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紙の本

文学作品の講義が面白かった。さすがは国語教師の書いた本

2021/10/20 06:30

1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:S910 - この投稿者のレビュー一覧を見る

国語教師の辰巳が文学作品の講義を通して生徒の悩みと向き合っていく話の下巻。
文学作品と作品の絡みは非常に上手いし、講義が進んで題材となった作品への理解が深まると同時に当該キャラの悩みが浮き彫りになる構図は非常に上手く面白い。
特に漱石の「こころ」の「書かれていない核心」は知らなかったので、その解釈は面白いと思った。

ただ、これが作者の望む「希望の物語」かというと首を傾げてしまう。
『問題を都合よく「解決したことにする」展開は書かないように気をつけた』姿勢は確かに誠実で、好ましいと思う。
実際に辰巳先生の講義によって悩みが軽くなった生徒達はいるけど、それが彼女達の望む方向で、幸せになる形で解決したとは言えない結末の話も多かったし。

だからこそ、教師と生徒の恋愛的な成就によって先生の抱えていた問題が解決された最後の結末は個人的にはマイナスだったかな。
一度教師と生徒としてきちんと別れて、別離を経てから再び……のが物語としては美しかったと思うし。
そもそも辰巳先生が円城に恋愛的に惹かれた部分が明確でなくてよくわからないというのもある。
美幸の登場や、それぞれの詳しすぎる下調べなんかもご都合主義っぽい。

個人的にはこの作品の内容が「希望の物語」というよりは、あとがきまで読んで、作者が「教師をしながら小説を書きたい」という夢を、闘病の苦しみを経て叶えた、という現実のほうがよっぽど「希望の物語」なんじゃないかなぁ。
作品本編よりもあとがきにじんわりしてしまったよ。

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