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田中拓道(1971年~)氏は、国際基督教大学教養学部卒、北海道大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学、新潟大学法学部准教授などを経て、現在一橋大学大学院社会学研究科教授。専門は比較政治経済学、福祉国家論、政治理論。
本書は、「リベラル」と呼ばれる政治的思想について、その歴史を踏まえて、今後どのような可能性を持つのかを検討したものである。
私は、今般米国の大統領選挙で民主党のバイデン氏が勝利したことにより、米国(人)がギリギリのところで良識を示したと思っているが、過去10年程の世界に見る「リベラル」の退潮には大きな危機感を抱いており、その可能性を探るべく本書を手に取った。(最近では、萱野稔人『リベラリズムの終わり』なども読んだ)
本書のポイントは概ね以下である。
◆現代のリベラルとは、「価値の多元性を前提として、すべての個人が自分の生き方を自由に選択でき、人生の目標を自由に追求できる機会を保障するために、国家が一定の再配分を行うべきだと考える政治的思想を立場」を指す。
◆リベラルは歴史的に、①19世紀末から20世紀初めにかけて、経済的自由主義(古典的自由主義)を修正し、個人の能力の発展と自由な生き方を保障するために、国家が幅広い分配を行うべきだとする思想(リベラル)が登場した、②1970年代、経済成長と産業構造の変化によって都市部に中産階級が増大すると、価値の多様性を重視する、文化的価値観に基づくリベラルが登場した、③1990年代以降、文化的価値観に加えて、グローバル化の進展に伴い、個々人の抱える多様なリスク(新しい社会的リスク)に合わせたきめ細かな財とサービスの分配を国家に求めるように、リベラルが変容した、という凡そ三段階を経て今日の形になった。
◆「現代リベラル」は「リベラル(個人重視)+国家中心」という価値観を持ち、「保守(共同体重視)+市場中心」の「ワークフェア競争国家」、「保守(共同体重視)+国家中心」の「排外主義ポピュリズム」と対抗関係にある。(この説明では、ノーランチャートに似たマトリクスが使われている)
◆現代リベラルが政治的な力を持つためには、リベラルな価値観を持つインサイダー(安定した正規労働者)と、「新しい社会的リスク」に晒されたアウトサイダー(不安定な非正規労働者)の間に、政治的な連携を作る必要がある。
◆今後も、産業構造の変化、働き方の多様化、家族の多様化、(日本に住む人の)民族や宗教の多様化が続いていく中で、価値観が多様化し、個々人の抱えるリスクが益々個別化していくことは間違いない。そして、そのときに大切になるのは、排外的な民族意識や復古的なナショナリズムではなく、国家が、あらゆる個人の価値観やライフスタイルの自由な選択を保障する環境・制度を整備することでしかありえない。リベラルは今も模索の途上にあるが、その可能性が見出せるのではないか。
「自由」と「平等」はある意味相反する概念と言えるが、人間にとって最も大切な「個人が尊厳を持っている」というのは、その二つがバランスをとって実現されている状態にほかならない。ある著名な某大学学長は、「保守」とは、人間���これ以上賢くなることはできず、よって現状のままでよいとする考え方で、「革新」とは、人間は更に賢くなることができ、よって現状よりも改善をめざす考え方であると言うが、それに基づくなら、人間はもっと賢くなれるし、「自由と平等」がより良く両立した世界が実現できるはずである。
リベラルの可能性について、考えさせてくれる一冊と思う。
(2021年1月了)
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田中拓道『リベラルとは何か』中公新書 読了。現代においてもその可能性はあるのか。思想的内容や歴史的変遷をコンパクトにまとめた上で、どんな政策を掲げるか、どんな立場の人々から支持されるかを結びつけて検証していく。印象的だったのは、積極的差別是正措置が排外主義を生みやすいという指摘。
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リベラル
価値の多元性を前提、自分の生き方を自由に選択、目標を自由に追求、を保障のため
国家が一定の再配分を行う政治的思想と立場
アメリカ 自由放任主義から、大きな政府を求める勢力
ヨーロッパ 封建勢力への改革勢力から、社会主義に対抗する小さな政府を求める
ケインズ主義的福祉国家
生産性の政治 階級対立を解消 リベラルコンセンサス 1945~1975年
19世紀 自己調整的市場 実現せず植民地競争、世界大戦
ケインズ 一定の国家介入「マクロ経済政策」
べヴァレッジ ニューリベラリズム 自由市場のための国家の雇用政策、再分配
グローバル化 資本移動の規制撤廃、金融自由化
「新自由主義」 経済的自由を前面 国家は市場を機能させるルールの保証だけ
「価値の多元化」ハイエク
「選択の自由」フリードマン
サッチャーとレーガン
1.マネタリズム 通貨安定のため歳出削減と金融引き締め
2.サプライサイド改革 主要産業民営化、金融ビッグバン
3.福祉削減
