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同様の初期条件のもと、変数となるパラメータが、一定期間後の社会にどんな違いをもたらすかを統計的数値ベースで比較する。対象は、ポリネシアの島々、インドの地主制度、奴隷貿易など。環境の影響、民主的しくみの重要性などがわかる。
歴史の新たな捉え方を知る。人類の行動の積み重ねの上に今があることを再認識。
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自然科学の実験のように人類史を実験できるのか?実験したら何がわかるのか?ジャレド・ダイアモンド、アビジット・バナジー、ダロン・アセモグルらが野心的に比較考察し、統計データを取り込む理系的アプローチを軸にしながらパターン、法則性を見つけようとする「自然実験」をまとめた著作。
特に面白かったのが第2章、第3章、第4章、第6章、第7章。
第2章の「アメリカ西部はなぜ移民が増えたのか」は植民地の成長の三段階、すなわちブーム、バスト(恐慌)、移出救済、で進むという。
第3章の「銀行制度はいかにして成立したか」はアメリカ、ブラジル、メキシコを比較しつつ、なぜアメリカは競争がうまく機能したかを官僚の権限と決定権の範囲、参政権などの要素から分析する。
第4章の同じカリブ海に浮かぶイスパニョーラ島のドミニカ共和国(東側)とハイチ(西側)が、豊かな前者と貧しい後者で極端に別れた理由を分析する。そもそもハイチの方が豊かだったにかかわらず逆転した理由を、スペインとフランスの統治、アフリカからの奴隷の受け入れ、気候など自然環境の違い、後に現れた独裁者の振る舞いかどから考察する。
第6章は「イギリスのインド統治はなにをもたらしたか」。地域ごとにばらつきがあった地税徴収制度の違いによって発展度合いが大きく違ったという。
第7章は「フランス革命の拡大と自然実験」。ドイツ、というより旧プロイセンのフランス革命・ナポレオン戦争前後の封建制度の崩壊=農地改革と成文民法、ギルド廃止、ユダヤ人解放のそれぞれの軸で評価される。
学者らの仮説をつくる大胆さと、統計学的アプローチで丁寧に論を検証する謙虚さが浮かび上がる。学者は殻に閉じこもるのではなく、開かれた世界で学問横断的な姿勢で研究にあたるべきなのだろう。この本で取り上げたテーマに対する批判についてもオープンであるのは印象深い。私は研究者ではないが
こういう姿勢は本当に尊敬に値する。
最後に、P126とP252の言葉は特に心に残ったのでここにも残しておく。
「パターンが当てはまるかどうか評価する作業は歴史学者が得意とするところだが、歴史学者は自ら研究分野以外での疑問にも積極的に取り組まなければならない。ほかの分野の言語やテクニックを学び、比較研究の枠組みで考えることが肝心だ。」
「歴史や社会に関する従来の研究よりも、自然実験が優れているのは、エピソードの決定要因を詳しく理解できる手段が与えられるからだ。本章では、このようなアイディアを具体的な状況に改める際には何が関わってくるかを紹介し、現実の社会現象を自然実験として採用するために、どんな嫌悪に取り組むべきかを詳述している。歴史は、実験にふさわしい出来事で満ち溢れている。これまでは、歴史学者が自然実験について考えたことがなかっただけだ。自然実験を系統的に行えば、歴史、社会、政治、経済などの分野で変化の長いプロセスを促した。重要な力について理解を深めることもできる。」
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ジャレド·ダイアモンドと「歴日は実験出来るのか」と言う邦題名で選んだが、ダイアモンド氏は編者であって、7章のうち「ひとつの島はなぜ豊かな国と貧しい国にわかれたか」と言う章のみを書いているだけだった。
本内容の他、ポリネシアの島々における文化の相違、各国政治制度と銀行制度の関係性、奴隷貿易の影響、イギリスによるインド統治の地域的影響の違い、フランス革命が欧州各国に残したもの が、歴史的な事実とデータを元に、何がそうさせたか(何故そう言う結論となったのか)を考察していく。
馴染みのないテーマは、正直退屈だったが、ダイアモンド氏の章と「奴隷貿易はアフリカにどのような影響を与えたか」は、興味深く読めた。
最近アメリカはアフガニスタンから全面撤退したが、当初は第二次世界大戦後、アメリカの寄与によって日本の民主主義化に成功したことを思い描いていたのではないか。そう言う意味では、何が違って思い通りにならなかったのか考えれうる本テーマにはならないだろうか。
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『銃・病原菌・鉄』や『文明崩壊』で有名になったジャレド・ダイヤモンドが編者となっている本書。様々な研究者が、世界各地で「似たような条件を持ちながら、全く違う画経緯をたどったように見える事例」を比較検討し、「自然史の実験をする」というのがこの本の目的。
ポリネシアの島々が多様な政治形態や産業の発展度合いを呈したのはなぜなのか、アメリカ西部に移民が増えた理由は何か、アメリカ・ブラジル・メキシコの銀行制度はどのように発生し発展したか、同じ島にあるハイチとドミニカにはなぜ大きな格差が生まれたのか、奴隷貿易はアフリカの各国にどのような影響を与えたか、イギリスのインド統治によりインド各地にどのような爪痕を遺したか、フランス革命がドイツの各地にどのような影響を遺したか、というのが各章のテーマ。このうち1つか2つ、面白そうだと思えたら、読んでみてもいいかもしれない。
個人的にはハイチとドミニカの比較検討、アフリカの奴隷制度の歴史と影響、イギリスのインド統治あたりが読みやすく、知らないことも多々あって勉強になった。オムニバス的に、ちゃんとした研究者がきちんとまとめた論文を手短に読める、と考えると、結構お得な本だと思う。
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https://kinoden.kinokuniya.co.jp/shizuoka_university/bookdetail/p/KP00019224/
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本書は、史資料の読み解きを中心とする従来の叙述的な手法に依らない、定量的或いは統計学的な分析による比較研究法を用いた歴史研究事例の紹介。例えば、第6章の「奴隷貿易はアフリカにどのような影響を与えたか」では、1400年から1900年にかけて連れ去れらた奴隷の国別の推計数を算出、また土地面積で正規化した奴隷の人数と2000年の一人当たり所得の平均を散布図に示して、アフリカでも特に多くの奴隷が連れ去れた地域では今日のアフリカで最も貧しい国であることを示している。その他の章も、とても興味深い。
おそらく、史資料の読み解きを中心とする従来の叙述的な手法とともに、統計的手法を用いた比較研究の手法も歴史研究の中で増えていくのだろう。そして、どちらにも学問を深めるためのメリットがあるのだろう。これらが有機的に融合することで新たな視点での歴史学の展開を私たち一般人にも見せてもらいたいと思う。