ、街を覆い尽くす雨音、べしゃべしゃになったパン、R氏が銀の食器を磨く音、秘密警察のトラックの音、じょうご越しに聞こえる愛おしい人の声、しんしんと降る雪、原稿用紙越しのタイプライター、どれもあまりに柔らかく表現されていて、読んでいて幸せな気持ちになった。
アッと驚くどんでん返しが待ち受けているわけでは無い、目から大粒の涙がこぼれ落ちてくる訳でもない、ただやるせなく、切なく、悔しく、美しく、ただその文章に魅了され、読み終わった後は何も言えなくなった。やさしい、やさしいけれど、あまりに繊細で、脆く、指先で触れればすぐに砕け散ってしまうだろうから、ただ隣で眺めていたい、そんな芸術作品だった。フェリーも、図書館も、市場も、野鳥研究所も、地下室も、川も、隠し部屋も、そこには確かに在った。彼女は、おじいさんは、R氏は、そこで生きていた。大好きな、大好きな作品の一つになった。
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大切にしていたものが少しづつ、気づかないうちに消えていく寓話のような物語でした。
自分の思い出もこうして消えていくのかなと、悲しいような寂しいような気持ちで全編読みました。文章が静謐でよけい切ない。