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小林武彦(1963年~)氏は、九大大学院医学系研究科博士課程修了、基礎生物学研究所、米国ロシュ分子生物学研究所、米国国立衛生研究所、国立遺伝学研究所を経て、東大定量生命科学研究所教授。前日本遺伝学会会長。
本書は、生きている我々にとっての根源的な問いである「なぜ、私たちは死ななければならないのか?」について、生物学的視点から考察したもので、著者は、その謎を解くカギは「進化が生物を作った」という事実にあるとする。
本書の構成および概要は以下の通りである。
第1章:そもそも生物はなぜ誕生したのか・・・生物を定義づける「自己複製(自身のコピー、子孫を作ること)」の仕組み。これによって、「ターンオーバー(生まれ変わり)」が可能となった。
第2章:そもそも生物はなぜ絶滅するのか・・・生物の進化、多様化の仕組み。変化(変異)と選択(絶滅・死)の繰り返しを経て、我々を含む現存の生き物が結果的に誕生し、存在している。即ち、「進化が生き物を作った」のである。
第3章:そもそも生物はどのように死ぬのか・・・(老化しない)細菌的死に方、単細胞真核生物的死に方、(生殖で死ぬ)昆虫的死に方、(大きさで寿命が決まる)ネズミ的死に方、(超長寿の)ハダカデバネズミ的死に方、大型の動物の死に方、等、生き物によって違いはあるものの、それぞれの死に方は共通して、生き残るために進化していく過程で「選択された」ものである。
第4章:そもそもヒトはどのように死ぬのか・・・老化の仕組み。細胞分裂に伴うゲノムの傷の蓄積(がん化)が、それを抑えるために進化で獲得した免疫機構や細胞の老化の仕組みの限界を超えると、老化を主因とする病気との闘いが始まることになるが、その限界年齢(進化で獲得した、ヒトの想定年齢)は55歳くらいであり、ヒトはその想定を超えて長生きになってしまった。
第5章:そもそも生物はなぜ死ぬのか・・・上述の進化(変化と選択)の仕組みの通り、生物学的に見れば、子供の方が親よりも多様性があり、生き残る可能性が高い存在である。よって、ヒトにとっても、全生物にとっても、生れて来たものは、より進化した次の世代に命のたすきを委ねて、利他的に死ななければならない。
「我々は、自分たちよりも進化・多様化した次世代のために、死ななければならない」という結論は極めてロジカルであり、目から鱗である。それによって、この世界から自分がいなくなることへの恐怖が即座に薄れるわけではないが、死の意味、延いては生の意味を大局的に考えるきっかけになる一冊と思う。
(2021年4月了)
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目次
はじめに
第1章 そもそも生物はなぜ誕生したのか
天文学者になればよかった
「この世の始まり」を見る方法
生き物の「タネ」の誕生
自己を複製し変革する細長い分子
そして「生のスパイラル」が奇跡を呼んだ
無生物と生物の間には·····
早く生き物になりたい!
生物の必須アイテム、リボソーム
生物の誕生は地球限定イベントか?
宇宙人はいない!?
「奇跡の星」の歩き方
地球の美しさのひみつ
第2章 そもそも生物はなぜ絶滅するのか
「変化と選択」
DNAとRNA、似た者同士が存在する理由
メジャーチェンジからマイナーチェンジの時代へ
最後のメジャーチェンジ その1-真核細胞の出現
最後のメジャーチェンジ その2 -多細胞生物の出現
「独占」から「共存」へ、そして「量」から「質」へ
現在の地球は、過去最大の大量絶滅時代
そもそも多様性はなぜ重要か
大量絶滅の後に起こること
絶滅による新たなステージの幕開け
ヒトのご先祖は果物好きなネズミ?
