紙の本
「文明開化だか何だか知らぬが、そんなことで俺達がいなくなると考えるのは底の浅い人間ならではだ」
2010/07/15 11:07
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:成瀬 洋一郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸幕府から明治政府へと移行して5年。
文明開化の世の中でもオバケは出る。獣だって住処を奪われれば人里に降りてくるのだから、妖怪だって今までいたものがいなくなるわけではない。
小春は百鬼夜行からこぼれ落ち、迷子になった小鬼。その小春に居候されてしまうのが、妖怪より怖いと言われる古道具屋の喜蔵。この2人がなんの因果か、次々と起こる妖怪騒動に巻き込まれていくというか巻き起こすというか。小野不由美の『東亰異聞』よりはユーモアがあってほんわりしていて、宮部みゆきの『霊験お初捕物控』あたりの時代小説と比較すると妖が前面に出ている……そんな雰囲気の話です。
人づきあいが悪く、いつも不機嫌そうな喜蔵と、簡単に迷子になるような新米の鬼のくせに、なぜか周囲の妖怪たちには顔の利く小春。この2人のかけあいというかやりとりが面白く、もはや喜蔵がツンデレにしか見えないのです。
紙の本
著者コメント
2010/07/12 17:20
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ポプラ社 - この投稿者のレビュー一覧を見る
私が小説家になろうと決意したのは、高校三年生の夏。美術コースに通っていた私は、高校三年間美術を学んだ結果、(自分にとって美術は一生やり続ける仕事じゃない)と気づき、絵は趣味にしようと考えました。では、将来何になりたいのか――その時思いついたのが小説家です。元々小説を読むのは好きでしたが、書いたことはありませんでした。それなのに、(書ける)と少しも疑わなかったのです。歴史にも興味があった私は、いつか時代小説が書きたいと思い、大学は史学科に進学しました。
『一鬼夜行』の舞台は明治五年。文明開化真っ最中のわりに、瓦版や噂話の中では、まだまだ妖怪騒動が語られていた時代でした。虚実の狭間で揺れる妖しい時代の初夏、古道具屋の主人・喜蔵の元へ、力のある妖怪たちが真夜中の空を行列する「百鬼夜行」からはぐれて迷子になった鬼の小春が落ちて来るところから物語は始まります。
『一鬼夜行』は、私が初めて書き上げた小説です。小説家になろうと決めてから細々と書いてはいたものの、どれも完成までは至りませんでした。このままでは一生書き上げられないと思い、大学卒業後は就職を断念して、執筆活動に奮起しました。百鬼夜行から迷子になった鬼は、まずそんな私の元へ落ちてきたのかもしれません。
この話の登場人物は、人間の喜蔵も深雪も、鬼の小春も河童の弥々子も、皆独りぼっちです。かくいう私も独りぼっち――親や友人がいようとも、人間はたった独りで踏ん張っているのだと思うからです。だからこそ、誰かと繋がりあって生きているのでしょう。
厚い友情で結ばれているわけでも、激しい恋情で縛られているわけでもないけれど、「見えない何かでちゃんと繋がっているんだ」と独りぼっちの登場人物たちが思ってくれたら……そんな気持ちでこの話を書きました。読者の方にもそういう部分を感じ取って頂けたら嬉しいです。もちろん、次々に巻き起こる妖怪騒動にもご注目下さい!
小松エメル
(作品紹介)
江戸幕府が瓦解して五年。強面で人間嫌い、周囲からも恐れられている若商人・喜蔵の家の庭に、ある夜、不思議な力を持つ小生意気な少年・小春が落ちてきた。自らを「百鬼夜行からはぐれた鬼だ」と主張する小春といやいや同居する羽目になった喜蔵は、次々と起こる妖怪沙汰に悩まされることに―――。
あさのあつこ、後藤竜二両選考委員の高評価を得たジャイブ小説大賞受賞作、文庫オリジナルで登場。【刊行に寄せて/後藤竜二、解説/東雅夫】
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2010.08.14 読了
物語冒頭をすっかり忘れた頃にガツンとやられました。
うまいな〜
大まかな設定は珍しくないのに細かい要所要所が新しい。
続きがあったら読みたいラスト。
しかし深雪最強だ!
