紙の本
ウースター家の掟——バーティーは意思が弱いんじゃなくって騎士道精神・貴族精神を突かれていたのか
2006/05/05 13:34
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たむ - この投稿者のレビュー一覧を見る
衒学趣味。国語辞典によれば「学識を誇りひけらかすこと」。小説においては、ひけらかすというよりはむしろ、ただただ知識の情報量で圧倒されるような作風を指すのではないかと思います。小栗虫太郎、アレン・カーズワイル、ウンベルト・エーコ、京極夏彦、中井英夫、澁澤龍彦……。「衒学」ではなく「眩学」と言いたくなるような、情報への耽溺・眩惑。
「笑いの古典、巨匠と認められたコミックの天才」ウッドハウスとはもっとも縁遠そうな言葉です。
ところが、です。本書『ウースター家の掟』には今まで以上に古典作品からの膨大な引用が織り込まれています。その量たるやまさに衒学的と呼んで差し支えないほどに。
イギリス詩など引用されてもわたしにはちんぷんかんぷんです。そんなのがたくさんあるわけですから、多少しんどくもなりかけましたが、だんだんと馴染んでまいりました。
なにしろ引用するバーティーだってわかっちゃいないんです。ジーヴスから聞いたことや以前に見聞きしたことを繰り返しているだけ。しかもバーティーの口から出てくるのは、「何とかが何とかしたというあれ」という、曖昧にもほどがある引用とは呼べないようなしろもの。引用元を知っていればより楽しめるのでしょうが、知らなくとも気にせず楽しめます。
それでも気になって仕方ないなら、ちゃんとジーヴスが(そしてときに訳者が)フォローしてくれてます。
さて物語は——世界一周旅行に行くか行かないか——バーティーとジーヴスの意見が対立しているところから幕を開けます。そこへ現れたダリア叔母さんのたっての願いでバーティーは、トム叔父さんが欲しがっているウシ型クリーマーを持ち主の前でけちょんけちょんにけなすことになります。ところが骨董屋で天敵サー・ワトキン・バセットに遭遇。彼こそはかつてバーティーに警官のヘルメットちょろまかしの刑で罰金刑を科した判事でした。ほうほうのていで逃げ出したバーティーのもとにガッシーから電報が届きます。婚約者のマデラインと喧嘩をしたから今すぐトトレイ・タワーズに来てほしいとのこと。すわ一大事と準備をしていると、ふたたびダリア叔母さんが登場。ウシ型クリーマーを、バセットがかっさらってしまったので取り返してほしいという。何を隠そうバセットこそがマデラインの父親であったのでした。かくしていやいやながらもトトレイ・タワーズに繰り出したバーティーとジーヴスを待ち受けていたものは、ガッシー&マデラインの仲裁、バセットの姪スティッフィーと旧友スティンキーの婚約とりもち、バセット及びファシズム党首スポードの傲岸不遜な圧力、間抜けなガッシーの極秘の手帖紛失事件、そしてウシ型クリーマーをめぐる各々の思惑のぶつかり合いでした。
ウシ型クリーマーとガッシーの手帖をめぐる複雑に入り組んだすれ違いはミステリ顔負けの筋立て(分刻み、いや秒刻みのすれ違い!)です。あらゆる登場人物、あらゆる出来事が互いに巧妙に絡み合っているので、多量の引用と相まって、巧緻な物語を読み解いてゆく楽しみあふれる作品に仕上がっています。プロットがしっかりしているので、バーティーが多少はめをはずしても……ジーヴスはすべてを操らなくても……最初から最後までバーティーはいつにもまして落ち着きのない躁状態だし、頭のいいジーヴスだけじゃなくお茶目なジーヴスまで見ることのできるおまけつき。息つく暇もない巻き込まれサスペンスでした。
タイトルの意味が明かされる後半からラストにいたるまでは、ちょっとかっこいいバーティーやウースター家のプライドもかいま見られる、ほんわかと感動的な話でもありました。
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ブラウニングの詩に間違いが。上田敏訳そのままのようなので、誤訳ではなく誤植でしょうね。いいところなのに。気をつけていただきたいものです。
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ジーヴスシリーズ第四弾。長編。『よしきた』よりも怒涛の展開。最後の最後までおバカな事態が起こり続ける。今のところ、シリーズ中最高傑作。「まあ、あたしあなたのことブタだって思うわ」。名言。
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よしきた〜の続編にあたります。
訳者のたまきも言ってたけど、
バーティが愛されててほんとうによかった!
