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表現やお話自体はあやふやなものなのに、訴えているものははっきりとわかる。そんな印象を受けた。
解説にもあったが、小川洋子さんは「消滅」を描きながら、「消滅しないこと」を描こうとしている。
ものの認識が出来ない状態は、認知言語学的な考えだと感覚が掴める気がする。
虹を7色と捉える国もあれば、2色と捉える国もある。英語圏の人にとってのdevil fishという概念は日本人にはない。途中で失われるという点では異なるが、そういう隔たりがある。そんな感じだろうか。
コロナ禍の自分の変化を思うと、私は主人公側だと感じ、こわくなった。
誰とも会わないほど自粛を極めて、数ヶ月ぶりに友達と会った時、「友達と話す時の顔ってどうしてたっけ?」と奇妙な混乱に陥った。あの時私の表情はほんの少し消滅しかけていたのかも(笑)
辛抱しすぎて、よく分からなくなってしまった感覚は確かにある。気付けているだけましだけど。
コロナ禍に限らず、幼い頃にキラキラしてた宝物も今見ればガラクタだったり。思い出すことさえできないものごともあるだろう。
主人公とおじいさんにはない隔たりが、R氏との間にはある。お互いが大切な存在になってもなお、2人はすごく遠い。切ないなあ。苦しいなあ。
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色んなものが一つづつ消えて 記憶も消えて
残ってるものや記憶を持っている人は秘密警察に
狩られていく…
寂しく薄暗い気持ちにさせられる
何処かで突破口があるのかと思いきや
そんなこともなく…
ただ受け入れるだけ…
うーん…
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どきどきした。全部覚えてるのに覚えてないふりをしながら生きるのは辛そうだから無くせる人の方が幸せかもしれない。
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一つずつ物が消えていく島のお話。
ミステリー小説やSFなどではありませんので、謎を残したまま物語が終わります。
登場人物のその後はどうなったのか、島は、住民は……そういったことは、ある意味では「ご想像にお任せします」というところなのでしょうね。
小川洋子さんの作品は
・薬指の標本
・博士の愛した数式
・猫を抱いて象と泳ぐ
・妊娠カレンダー
・琥珀のまたたき
に引き続いての読破です。
私は『薬指の標本』が上記の中では最も好きで、今回読んだ『密やかな結晶』はどちらかというと、想像とは違ったなという印象でした。
理由としては、
私がミステリーを読むことが多いというのもあって、「謎が解き明かされないまま終わってしまうことにモヤモヤした」というところが大きいのだと思います。
・秘密警察とは何だったのか
・R氏はどうなったのか
・そもそもなぜあの島は謎の現象が起こるのか
といったようなことは、一切秘密の明かされないまま終わってしまいます。
謎を明らかにしたい読者にとっては、モヤモヤしたまま終わってしまってスッキリしない展開だと思います。
しかし、裏を返せば、抽象的な事柄を通して様々なことを我々読者に考えさせる小説です。
「消滅」「秘密警察」といった要素から、我々の心の中に起こる化学反応を感じることそのものが、小説の価値ですよ、と著者が言っているようにも思えます。
また、この作品には、イヤというほど擬人化表現が登場します。物体が俯いたり、しょんぼりしたり、悲しんだりします。それは小川洋子という作家が擬人化を好んでいるからというよりも(好んでいるとは思いますが)、「モノにはモノの記憶がある」ということを表すためではないかな? と感じました。
徹底抗戦することもなく、人々は唯唯諾諾と消失に従っていく世界(行ってみればディストピア)が描かれています。
これは小川洋子版の1984年だな~、と感じました。