絶滅によって支えられているもの
第3章 そもそも生物はどのように死ぬのか
…
第4章 そもそもヒトはどのように死ぬのか
…
第5章 そもそも生物はなぜ死ぬのか
…
おわりに
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これは読みやすかった。7割くらいは理解できたように思う。(この手の本だとこれで結構いい方)連休に入っていることもあり、ツイートしながら読んだので、かえって時間がかかってしまった。で、それを引かずに、覚えている範囲で振り返ってみよう。まずは生命誕生のシーン。今まで読んだものの中でもかなりリアルに描かれているのが印象的だ。想像かそれとも次第に判明してきたのか。ハツカネズミとハダカデバネズミ。ハツカネズミはちょこまか動き回って捕食されないようにする。そして速く成長し、子孫を残して、短い寿命を終える。長生きするための遺伝子機能を失ってきた。それに対して、ハダカデバネズミは地下に潜り、低体温、低酸素濃度で代謝を押さえ、ハツカネズミの10倍以上の寿命を得た。真社会性を築き、繁殖は女王ネズミにのみ依存し、他のメスは働きネズミとして一生を終える。しかし、女王ネズミが死ぬと、他のメスが繁殖を始める。すごい仕組みができているのだなあ。ヘウレーカでも見ていて、おもしろい生き物がいると思っていた。名前は見た目そのままなのだが、なんともかわいげがないというか、不思議な存在だ。しかし、これが人間の長寿のヒントになるかもしれない。たしかに多くの子どもを産むことに決めたカップルにはより多くの援助があればいいのだろう。まあ、そういうインセンティブがはたらけばいいのか。定年退職後も続けて同じ職場で働きたいとは思わないが、何らかの形で社会とは関わっていきたい。生物はなぜ死ぬのか――それは、死が生命の連続性を維持するための原動力になるからである。ターンオーバー、入れ替わりつつ、動的平衡を保ちつつ、次の世代にバトンタッチしていくのだなあ。なんだか「恩送り」ということばにもつながるような気がする。「利他的に死ぬ」という表現もなかなかいいなあ。
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これを読んでも死生観は一変しませんでした。
死生観が変わるという意味なら『死にゆく人に寄り添う』(玉置妙憂さん)に勝る本はないです。
生物について考えるなら『生物と無生物のあいだ』(福岡伸一さん)が一番です。
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タイトルに惹かれて手に取ってみたのだが…最初に断っておくとかなり分かりやすく説明してくれているのだけど生物の成り立ちを説明してくれている前半は正直なところピンときたとはいえない。リボゾームがどうとかDNAの構造がどうとか。なんかいまいちピンと来ないんだけどこれには作者に責任は全くなくこちらの前提知識の問題だと思う。しかしなぜ地球上にはこれだけの種類の生き物が存在しているのか、なぜわざわざ生殖のために性行為みたいなめんどくさいことをしなければならないのか、など不可思議に思っていたことにある程度の回答を頂けたような気がした。多くの魚類や昆虫などはだいたい生殖が終わった瞬間にそれまでピンピンしていたのがころっと死んでしまうようでそれはそれで羨ましいことではないかと思ったりした。生まれてからある程度成長するまで世話を必要とする哺乳類、特に人間は老化してから不具合が諸々出てきたのちに死ぬわけだが、どうやら老化とはどういう要素で起きるのかなどもかなり研究が進んでいるようで不老不死とは言わないまでも老化とそれに伴って起きる癌などの不具合についてもかなりのところまで解明されているような印象を受けた。これだけの研究者がこのまま何もしなければ人類はあと百年程度で滅びるかも、とさらっと書かれていたりして恐ろしい。かなり興味深い内容でもっとよく理解したいのでまた読み返してみたいと思います。よく分かっていないなりにそれはそれで面白かった。
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ハダカデバネズミに関心が湧いた。私は出産していないので、子孫を残すことができない。それでも生きて死ぬわけだ。読み進めていくうちに、では何故私は生きて死ぬのだ、との疑問がふつふつと出てきた。その答えはハダカデバネズミのはたらきネズミの生き方にあるように思った。子孫を残す人がいて、それを支える人がいて、みんなが自分のできることを淡々と行うことで社会が保たれる。出産をしなくても、子孫を残せなくても、沢山の子孫を残しても、何かしらの役割はあり、その役割を遂行して死ぬことができる。まだ上手く言葉にできていないが、私もちゃんと進化の過程で存在していて良いのだ、と思った。今生きている人たち、死んでいく人たちは皆、進化の過程で選ばれ、生き残ってきた結果の人なのだとわかった。
安心とも違うが、ほっとした気持ちになった。
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なぜ死ぬのか。
原因と意味。
アポトーシスが原因かと思ったら、むしろ、アポトーシスしなくて老化する、エラーな細胞が増えるから。大体、55歳過ぎると急激にリカバリー力が衰える。