二組のカップルとウシ型クリーマー、ばらばらに見えた事柄が全部繋がってて、最後には大団円。
あいかわらずのウッドハウス節で嬉しくなりました。
終始にやにやしっぱなしでしたお。
ドラえもんがのび太を決して見捨てないように、ジーヴスも最後までバーティを見捨てないわけですよ。ほんとういい主従だよあんたら!
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ジーヴスの長編☆
読んでてすごくストレスたまるけど、最後にはスッキリ♡
さすがジーヴス
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『よしきた、ジーヴス』にてまとまったかに見えた二人の破局騒動、ダリア叔母さんとウシ型クリーマーに、理不尽美少女スティッフィーの問題が絡む大長編。この問題の前では、ジーヴスとバーティーのいつものいざこざも消し飛びます。いつも以上に錯綜するトラブルと理不尽キャラたち、ラストの怒涛の小道具の畳み掛けには笑わずにはいられません。ダリア叔母さんがちゃんとバーティーのことを好きだとわかってほっとするエピソードもあり、慌てる(ようには見えないが)ジーヴスもありの盛りだくさんな一冊。
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珍しく人助けをきっぱり断るバーディが見られます。でも結局なんだかんだで引き受けてしまうそんなバーディが好きだ。箪笥の上にあがっちゃってるところは最高に笑えた。どっぷりはまる。おもしろい。
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ダリア叔母さんの命令でウシ型のクリーマー奪取に向かうバーディ。ガッシーの婚約の破たん。バゼット家の執事の秘密「ユーラリアの秘密」。ガッシーの落とした茶色の手帳と手帳を手にしたマラディン・バゼット。手帳を求めて犬に追いつめられるバーディとジーヴス。奪われた警官のヘルメット。
2009年9月24日再読
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遊んで暮らせる身分の青年バーティーと、彼の執事(紳士お側付きの紳士)ジーヴスの話。
二組のカップルの婚約問題に、依然振り回されるバーティー。今までも散々な目にあっていたけれど、今回もてんこ盛りだった。「友達をがっかりさせない」ために、泣く泣く色んな事をさせられている。脅迫しかけてそのネタをころっと忘れたり、犬に驚いて箪笥の上に飛び乗ったりもする。とにかく信じられないくらいお人好しだけど、今回はちゃんと報われている。
こういうバーティだからこそジーヴスも骨を折ってくれるが、それにしても彼の所属する「ジュニア・ガニュメデス」の抱える情報の量と質は恐ろしい
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バーティーとダリア叔母さんが結構ナイスコンビ。バーティーが愛されていてよかったというあとがきに同感。でもトラブルにも愛されすぎだよね。終盤はハイスピードなババ抜きをやってるみたいだった。しかもババはいくつもあるという。バーティーほんとにお疲れさま!しかしこれ半日間の出来事なんだよね。濃密すぎ。
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これまでバーディーの語り口とジーヴスの脳みそに感嘆したことはあっても、ことストーリーに関しては、上記二つに目を奪われていたのかそれほど引き付けられていなかった。基本的には、しずかちゃんやジャイアンに無理難題押し付けられたのび太くんに泣きつかれたドラえもんが四次元ポケットにさらに泣きつく構図で、最終的には道具すごいけどのび太はあんまり救われないエンド。愛すべきパターンではあるけど、週一くらいがちょうどいい。
でも、この掟はどんどん読ませて止まらない。お馴染みのキャラクターが縦横無尽にどたばたを繰り出すのも、これでもかこれでもかと降ってくるクソいまいましい事件と災難。最後の最後まで、バーディーどうすんの!?な展開でしたージーヴスの灰色脳細胞もいまいち不調でエウレカはかなりお預けなのもにくい演出です。
それでも今回はいつもとは違う爽快な後味。訳者あとがきにある通り、バーディーはいつも日の目を見ることのないかわいそうな善人ヒーローなのですが、今回はちょっと違います!よかったね、バーディー(ToT)
それにしても、スティッフィー。強烈な少女でした…あんな子絶対ごめんだよ…スティンカーほんとにいいのかその子で!!
