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気合の入っていた「ラピスラズリ」、ルールそれ自体の不透明性のため何が何やら見通しづらい「飛ぶ孔雀」と比べると、かなり読みやすい。
なにせ5日間の新婚旅行が時系列に沿って描かれる、それだけで随分親切な書き方なのだ。
が、そこで描きあげられるのはやはり茫漠と……それがいいのだが……まるで舞台劇のよう。
駅舎ホテル、〈山の宮殿〉、〈山のお屋敷〉という3つの巨大建造物が描かれ、それぞれに人々がごった返しているが、読者=観客の前で書割や装置が早変わりして、登場人物もそんなに多くはいないような印象。
対になっていたり、分身関係であったり。
だいいち舞踏集団の伯母が最重要人物なのだし、この伯母、作品全体をも操作できる強大な力を持っている……死後も……というとアリ・アスターのおっそろしい映画が思い出されるが、結末含め必ずしも的外れな連想ではないような気もする。
この伯母、なんでも「歪み真珠」のある短編にも登場しているんだとか、トマジっていう名前はどこかで聞いた気がするなとか、あからさまに「透明族に関するエスキス」と同じく破裂してひどい臭いというシーンもある。
感想としてまとめることも難しいが、難解というほどではない、少し肩の力を抜いて読み直してみたい。
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幻想文学というのか、夢と現実の堺のわからない混沌とした世界。
場面ごとの描写は写実的で、映画のように鮮やかに再現される。
なので、次々切り替わる場面に理解が追いつかないながらも、振り落とされずに読み進めることができた。
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作者の思い浮かべる情景の一割も私には見えている気がしないけれども、なんとか見たいと思いながら最後まで読んでしまう不思議な作品。
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金砂銀砂を振り混ぜたような表紙、また箱の渋い絵、本としての佇まいが素晴らしい。
内容は夢か現か幻か、虚の王の新婚旅行の3日間を、生死も不明時系列も混濁しながら駅舎のホテル、山の宮殿ホテル、山の屋敷と移りゆく。そこにあるのは、ただ滅びの残骸。愛も執着も感じられない。ただ風が吹いているような荒涼としたかって美しかったものへの憧憬のみ。
もう少し感情が表れる物語が良かった。
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寄宿舎をでたばかりの、まだ少女と呼べるほど若い新婦と、年の離れた「私」との新婚旅行。プラットホームの柱と柱のあいだにあるホテル、深夜の決闘、〈夜の宮殿〉、交霊会、〈山の人魚〉の葬儀など、シュルレアリスティックなイメージの連なりがデジャヴのような眩暈を引き起こす幻想旅行記。
モノクロの銅版画を思わせる緻密な筆致で、油膜のようなあやしい煌めきをも感じる夜の世界を描きだす。これぞ山尾悠子、という一冊だが語り口は軽快で、旅先でさまざまな不思議に遭遇する「私」と一緒に戸惑いつつ、美学に貫かれた遊園地を彷徨い歩いているかのような読み心地。〈夜の宮殿〉や透明族なども登場し、過去作をコラージュした〈山尾バース〉的な風情があるので、読後すぐに『歪み真珠』を読むとめちゃくちゃ楽しい。(トマジってこの人の名前だったか〜忘れてたな〜)
旅行鞄に座って婚姻の登録を待つ何組もの男女、交霊会で浮かびあがる妻とシャンデリアから垂れる腕など、本書で語られるイメージもエルンストのコラージュを連想するような奇想に満ちている。繰り返し登場する決闘、思わせぶりな伝令係、馬、巨大な目玉と衆人環視のイメージは、ハネムーンなのに新婦にはぐらかされ続けている「私」の性的なフラストレーションを表しているようでもあり、フロイト的な夢解きを誘発するのもシュルレアリスムへの目配せのように思える。でもそんな使い古された手をちっとも安っぽく見せないのが山尾先生の構成力だということなのだろう。
最後にはまんまと子どもが生まれていて、妻と代理人の企みの大筋はだいたいわかるのだが、その上で旅程を思い返してみると「私」は途中でほとんど見殺しにされかかったみたいなのにずいぶん呑気だなぁ(笑)。この旅行記自体が、結局作中で筋が明かされることのない〈山の人魚と虚ろの王〉という演目そのものなのだとすれば、〈虚ろの王〉たる「私」もなにかしら神的な存在なのかもしれないけれど。
巻末に収録された短文たちも世界を広げてくれて楽しい。いくらでもディテールを書き継いでシリーズ化できそうだし、こういう作品間の繋げ方は金井美恵子的であるようにも感じた。二人のあいだで育つ子の話も読みたいし、旅行家の母と劇団長の伯母の因縁話もほしいし、冬眠者の世界とも繋がりそうでわくわくする。なにより、ホテルの朝食ビュッフェでパンを大量に持ち帰ろうとして厨房と揉める、この無邪気さと謎が同居する可愛い〈妻〉にまた会いたい。
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私と妻との3日間の新婚旅行という程の物語。
夜を舞台とすることが多く、一点の強い光とそれ以外の闇と、その中で輪郭だけは何かあるような。文字としては理解できても絵にしようとすると途端に手が止まるような物語。
虚の王が正にと思う。
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山尾作品2作目、こちらの方が断然好きでした笑
ルドン「夢の中で 幻視」が装丁され、それを「モチーフに「絵の中に行けるとしたら、どんな道筋か」を考えた」とのこと。
言われてみれば、確かにこの絵の雰囲気が文字として落とされていて、それが心地よいかは別としても、作品と相成っている。読んでいる最中の感覚はカヴァンの『氷』が近かった、単純に場面が切り替わり・登場人物がよくわからないからですけど笑
ちょこちょこ変、それが怖さでもあり、可愛さでもあり、面白さでもある。そんな不思議な感覚を得ました。この文が、ということはないのですが、全体の雰囲気、読んだものにしか伝わらない雰囲気。
パンを溜め込む性癖の妻、可愛いんだよなあ笑
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三日間の新婚旅行のお話。
たったの三日間なのに色んなコトが起こる。起こるけど、解決してるようなしてないような。そんなコトは問題じゃないような。
静かな幻想的な描写と、雑多な人々がガヤガヤしてる情景が凄く惹かれる。