トリクルダウンは起こらず格差拡大 社会支出拡大 道徳とナショナリズム
法人税率低下、税収減らず 公的支出増加 2015年の日本 1990年の2倍
「文化的リベラル」 社会運動 社会的文化的自由 国際競争外の中産階級が担い手
「ギグ・エコノミー」 個人事業主 不安定な立場の人の増加
「底辺への競争」産業空洞化を避けるための規制引き下げ競争
『ワークフェア競争国家』【市場中心/保守】
ガバメントからガバナンス
1.国際競争に打ち勝つ経済社会条件を国家が整備 産学共同
2.福祉はワークフェア 権利より就労義務へ
3.民間アクターと協力
『現代リベラル』【国家中心/リベラル】
事後の分配ではなく事前の投資
1.リベラルな年金改革 縮減と個人化
2.多様な働き方を保障
3.最低所得保障
様々な利益とリスクを抱えた人を結び付け、説得する理念と政策パッケージ
『排外主義ピュリズム』【国家中心/保守】⇔『ワークフェア競争国家』
グローバル化で不安定=文化的保守、+自国優先の福祉
リベラルな政策を行うほどリベラル=中産階級の自分たち の支持が減る
普遍主義的制度 連帯意識高く、選別的になるほど排他主義に
→リベラルの対抗策:
雇用と福祉のワンパッケージでインサイダー/アウトサイダー分裂を防ぐ
日本 リベラル=護憲・平和主義
保守 =改憲・軍事強化
日本のブルジョワジー:自由主義ではなく、政府の庇護で発展
日本型福祉社会
企業の活力/地方農村、中小零細企業保護/男性稼ぎ主
バブル崩壊、グローバル化でくずれる
第二次安倍内閣 「新自由主義」から「ワークフェア競争国家」への転換
三重苦
恒常的財政赤字の拡大:低税率の経済成長
少子高齢�� :仕事と家庭、ケアとの両立
格差の固定化 :女性の就労≒非正規雇用
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アファーマティブアクションの排他性、難しいところだけど落とし所を探る上では確かに著者の言う通りなのかもしれない。
リベラルという言葉の日本における混乱についても大変わかりやすかった。
自民党の限界さが随所に溢れている今こそ、リベラル確立の絶好の機会だと思うので、政治と社会運動の融合をうまく進めて欲しい。そして実感としてはだいぶ進んでいる気もするので、そう思うとやや明るい気持ちにもなる。
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政治の素人なので、書かれている内容の全てが初めて知ることばかり!とても勉強になりました。
本書を手に取った時点では、リベラルとは護憲・平和主義を指すと思っていたので、リベラルの定義から確認することに。(リベラルとは、「価値の多元性を前提として、すべての個人が自分の生き方を自由に選択でき、人生の目標を自由に追求できる機会を保障するために、国家が一定の再配分を行うべきだと考える政治的思想と立場」を指す、とのこと。)
今の私は、まさにアウトサイダーなので、国家が一定の再配分をしてくれるととてもありがたく思います。日本でもリベラルの考え方がある程度根付くことを期待します。
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このところ「戦後民主主義」「朝日嫌い」と続けて戦後の保革という政治的対立構造の変化についての新書読みが続いています。今度は「リベラルとは何か」。副題の「17世紀の自由主義から現代日本まで」が示すように、戦後という時間軸をズズッと延ばし、空間も世界視点でババッと拡げ、大きな構造としてリベラルという概念の変遷を捉えることが出来ます。何回も繰り返し使われる、国家中心↔市場中心の横軸とリベラル↔保守の縦軸の4象限の図がわかりやすく、様々な事象の意味がわかりやすくなりました。その中で、リベラルという言葉の変化は世界的な流れの中にあって日本もグローバルとシンクロしていること、しかし、日本の特殊性も存在し、それは古典的自由主義が根付いていないことに起因するということ、なんとなく感じていたことが納得に変わりました。本書を読んでからの週末の都議選、本当に選択肢の無さが身に沁みました。例えばオリンピックの開催の可否を4象限に落とし込むとしたら、とか考えますが、古い図式しか浮かび上がらず気持ちが落ち込みます。一方、中国共産党の100周年でのリベラリズムを鼻で笑うようなメッセージにも、ため息が出てしまいます。本書の終章「リベラルのゆくえ」を経て、次は「アフター・リベラル」を開いてみます。
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現代リベラルの定義とポピュリズムや排外主義等の対立する思想と、その克服の仕方をデータを用いて示した本。
思想の解説だけでなく、排外主義を抑え込むための政治制度設計をはじめ、示唆に富む内容だった。
リベラルのジレンマやリベラルが確立しない要因等の課題が興味深かった。
リベラルが確立しないのは、現代リベラルの支持者(高学歴層)と産業構造の転換前の左派支持者(工場労働者)の連携がないこと、リベラルな運動と再分配とのつながりが弱いから。
後から読み直したい。