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ダリア叔母さんが今回大活躍。さらにバーティーの苦労っぷりもすさまじかった。ただ、今までのシリーズキャラエピソードを引きずってきているので、そっちの内容を覚えているうちにこちらを読めば良かった…ちょっと時間を空けすぎて前の話を忘れちゃってるところがあって…。今度再読するときは通しで読みます。
タンスの上に駆け上がるシーンは大好きだ!
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銀製うし型クリーマー奪還、親友と従姉妹、二組のカップルのゴールインとの使命を帯びたバーティーは、かつて自分を裁いた判事の大邸宅に乗り込むと…。有閑貴族青年バーティー・ウースターと完全無欠執事ジーヴスの非凡な日常を描くシリーズ、長編。ウースター家の掟「友を落胆させるべからず」「女性の求愛を拒絶するなかれ」のために、伯母に親友に従姉妹に次々難題を吹っかけられると知らぬ顔できず、どっぷり胸までスープに浸ることに(笑)。その度にジーヴスの的確な助言が役立って狙った通りには事が運ぶんだけど、結局バーディーがいつも損な役回りをする…この愛すべきマンネリパターンがたまらなく好きだ!今回はジーヴスの(ご主人様に対する)ドSぶりは控えめで、要所要所で比較的まともなアドバイスを与えてるのが意外。今回もバーティーは散々な目に遭ってるのになんとなく物足りない(鬼!)のはジーヴスが大人しめだからか。手ごわいスポードを精神的にとっちめる魔法の言葉をジーヴスに教えてもらったのに、いざ対決する時にど忘れしたのには、爆笑!銀製うし型クリーマーに始まり、親友が未来の義父の悪口を書いた茶色の手帖、巡査のヘルメットをめぐって、各人思い思いに行動するからどんどんややこしくなるのに、最後はスッキリ収束するところはお見事。
The Code of the Woosters/
P.G.Wodehouse(Pleham Grenville Wodehouse)/1938
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少し前に読んだ物なので記憶が曖昧だけど、何度も笑った本。
バーティーがいつも通りジーヴスの助けを借りて、カップル成立を手助けしたり叔母さんの無理難題を解決したりする…のだが、今作では、いつもなら順番に並んでジーヴスのおつむに放り込まれるのを待っているはずのこれらの事件が、バートラム・ウースターの博愛精神によってあっちこっちで同時に勃発する羽目になってしまったのである。さあ大変。
そして、お決まりのパターンである。バーティーは危機迫った状況のわりに道化役者を見事に演じのけ、ジーヴスは冷静に優雅に若主人を犠牲にしつつも事件を解決に導く。
決まりきった展開、似たような若貴族の恋愛沙汰と知りながら飽きずに読めるのがジーヴスシリーズの醍醐味。
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トラブルに巻き込まれ、有能な執事ジーヴスの助けで乗り越えてゆく、というお決まりの展開をたどる長編。ただしおもしろい。
要所要所でくすくす笑いながら、今回はやけに激しくトラブルに見舞われるバーティーがかわいそうに・・・・
でも最後、バーティーはちゃんと愛されていたんだということが分かり、なんだかほっとするやら嬉しいやら。感動の締めくくりでした。