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【はじめに】
本書は、多くのアメリカの大学で生物学教科書として採用されている『LIFE』の「細胞生物学」「分子遺伝学」「分子生物学」の三巻を邦訳したものである。『LIFE』は全58章だが、この三巻ではそのうちの19章をカバーしている。
ブルーバックスに収められた三巻の内容は以下の通り。
第一巻(細胞生物学): 生物学とは何か、生命を作る分子、細胞の基本構造、細胞内・細胞間の情報伝達
第二巻(分子遺伝学): 細胞分裂、遺伝子の構造と機能
第三巻(生化学、分子生物学): 細胞の代謝、遺伝子工学、発生と進化
簡単ではない内容だが、ふんだんに配置された丁寧なカラー図解が理解を助けてくれる。旧版では第四巻 進化生物学、第五巻 生態学が同じくブルーバックスから出版されている。
kindle版で読んだが、図表の関係で文字サイズの調節、ハイライト、検索などができず、仕方がないとはいえそこは残念。
【概要】
第一巻の内容は、第1章から第7章までの7つの章がまとめられている。
第1章は、生物とは何か、そして生物学とは何なのかを最初に説明したものである。生命の誕生から、進化と遺伝、原核生物(細菌・古細菌)・真核生物といった分類、生物全体の共通項、生命維持の仕組みとしての代謝とホメオスタシスなどの概念が一通りここで説明される。本書の後の構成はそれらについての詳細を解説していくことになる。
また、生物学の重要な手法として、仮説・検証のメソッドや統計学的手法の重要さが語られる。後に掲載されている演習問題を通してこの基礎となる考え方は何度も繰り返し確認されることになる。また、生物学の射程として、医学、社会学、環境学にまで適用が広がることが示され、学習のモティベーションと本書が広く読まれるべき理由を示している。
第2章は、原子・分子といった一般的には化学で習う知識を復習する。陽子・電子・中性子など原子の構成、メンデレーエフの周期律表や同位体、共有結合、イオン、pH、酸化還元などを一通り見直している。生物学をここから始めるのかという驚きと、現代の生物学は化学分野とより一層密接な結びつきを必要とすることが理解できた。生命を研究したいと言って理学部科学科の有機化学専攻に進んだ大学時代の友人のことを思い出した。
第3章は、タンパク質、糖質、脂質といった生命を構成する高分子について解説する。第1章をサンゴ、第2章を恐竜から始めたように、第3章はクモの巣から始められる。クモの糸は特徴的なアミノ酸構造をもつタンパク質だということである。この辺りの構成は、教科書といえども興味を引き付けることが必要な読み物であることが強く意識されていることがわかるところであり、彼の地の学生のことがうらやましく思える。高分子については、その定義、官能基、加水分解・縮合、タンパク質のペプチド結合や三次元構造、異性体などが解説されている。
第4章は、核酸、いわゆるDNAやRNAを構成する高分子について解説する。ヌクレオチドや二重らせん構造、遺伝情報の転写や翻訳の仕組みが、これまでの章で学習した知識を援用しながら解説される。また、生命の起源と��てのRNA仮説や、細胞の起源についてもまだ確証が得られていない仮説としてここで語られている。
第5章は、細胞の構造と機能の解説である。膜によって外界と内界を隔て、細胞というユニットができたのは画期的な出来事である。ここでは原核細胞と真核細胞およびその各細胞小器官について解説されている。これだけ複雑なものが一人の人間の人体には37兆個もあって、それらが絶えずバランスを取って全体としての維持活動を継続しているというのは改めて全く不思議なことである。核、細胞膜、細胞壁、ミトコンドリア、中心小体、リボソーム、ゴルジ装置、小胞体、などの細胞内器官とそれらの機能が紹介される。
第6章は、細胞膜の機能を解説する。脂質二重葬である細胞膜は細胞を外と内に分けて相互作用を媒介する重要な機能を有している。この細胞膜のイオンチャネルを通した物質輸送やエンドサイトーシスによる高分子の取り込みなどの機構が紹介される。
第7章は、多細胞生物における細胞間の情報伝達について解説する。化学的信号(リガンド)とその受容体タンパク質による情報授受の仕組みなどが挙げられるが、とにかく多様な情報伝達の方法があることがわかる。おそらく情報伝達手法が多様であることが最適なバランスを個体成長や種の進化の過程で調整することを可能にしているように思われる。
【所感】
ここで解説されている内容は、「人間」というわれわれ自身に関して積み重ねられた科学的知識であり、それが影響を与えるべき射程は、生物学という狭い学問領域にとどまるものではなく、医学は当然のこと、心理学、哲学、情報理論、社会学など多くの学問に及ぶ上、さらには学問という枠にはとどまらず、人生を生きていく上での基礎知識として知っておくべき事柄のように思われる。ここで説明されている内容は、研究上で必要となるレベルまで操れなくとも、こういう仕組みで生物は動いているのだという知識としてぼんやりとでもその概要をつかんでおくことは倫理的観点からも必要なもののように思う。だからこそ、ハードだとは思うがこの本を手に取った。
周期律表や高分子の化学的性質、細胞の各機能の分類などはかつて学んだことだったように思うが、具体的な機構や情報伝達の方法に至っては初耳であることも多く、実質的に読み飛ばすところも多かったのだが、知識の再確認や積み上げとしてずいぶんと役に立った。
本書は多くの大学で教科書として使われているが、MITでは一般教養の生物学入門の教科書に指定されており、生物を専門としない学生も含めてこの内容を学んでいるという。さすがだと思うが、ブルーバックスでこの値段でこの本が刊行されている日本という国も悪くないと思う。
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『カラー図解 アメリカ版 新・大学生物学の教科書 第2巻 分子遺伝学』(デイヴィッド・サダヴァ)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4065137446
『カラー図解 アメリカ版 新・大学生物学の教科書 第3巻 生化学・分子生物学』(デイヴィッド・サダヴァ)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4065137454
「もはや別物? アメリカ版 新・大学生物学の教科書はこんなに変わった!」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80840
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だいぶ程度が高いと思われる。さらに化学式が非常に多く、単に生物学の知識だけでは読み切れないものがある。
しかし、現在の生物学の進展を知るにはいい本であると思われる。
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【琉大OPACリンク】
https://opac.lib.u-ryukyu.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BC05543260
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「エッセンシャル植物育種学 農学系のための基礎 (國武久登他著)」を読んで生物学の基礎を勉強することに。図書館で借りて読んだ。
これは米国の標準的な大学の教科書なんだろうか。著者等は政策決定者となる文系の人間でも最低限の科学的知識を持つべきであるとこの教科書を著したという。
本著の構成はただ整然と知識を伝えるだけでなく、問題を考えさせる仕掛けが施されている。おそらく大学生が予習して自分なりを答えを持って授業に臨むだろうことは容易に想像がつく。たいしたものだ。
じっくり考えながら読んでいる訳ではないが、基本的な知識の整理ができる一冊だ。