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1回読んだことがあり、2回目。一気に読んでしまうのがもったいなくて、少しずつ何かが消滅していく物語のように、少しずつ残るページを減らしていった。繊細で、儚げな文章。読んだことがあったけど最後の展開は覚えてなかったから、こう終わるのかあ、という気持ち。私たちが生きているこの世界でも、数えきれないほどたくさんのものが消滅していってるんだろうとおもう。そしてそれに対応していっている。それが人間の生きていくうえでの強さだとも思うけど、寂しくて、悲しい。
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鳥、宝石、薔薇、香水、ハーモニカ……
ひとつひとつ、何かが世界から消滅していく。そのたび、空洞が増えていく。多くの人々は消滅を受け入れ、むしろ進んで、消滅を受け入れ、記憶を焼き捨てていく。消滅に抗い、忘れない人々もいるが、それを許さない秘密警察は、記憶狩りを続ける。
お嬢様とおじいさんは2階の床下の小部屋にR氏を匿い、小説を書くことで、消滅に抗う。
すべてが奪われたようにみえても、誰にも消すことも奪うこともできない、そして渡してはならない結晶は何か。
英訳されたタイトルは The Memory Police なのだそうだ。
それだと、消滅への対抗が主題化して聞こえるタイトルになるけれど。
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R氏が守りたいこと、受け入れられないこと、それは、その島の住人にとっては消滅すること。
R氏とその他の住人の間の意識の断裂がひどく、R氏の抵抗が報われないように見える。何も無くなった島に一人残された彼は、隠れ家から離れ、生きていこうとする強い人だ。彼は、これからどんな世界を創造するのだろう。
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年始年末に休暇中になにか本を読みたくて、購入。
とても繊細で美しい言葉で紡がれる、すごく儚い物語だった。
失っていくことを受け入れて、自分という存在さえも失くしてしまう主人公。それでも、読んだ後に悲壮感ではなく温かい気持ちが残ったのは、彼のために小説を書く、というささやかな抵抗があったからだろうか。
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記憶から物がどんどん消えていく。
消えたらその物自体も消していく。
物だけど、その物に関連する記憶も消えていってしまう。
どんな記憶が消えたのかもわからなくなるのは、苦しまなくていいのかもしれないが切ない。
苦しさはないが、それは救いになるのかわからない。
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つくづく、小説は「語ることで語り得ないものを語る」行為だと思わされる。何と豊かな空洞がそこにあることか。「わからないことの豊穣さ」こそ文学の生命線なのだと本作を読んで強く感じた。
小説の中で小説を描く入れ子構造というのは珍しい形式ではないのだけれど、本作ではそれこそが作品の要になっている。小説が消えてしまった世界で小説を書く主人公の視線を通して読み手は小説を書くという行為の核心に目を向けざるを得ないばかりか、本作では主人公が描く世界が自分の運命を先取りする構造が示されることで、小説が書き手の不安を明文化するための行為であることにも気付かされる。これは、小説家のための小説、なのかもしれない。
『博士の愛した数式』があまりにも商業的に成功したために、私の中では逆に優先順位の下がった作家さんだったのだけれど、一昨年あたりから仕事の都合で読まざるを得なくなって読み始めた。
『博士の……』『ことり』『薬指の標本』『猫を抱いて象と泳ぐ』『小箱』『ブラフマンの埋葬』と読んで、『ミーナの行進』を読もうとしてた矢先に、本作がブッカー国際賞最終候補作に入ったニュースが飛び込んできて、先に本作を読むことになった。結果、それでよかったと感じた。