死ぬことによって、次の世代の「材料」になる。また、変化と選択、多様化、進化が進むためには、古い世代は消えてゆくしかない。なんつたかて、「たった一個の細胞」から、ここまで多様で多種で多量な生物が展開した北戦略だから。
なるほどなあ。
たった一個の細胞も、ただの比喩ではなく、もう一個発生することがまずあり得ない。生命が生まれる確率は、「25メートルプールに部品ぶちこんでかき回して、偶然腕時計が出来て、しかも正常に稼働する」のと同じだと聞けば。
人間はしかし、次の世代に展開するために、社会と教育が必要。それも「多様性」を蔑ろにしてはいけないという、社会論にまで至る。AIとの共生まで論じるのはどうかなあ、と思ったのだが「死なない」知性は確かに、脅威になるべきものなのかもしれない。
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タイトル通り、地球に存在するあらゆる生物の発生から、死に至るまでの原因と仕組みを比較、最終的に人間の死の仕組みとそれに対する対策を検討する内容でした。
大変興味深い内容で、文系のわたしでも面白く拝読させていただきました。
ただ著者の私見が少々多く感じられ、話が脱線する場面も多いと思いました。AIに関する箇所は特に蛇足だったと思わざるを得ません。本の帯に書いてある通り「死生観が一変する」ために付け加えられたものだったのかな、などと考えてしまいます。
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生物とは何なのか、死ぬこともまた生物の本質であることが理解できる。
なぜ人間だけが死を恐怖するのかについての考察は一読の価値ある内容であった。
福岡伸一博士の書籍とあわせて読むと、より深い生物観の形成に資すると考える。
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さまざまな生物の死について、あれやこれやと解説した一冊。同じ出版社とは言え、ブルーバックスよりは“文系脳”でも理解しやすい平易さで書かれている(分かりやすさを優先して、かなり割り切っている部分もあると思われるが…)。
生き物の死に方を「寿命死」「アクシデント死」と分類するのは、ちょっと新鮮だった。考えてみれば人間もそうか。
昆虫は、交尾の後にバタバタと死んでいくものが多いのだとか(カゲロウは有名だ)。人間が交尾の後に死ぬと「腹上死」とか言われて、ヒソヒソ噂になったりするものだが、昆虫の場合は「究極にプログラム化された死」なのだ。
本書に秦の始皇帝が部下に作らせた不老薬(水銀入り!)で逆に寿命を縮めてしまったエピソードが記されていたが、現代でも似たような話はあるなあ。
ガンの民間療法で寿命を縮めるとか、「○○にいい」をやりすぎて不健康になるとか、美容整形のやりすぎで顔が崩れちゃうとか(ちょっと違うか…)。
このところ年を取ったせいか、子どものころから知っている芸能人や親せきが亡くなるようになって、急に死が身近かつ自分の問題に感じられるようになってきた。逆に死ぬことを客観視するには好適な本かもしれない。
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タイトルに惹かれて手に取った。生物学の専門的な内容が平易に書かれているとは思うが、高校時代生物を選択していなかったためか、理解できないところが多かった。しかし、専門的ではない話は読みやすく、興味深かった。
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自然に発生した有機物が、もとから持っている「増える」という性質に従って増えた結果が、現在の人、虫、草花なのではないだろうかと空想する。死ぬのも効率よく増えるための仕組み。生にも死にも大した意味などないのかもしれない。
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面白いというか興味深い本です。
生物としての死を考えることから、人としてどう生きていくかを考える機会を与えてくれる本です。小林せんせの考え方が興味深いので他の著書も読もうと思います。
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ゲノムの変異蓄積によるガン化を避けるための細胞の入れ替えが追いつかなくなるのが老化。生き残るための「変化と選択」のための「試作品作り」→「多様性」。親は子孫より多様性の点で劣っているので、子より先に死ぬようプログラムされている。「個性」という多様性を損なわないための社会全体の多様性(個性)も対戦。多様性を持つ生物が生き残る確率が高く、そのために生物は多様性の面で優れる子孫を生かす、そのために死がある。と理解しました。
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なぜ「死」があるのかを生物学を通じて考察していくもの。生物の進化の過程から変化と選択の為に死ぬプログラムがあると言う。生物が生物たるために死があるのだなと感じた。それが答えというより、そうなってきたという事。極度に死を恐れず、生物としての多様性を理解し生きていきたい。
自然の領域を超えたテクノロジー、AIが与える影響の問題提起もあり。地球の物質から出来ている限り、それもまた生物の進化と言えるのだろうか。哲学的。