投稿元:
レビューを見る
この本は一般相対性理論の一冊目の本として良いと思う。テンソル解析の部分ではテンソル密度も出てきてなんだか少しややこしいが。
一番楽しいのは第7章「Einstein方程式の厳密解」。ここでは球対称な質量に対する計量であるSchwarzschild解、荷電している場合のReissner-Weyl解、自転している場合のKerr解、この3つについて論じられている。Reissner-Weyl解の解説はあまりないが、Schwarzschild解を用いて光の赤方偏移、近日点移動、重力レンズ効果、ブラックホール内外での光・質点の挙動等、多くの興味深い物理が述べられている。
Kerr解に関しては「Schwarzschild解では特異面が事象の地平線かつ赤方偏移の起点となっていたのが、Kerr解では分かれる」といった程度のもので個人的には満足しなかった (少し前にカー・ブラックホールという言葉を聞いたことがあったので、もっと面白い話があると思っていたが、この本ではKerr解にはそれほど踏み込んでいないらしい) 。
だが、Kerr解の導出などは一読に値すると思う。自転することから解を導出すると予想していたのだが、実際にはSchwarzschild解導出時の原点をシフトさせることで解を導出し、その解が自転する質点を表す、という流れで論証されている。
7章では太陽やブラックホールなどの天体が生み出す計量を考えていたが、9章ではEinstein方程式を利用し、宇宙全体の大局的な計量を考えている。これはRobertson-Walker型計量と呼ばれ、宇宙論の基礎をなす。この計量を用いて、静的宇宙やFriedmanの動的宇宙模型、de-Sitterの動的宇宙模型等が解説されている。
本書では他に、重力波の話もしっかりあるが個人的な興味があるわけではないので書評では省く。また、Einstein方程式の数学的構造や重力場理論の正準量子化なども書かれているが、計算が多く時間が足りないので流し読みをした。Hawking radiationやブラックホールの熱力学については書かれていないので、それについてらWaldの本などを読めばよい。
個人の結論として、この本は一般相対性理論を一通り、一冊で勉強するのに適しており、計量gの仮定→接続係数Γ→曲率テンソルR→Einstein方程式の解(仮定に用いたgのパラメータ決定)という一連の流れを会得できるので有益であった。ただし、物質のエネルギー・運動量テンソルTが複雑な場合にどうすべきかまではわからない。