どうも最近の自分の読書傾向が「喪失」を軸にしていることが本書を読んで明らかになった。一番近いところでは『隣のずこずこ』『1984年』、ノンフィクションだと『エンド・オブ・ライフ』、評論だと『素手のふるまい』『死と身体』。多かれ少なかれ「何かを失うこと」や「何かが失われた状態における振る舞い」に関係した本であるように今の私には感じられる。つまりは、私の中にある空洞が何なのかを手探りさせてくれたのが、本作だということになる。
小野洋子さんの描く世界は、いつも共通した手触りを持っている。うまく言い当てるのは難しいのだけれど、いくつか箇条書きしてみる。①世界の端の部分にぼかしがかかっている(「おもひでぽろぽろ」の回想パートみたいな感じ)なのに、現実世界と完全に切れている感じはない②貧困は存在しない(みんな「慎ましい」けれど「丁寧な暮らし」を捨ててない)③憎悪が消されている(たぶんどこかにあるんだろうけれど、覆いがかけられている感じ。話し言葉がやけに丁寧だからそうなるのか)④人名や地名はほぼ出てこない(だからぼかしがかかったようなかんじになるのかもしれない)⑤ねじれた愛が真ん中に置かれる(ストレートにハッピーな恋愛や親子愛、兄弟愛は描かれない)こんなとこかな。
小川洋子さんが描く人々のことを、小野正嗣さんは「マージナルな人々」と呼び、それを小川洋子さん自身は「取り繕えない人々」と呼んでいる(文庫版『ことり』解説)。「喪失」という出来事は、本作の登場人物たちにとって「だれが」「なぜ」「どのように」起こるのか、全く不可知の現象となっている。それは社会や時代の変化の暗喩なのかもしれないし、死の暗喩なのかもしれない。いずれにしても、彼らはあまりに無知で無力で無抵抗だ。小川さんはそれを批判も否定もせず、ただ、労り、慈しみながら、物語を終幕まで引っ張っていく。そして登場人物たちは「取り繕う」ことを許されないまま���世界から消えてゆく。怒りや苛立ちの痕跡もないまま、空洞だけが残される。
小野洋子さんの作品を読んだ後に残される「哀しさ」を「喪失の作品」である本書の余韻と一緒にしばらく味わおうと思う。
読み終えてしばらくしてふと思った。
ミニマリストとか断捨離とかへの違和感が、もしかして本作の背後にあるのでは?
終活と称して片っ端から物を捨てたり、所有物から所有し返される束縛感を嫌って物を持たなかったり、とかくデジタル化に走って物の手触りや重みを捨てに走ったり。昨今、老いも若きも何やら「ミニマル」であることに駆り立てられているよう。
確かに物を捨てれば軽やかに生きられる。引越し貧乏にもなりにくい。仕事机も要らなくなるし、オフィスだって借りればOK。持たざる者はノマドになれる。モビリティこそが現代人にとっては「力」の源泉だから(これ、某大学の社会学の先生の講義で聞いたこと。福島第一原発関連の講義だった。逃げられる、どこでも暮らせる、っていうのが現代社会での生きやすさを決める要素になるとのこと)。
けれど、物や事というアンカーを無くしたら、人間は宙空に漂うことも許されずに、人間自体が消滅に向かうのでは?強さの先にあるのは、人間性の変質??あるいは消滅???
それでもミニマリストは困らないのかも。
だって、究極的には肉体も捨象してデジタル化したいのでしょう?そしてそれを人間と呼べるなら、こんなに「軽やか」なことはない。部材としてリサイクルできる肉体。「尊厳」なんてそんな重たい物、要らないでしょう?ミニマリストの皆さんには。
という、痛烈な皮肉に読める。
作中の世界では、実際、左足が失われ、右手が失われするのだから。
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とても面白く一気に読んでしまいました。
少しずつ「消滅」が進む島という不思議な設定。
わたし自身は「失う」ということは恐怖、パニックであると思っていたのですが、この島の人々は当たり前のこととして「消滅」を受け入れていて、その様子が妙に安らかで、その感じが何かとても寂しい、空洞のように思えました。
ある日突然何かの記憶が失われ、それが続いていく島が舞台。島に住む人々はそれを「消滅」と呼び、薔薇が消滅すれば、島中の薔薇を川に流し、植物園の薔薇は全て散ってしまいます。そして人々の記憶からも薔薇は消滅します。
しかしまれに消滅したものの記憶を失わない人がいて、(主人公の母親もその1人)彼らは「秘密警察」と呼ばれる謎の組織から狙われ、見つかれば連行されてしまいます。
