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殺人ミステリーの構造を数学的に分類しその主要な分類の実例として書かれた7つの短編集、この短編集を書籍化するために作者のもとを訪れた編集者はそれぞれの短編に矛盾点があることに気付き始める。
『カササギ殺人事件』のような作中作が登場するタイプの多重構造のミステリー。
ミステリーを数学的に分類するというメタ的な視点や作中の仕掛けには興味深い部分はあったけれど、この分類というテーマとその仕掛けのせいで、『カササギ殺人事件』とは違って短編自体があまり面白くないという欠点があった。
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久しぶりの海外小説。
「登場人物」を見たときの衝撃と期待感。
なかなか面白いんだけど、邦訳の表現と相性が今一つだったかな。
デビュー作とのことなので、ちょっと気にかけておこうと思います。
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かつて一冊のミステリ短編集を刊行して今は孤島に隠棲する作家。その本の復刊を持ちかけた編集者が島を訪れ、二人で収録作を一つ一つ読み返して検討してゆくのだが…
作中作が7つと、その合間に二人の会話パートが挟まっている。探偵小説の分類についてと、各作品の矛盾。二人とも何か隠しごとがありそうな不穏な雰囲気で進んでゆき、最後の対話でそれぞれの真実が明かされる。クリスティのオマージュみたいな作品もあって、作中作もなかなか読みごたえあり。面白かった。
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これは面白い試み。唯一無二。
”作中作が7つ"という触れ込みばかりが耳に残っており、どんな話なのだろうと思っていたら、まさかのミステリ談義もの。
形式的には、地中海の小島にひっそりと住むグラント・マカリスターが過去一作のみ私家版として出版した『ホワイトの殺人事件集』を、正式に出版したいと一人の編集者ジュリア・ハートがグラントのもとを訪れ、そこに編纂された7つの短編を読み返しながら、1作ごとにその作品の意義を対話していくというもの。
その対話で繰り広げられるミステリ論が、グラントの言うところの”殺人ミステリ”の構成条件とでも言うべきもので大変に興味深い。
登場人物を被害者、容疑者、探偵、犯人のグループに定義し、集合論を用いて数学的に分解する。
作中作として提示されるのは、その構成が極端な例を主としており、登場人物=容疑者が2人で犯人が1人の場合(どちらかが犯人。お互いはどちらが犯人かわかっている。知らぬは読者ばかり。)、容疑者グループと犯人が完全に重なる場合(そう、あの急行列車パターン!)、容疑者グループと被害者が完全に重なる場合(こちらはあの島の事件パターン)、などなど。
そして、ミステリ構成談義が縦糸ならば横糸としてあるのが、グラントとジュリアの現実世界で起きたとされる”ホワイト殺人事件”。
タイトルまでも似通っている『ホワイトの殺人事件集』に編纂されている7作にはこの事件を想起させる、偶然とは思えない記述が散りばめられている。
グラントは”ホワイト殺人事件”と関わりがあるのか!?
この作品は2022年度、このミス海外部門10位。
1位は『ヨルガオ殺人事件』、8位に『木曜殺人クラブ』のクラシックミステリオマージュ作品が。
また、2位に『自由研究には向かない殺人』、7位には『彼と彼女の衝撃の衝撃の瞬間』と豊作の年の年度ゆえ、このポジションに甘んじているが、ポテンシャルはもっと上。
クリスティーオマージュを含みながらも、リバイバルのベクトルとは一線を画す試みにただただ脱帽の一冊。
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25年前にミステリー短篇集『ホワイトの殺人事件集』を発表したっきりの作家グラントと、復刊のために彼の地所を訪れた編集者のジュリアは、かつてのグラントが打ち立てた〈探偵小説の順列〉に従って書かれた収録作をひとつずつ検討していく。ジュリアが見つけた、グラントの小説にちりばめられた違和感の正体とは。作中作が7篇も読めるビブリオ・ミステリー。
うーん、面白かったけど期待は超えてこなかった。作中作に気になる矛盾点がちりばめられてひとつの大きな謎をかたちづくるという凝った構成は贅沢だったし、ミステリーの”解答”なんてディテールを少しいじるだけで如何様にも変えられるという視点も好み。それだけに、もっと面白くなりそうな勿体なさを感じてしまう。
一番の不満は、終盤で明かされる作中作の別解がどれもあまり魅力的じゃないこと。原作者のホワイトはアマチュアでジュリアはプロの作家という設定からすれば、ジュリアの改変後のほうが面白いのは納得も出来るけど、後だしの”正答”は最初に読んだよりもっと面白くあってほしいのが正直なところ。
それから、どんでん返しを繰り返した結果、グラントの実像が完全に親しみのもてないクズに堕してしまうのも残念だった。クズなのはいいんだけど、作中の誰も彼の本質に迫れなかったせいでとても薄っぺらな存在に感じてしまう。『ホワイト~』の各篇がどれも探偵役に厳しいのは、グラントの人格にかかわる伏線なのかと思ってた。
作中作で好きだったのは「青真珠島事件」。これも探偵役と真犯人がどちらも社会的弱者の立場で重なり合う最初のバージョンのほうがいい。『そして誰もいなくなった』オマージュとしても探偵役の設定が今っぽい。
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貸してもらったので久々の外国ミステリ。後書きにもあったけれど日本の新本格といわれたら信じてしまいそう。そこまでミステリ通ではない読者として感じたことを勝手に言葉にするけれど、ミステリって小さな思いつきをどれだけ肉付けしておいしくふくらませるかという技術合戦なところがあると思っている。これもその一つの形だなと思うけれど、私としては少し人間味が物足りなかった。ジュリアとグラントにもうひといき記号以上のキャラクタが与えられていたら、二つの「結末」にももう少しハッとできたのかもしれない。人工的で繊細な技巧との、それは対極にあるものなのかもしれないけれど。
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独自のミステリ理論とその実例としての短編集、しかも著者は数学者とくれば、まんま天城一氏の「密室犯罪学教程」じゃないか。短編の出来がイマイチなところまで同じというのは笑えないが。理論の方が足かせになっているのは間違いなく、枠側での仕掛けの都合も制約になる。その上、戦前の作という設定だから、あまりモダンな短編だとおかしいというのも分かる。それにしても、もうちょっとどうにかならなかったのかなという気はする。トリックもロジックもない(理論はロジックは否定する立場らしいが)タイプの所謂アイデアストーリーなのに、肝心のアイデアがしょぼい。見え見えという奴ね。そういうところを突っ込まれても、作家さん的には困ってしまう感じでしょうか。