紙の本
照明を浴びた高価な宝石というよりは、ていねいに作られた陽だまりのビーズ細工。
2011/11/25 21:01
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:きゃべつちょうちょ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ファージョンという作家に、どうして今までめぐり合えなかったのだろう。
こんなにしゃれていてあたたかくなる本は、なかなかない。
ひとつひとつのお話のなかに、すごく大事で深いことが詰まっている。
それでいてとてもさりげない。
てのひらに乗せた卵を割らないように、ずっと握りしめていたいような、
そんな特別の思いをこの本に抱くひとは少なくないだろう。
ファージョンの脳内は、草原のように広かったのだろう。
ファージョンの心は、ひなどりのようにやわらかかったのだろう。
そうでなかったら、このような物語はきっと書けない。
この本はファージョン自らが短篇の中から選りすぐった自選集なのだが、
いちばん最初の「天国を出ていく」に、まずやられる。
単行本では27篇の収録が、文庫で2分割されているが、
2冊目のこちらの冒頭に「天国を出ていく」を持ってきた編集のセンスに拍手。
(どうなんだろう。ただ順番どおりに並べたらこうなったのかな?)
うつくしい空想のなかに、すこしだけシビアな目線。夢と現実が交差する。
「コネマラのロバ」、「ねんねこはおどる」、「サン・フェアリー・アン」、
「しんせつな地主さん」は、比較的長さがあり読み応えのある4篇だが、
どれもが読み終えたあとに、胸にあたたかいものがおりてくるような、
涙が出そうな幸福感をおぼえる。
心がふるえるとは、こういうことを言うのだろう。
そして、鮮やかで細かな描写。
「十円ぶん」の、男の子が機械をがしゃんとしてチョコレートが出てくるところ。
「ボタンインコ」のインコが女の子の指にちょこんと舞い降りるところ。
外国映画のワンシーンを観ているように、情景を伝えてくれる。
最後の「パニュキス」は、萩尾望都の初期の短篇に出てくるような、
少年のころ特有の淡い憧憬が綴られる。
少年の心のなかに住む、思いを寄せる少女のかれんさ、景色のうつくしさ。
夢をみているような一篇である。
そして「むかしむかし」の最後の二行にはう~んと考えさせられてしまう。
いまからでもファージョンに出会えたことに、感謝したい。
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この本、一つ一つの物語もキラキラしていてとっても素敵なんだけど、それよりなにより惹かれてしまうのは挿絵です。 どれ1つをとってもため息ものなんですよね~。 モノクロ(表紙は彩色されているけれど、それでも色数をぐっとおさえてある)なのに、色が浮かび上がり、静止画なのに空気や風が香り立つような感じ・・・・・とでもいいましょうか。
そしてそれにさらに輪をかけて素晴らしいのが石井桃子さんの美しい日本語です。 これにはもちろん著者であるファージョン自身の持っている品格・・・・のようなものも大いに寄与しているとは思うのですが、それを石井さんの甘すぎず、かと言って淡々とはしすぎない絶妙なバランス感覚で選び抜かれた日本語がさらに素敵なものにしてくれている・・・・・そんな素敵な短編集だと思います。
(全文はブログにて)
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図書館から借りました
児童書。短編集。ファンタジー。
麦と王様(本の小べや1の方)が好きで、それの流れで手にした本。
ガラスのクジャクが、切ない。
弟君を殴りたくなりましたがね。 姉ちゃんが優しい良い子だからよけいに。なんて終わり方。
1の方が好きだな。
2はなんか「パニュキス」にしろ「ガラスのクジャク」にしろ、終わりがハッピーエンドではないから。
二つとも綺麗な話なのだけれど。
パニュキスは女の子(五歳)の名前。彼女に恋した男の子(従兄で、ほとんど同じ年)は彼女のために詩を作る。可愛らしい、妖精みたいなパニュキスはある日唐突に消えてしまう。そして帰ってこない。(引っ越したとかではない。彼女の親でさえ、彼女の居場所がわからないのだから)
男の子は大人になり、生きるのが辛くなると不意にパニュキスの「もっとたのしそうに」という声が天や地からはっきりと聞こえてくる、という。
なんとも。薄ら寒くないですか?
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「≪ねんねこはおどる≫」が好きです。(「こ」は小文字)
読みながらにやにやしちゃいます。
読み易いのは翻訳がええからなんかなあ。嘆息。
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色んなタイプの話があったけど、どれも良かった。
どの話も登場人物たちのやりとりが面白い。
『小さいお嬢さまのバラ』『コネマラのロバ』『《ねんねこはおどる》』『サン・フェアリー・アン』『しんせつな地主さん』『パニュキス』が特に好き。
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≪県立図書館≫
「サン・フェアリー・アン」がとても気に入った。
「コネマラのロバ」も、先生がややひいき気味だが、かわいくて素敵なお話だった。
「十円ぶん」も、かわいい。
子どもの描き方が素敵だ。
「しんせつな地主さん」では、最後、やたらと感動した。
きれいな、と表現すればよいのだろうか、かわいくてとても素敵な本だった。
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子供の頃読んだ時はただ退屈だった記憶。でも今ファージョンを読むとただ涙が出る不思議。なんて美しくて優しくて、懐かしい世界なんだろう。
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あーよかったっていうお話がいいです
小銭を持って駅で一日を過ごすのが何とも楽しい「十円ぶん」
ひぃおばあちゃんとのあったかいおはなし「ねんねこはおどる」
くじをひく「ボタンインコ」
人形との再会「サン・フェアリー・アン」
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『リンゴ畑のマーティン・ピピン』はもう庭井さんのリストに入っていましたが、ファージョンと果物ならば、私はこちらの話の方が印象深いです。天国に住んでいる3人の王子様が食べているのが”煮た果物”ですがリンゴも使われています。二人目の王子様が天国を出て行かなきゃならなくなったときに、お皿にポンと出るのがまるごとのリンゴです。これは、フランスの子どものまりつき歌?を耳にしたファージョンが空想をたくましくしてお話に仕立てたもので、ちょっとナンセンス感があります。
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『ムギの王さま』に続くファージョン短編集。
風刺をまじえたものから昔話ふうのものまで様々なので、好きな話は分かれるかもしれません。
『小さいお嬢さまのバラ』は、ストーリーテリングでもよく語られるお話です。
石井桃子さんの翻訳は原書の雰囲気をふまえておられ、素晴らしいと思いますが、本(特に翻訳物)を読み慣れていない子には理解が難しいような気もします。
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懐かしいあの日の思い出。
ファージョンの短編集。昔読んだ懐かしいお話がたくさん収められている。覚えていないものも、なんとなく懐かしい。
「サン・フェアリー・アン」いつも難しい顔をしているキャシー。その理由は。子どもには説明したくない世界がある。それを掬い上げてくれる優しい大人のありがたさ。
「しんせつな地主さん」ケチなお金持ちのチャードン氏が、しんせつな地主さんとして知られるようになったのは。財産を残すとはどういうことか、考えさせられる話。