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20210314〜0404 「リベラル」について、様々な側面からわかりやすく分析していた。タイトルの通り「リベラルとは何か」といわれると、確かにピンとこない。まず著者は現代のリベラルは「すべての個人が自由に生き方を選択できるよう、国家が一定の再配分を行うべきだ」と考える、と定義している。欧米のリベラルと我が国のリベラルのとらえ方の相違についても丁寧に解説しておりこの手の思想史に詳しくない私にもわかりやすかった。また、著者は現代リベラルの対抗軸としての「ワークフェア競争国家」を定義づけている。これは80年代に英米で選択された新自由主義の発展形であり、分配政策においては市場中心、文化的には保守の立場をとる、としている。
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6章のまとめがすごくよくできている。経緯を丁寧に追いかけるのはちょっとくたびれるが、必要なんだろう。わかったようなわからんような感は残っている。でもそれなりに理解は進んだか。私、リベラルではなさそうだ。
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自由主義というものをわかりやすく説明してくれ、何となくわかったような気になる。それでこの社会をどうしていこうかという話に展開していかないのが少し残念な気持ちがした。
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誰もが自らの人生の目標を選び、それを自由に追求できること、国家がそうした条件を整備すること、すなわち全ての個人に対する価値観やライフスタイルの「自由な選択」の補償を、共通の理念的な基盤とするほかない。
(終章 リベラルのゆくえ)
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個人が自由に生き方を選択できるよう国家が支援すべきと考える「リベラル」。歴史的な変遷と現代の可能性から日本の状況まで論じる。
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「価値の多元性を前提として、すべての個人が自分の生き方を自由に選択でき、人生の目標を自由に追求できる機会を保障するために、国家が一定の再分配を行うべきだと考える政治的思想と立場」というリベラルの定義から出発したうえで、その出現の歴史的経緯、現在の情勢におけるその位置づけ、目標とするべき政策パッケージなどを提示する。本書によれば、リベラルの登場は20世紀初頭の欧米に遡る。当初は市場原理主義と再分配との間で路線対立が形成されていたところ、文化的リベラルや新自由主義・「ワークフェア競争国家」の登場とともに、路線対立が複雑化していった。現状ではさほど支持を伸ばせていない(特に文化的)リベラルという立場がどのような政策パッケージを採用するべきかを本書は検討しているが、とりわけ、不安定な雇用のもとで暮らす「アウトサイダー」の人々の支持を取り付けるには、普遍主義的な福祉政策をとることが、雇用・福祉政策における移民を対象とした積極的差別是正措置よりも望ましいとする点など、従来のリベラルに対する一定の方針転換も勧告している点で、リベラルという立場を批判的に吟味している。
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リベラルという概念は、19世紀以降から普及し始め、当初は経済的自由主義としての側面が強かった。20世紀に入ると文化的な側面も加わり、21世紀以降の現代リベラリズムは、個人の価値観、ジェンダー、人種など幅広く結びついて大きな変容を遂げている。
個人的には排外主義との関係と、日本におけるリベラリズムが面白かった。
前者に関しては、リベラル・左派政党のジレンマや、不安定な雇用、さらにはグローバル化が進むにつれ、排外主義勢力も同時に強まっている。リベラルは排外主義に対抗できるのか今後も注目したい。
後者は、欧米のリベラリズムと結構かけ離れているなあという印象。欧米では福祉、移民問題、グローバル化という点がフォーカスされる一方で、日本では平和主義、安全保障としての文脈が強い。戦後から欧米と日本では多くの共通点があったにもかかわらず。政治勢力としてのリベラルが違った道のりを辿っていったのは興味深い。
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なかなか堅いが見通しがよくなる本。
「思想史家のリチャード・ベラミーは、1870〜1913年にイギリス、フランス、ドイツなどで現れた思想を「倫理的リベラリズム」と呼んでいる。この時期の思想は、社会主義と異なり市場経済を肯定する一方で、「自由」をたんなる指摘利益の追求と結びつけるのではなく、個人の尊厳や道徳的発展と結びつけた。社会とは、たんなる私的利益の集合ではない。それは共通の目的のもとに結びついた道徳的集合である。個人は社会の中でのみ自己の能力を発展させ、自由や自律を獲得する。自由を実現するためには、国家がすべての個人に能力の発展の機会を保障しなければならない。本書では、このような特徴をもった世紀転換期の新しい思想と運動を、まとめて「リベラル」と呼ぶ。」(p.15)