秘密警察により母親を亡くした小説家の「私」は彼女の担当編集者であるR氏も記憶を失わない人であることを知ります。
秘密警察の「記憶狩り」を恐れた彼女はR氏を自宅の小部屋に匿まいます。
記憶を失わない側の人々(私の母やR氏)は消滅したものについての思い出たちを一生懸命伝えていこうとしますが、そうじゃない島の大部分の人は、それを理解することができません。
「消滅したものについていつまでも覚えていても役に立たないし、秘密警察に狙われる危険もある」と言って、消滅を受け入れてしまいます。
もしわたしがこの島の住人だったら、やはり消滅を受け入れて、表面的には穏やかに生きていくのかもしれません。
実際の世界でもわたし自身「こんなの間違ってる」「このまま何もしなければ大変なことになるんじゃないか」と思いつつも、自分自身は何もせず、為政者に任せている…
いつか全てが消滅することに漠然と不安を持ちながらも、消滅するがままに任せている島の人々と重なる部分があるかもしれないと思いました。
ただそれがいよいよ自分の身の消滅になるのなら、恐怖やパニックが起きそうなものの、島の人々は穏やかに受け入れていて、そこにすごく寂しさや虚しさを感じました。
この島で生きるにはそれが賢いやり方なのでしょう。でも、危険と分かりながらも必死に消滅に抵抗する人々の方がやっぱり「なんか良いなあ」と思えてしまいます。
この小説の面白いところの一つは、主人公の書く小説の世界が平行世界としてあるところです。
その小説の物語が、「私」とR氏の関係性にもリンクして見えてくるのですが、結末が予想と違った方に行くのも面白かったです。
また小川洋子さんの小説は好きなのでいくつか読んでいるのですが、静かに流れる時間や、虚しさを伴った美しさがこの物語にも感じることができました。小川洋子さんの単語のチョイスも好きです。
物語自体の面白さと雰囲気両方ともわたしは大好きな小説でした。
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400ページ、買ったその日に読み切ってしまった。
人生は思い出でできている。
何かを失ったことがあり、その辛さが時間の経過で風化してしまったことがあるすべての人が、なにか感じる話なのでは。
今大事に思っている何かへの熱量が失われる予感と、失った未来の自分への憂い、厭い。
描写が繊細で丁寧だから、哀しさとか儚さが際立って、余韻がすごい。静謐、という表現がぴったりかも。
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乾一家以外、もうすでに名前も無くしてしまっているのでは?
なぜこんなに静かに受け入れられるのか…忘却というのはこういうことなのか。覚えていたいと思う、焦る気持ちもなくなることを、いつか受け入れられるのだろうか。
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表示出来ないけど星2.5くらい。
多分良い小説なんだろうけど、私はあまりサクサク進まなかったから。
こんな話だったのか…。
と思った。
消失していく事以外は淡々と進む日常の風景で、中々読み進めなくなってしまったので中盤から流し読みしてしまった。
後半になって展開が有り、読み終えるとメッセージ性の強い作品だったなぁ、と思う。
でも流し読みしてしまったのもあって読み取りきれず。
主人公と、主人公が書く小説が、状況や思いがリンクしていてはっきりと描かれない主人公の心の内を小説が語ってくれる。
R氏…彼の視点から消失が描かれたらどうだったのかな。
周りと共感できない、っていう孤独が感じられそう。
消失すること…あった物や思い出のもの、使ってた物がなることって、いつまで心に残るのかな。
ポッカリ空いた穴や寂しさっていつ埋まっているのかな…自分の心が自由であることって…と色々考えさせられる小説。
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どこか私の心を肯定してくれているような、可視化してくれたような、空洞ができたような。淡々と澄んでいて滑らかで柔らかくて仄暗い、一冊まるまるとてもいい時間を過ごせました。