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王道ものだったけれど、私は好きな話でした。
少し残念だったのは、意外性に欠けていたことと、登場人物たちが味があるようで、もうひと押し欲しい!と思ってしまったところです。
終わり方も、王道中の王道でしたが、これはこれで良いんじゃないかな。
とても読みやすい作品でした。
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“「見れば分かるだろ」
待ってましたとばかりにえへんと小さな胸を張る子どもに、まるで分からんと人相の悪い男は真顔で首を横に振る。一目瞭然だろうにと小春は唇を尖らせたが、男は瞬き一つもせずに小春を無表情に見下ろすだけだった。
「…………」
「…………」
間の抜けたような妙な沈黙に、先にしびれを切らしたのは小春だった。
「……えー、ごほんっ」
一つ咳をして茶を濁した小春は、すうっと息を吸い込んで、再び胸を張って宣言した。
「俺は百鬼夜行に欠かせない……鬼だ!」
男はきょろきょろと辺りを見回し、無精ひげの生えかかった顎を気だるげに撫でた。
「百鬼夜行のくせに一鬼しかいないではないか」”
キャラが良かった。
面白いけど、時々少し読み辛かったり。
巧みにちょこっと隠された伏線とか。
結構よかった。
最後がちょっとあっさりと。
“「こんなに弱い者を傷つけるなど、俺は絶対許さねぇ……見ろ、この傷。可哀相に……」
子猫の背を優しく撫でた彦次は、懐から出した手拭で猫の止血をし始めた。手先の器用な彦次は手当ても手際よい。しかし、その手を摑んで止めたのは小春だった。
「――そのくらいにしておいた方がいいぞ」
姿も声も小春には違いないというのに、彦次にも喜蔵にもそれが小春だとは思えず、二人して一瞬動きを止めた。
「猫は化けるからな。なまじ情をかけぬ方がいい」
色の見えぬ瞳が彦次を困惑させたが、気圧されながらも猫を介抱する手は止めなかった。
「優しさが仇となることもある」
「そりゃあ――いや、情からやっているわけじゃない。ここらでのたれ死にされたら可哀……そう、掃除が大変だし、胸がいた……胸糞悪いから手当てしてやっているだけだ」
自分は情からやっているのではないからいいのだと言い返してくる彦次に、冷たい目をしていた小春はフッと相好を崩す。
「優しいと褒めているのに、おかしな奴だな」
いつもの子どもらしい明るい顔に戻った小春は腰を折り曲げ、ひょいっと彦次の手から子猫を奪った。慌てて取り返そうとする彦次の伸ばした手をひらりと避け、小春はうふふと笑い声を立てる。
「俺が介抱してやる。信用出来ぬだろうが、悪いようにはしない」
彦次は目を瞬かせて、いや、と小さく頭を振った。
「お前のことは信用出来るよ」”
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百鬼夜行から落ちてきた鬼の小春。並の妖怪よりも恐ろしい閻魔顔した喜蔵は、嫌と言いながらも同居する。河童や天狗や妖怪達とのやりとりが楽しい。
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妖怪が乱痴気騒ぎするカワイイ作品かと思っていたら、予想以上に硬派に世界観を構築しているしっかりした作品でした。
登場人物が魅力的だったので、続編書いて貰いたいな。
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ううーん、意外や意外、最後の方にホロリ。
でも表紙がちらついて、閻魔のような顔の喜蔵があんまり想像付かなかったり。
表紙のイメージって大事よー。
妖怪小説なのでも少しどろんどろんに恐ろしくても良かったのだけど、腹の虫のせいで台無しだ!そういうのも嫌いじゃないけど!
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それぞれの登場人物が、物語の中で本当に生きているような気がしました。皆悩んでいて、不器用で愛くるしい。
喜蔵の取った最後の行動には、ほろりとさせられました…
続きが読みたい一冊です。
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一鬼夜行シリーズ1作目。
江戸幕府瓦解から5年。強面で人間嫌いでへそ曲がりの喜蔵の元に小春というかわいい鬼が落ちてきた!
もう小春がかわいいー!箸の持ち方を教えてもらったり、拗ねたり、牛鍋をねだったり… 楽しくて暖かくてちょっとしんみりする良い話。
物語の終わり方も素敵なこと!
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はじめはどうにもとらえにくい喜蔵のキャラクターが厄介でしたが、
読みきってみればそれが良い味出してたんですね。
http://feelingbooks.blog56.fc2.com/blog-entry-825.html
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文明開化の江戸に鬼?
閻魔もビックリのオーラを撒き散らしている仏頂面の喜蔵
百鬼夜行から転がり落ちた鬼の小春
とっても文章が丁寧に書かれている気がしました
少し切なくてふわっと暖かくなる本でした
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百鬼夜行から零れた鬼と、
それを拾った(?)妖怪も怖がる強面な人間の物語。
人間不信な主人公・喜蔵が鬼の小雪と出会い、
小雪や他の妖怪、そして人との関わりを通してどんどんほだされていく。
こう書くと展開的にはありきたり・・・王道、かとも思うけれど・・・・
でも、面白かった。
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百鬼夜行から落ちてしまった一匹の鬼・小春と、面倒を見ることになった喜蔵。
視点がくるくる動くのに慣れれば、二人の掛け合いが楽しい。
ラストもすっきりして良く、妖怪モノとしておもしろかった。
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初め本に入るまでよみにくかった。人間嫌いの人間、喜蔵のかたくなさと人間大好きの妖怪小春の掛け合いがいい。どちらも頑固で、意地っ張りなところが楽しい。