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ある日突然、上空に表れたい未知の存在。
その日から白いぷにぷにとしたものが地球を吞み込もうとしている。
その未曾有の危機に立ち向かうもの。逃げるもの。思いがけずにその核になってしまったもの。
その様々な人間模様がとてもよかったです。
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2019年2月に単行本を図書館で借りていた。文庫版が発売されて何も考えず購入し、少し読んで「あれ?セーコさん、知ってるぞ?」となる。しかし、後半のストーリーをまったく覚えていなかったので、新鮮に読んでしまった。聖子も理剣も誠一も、こんな終わり方だったのか。
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善と悪、希望と絶望、ユートピアとディストピア、喜劇と悲劇……そうした正反対なものは、隣り合い、混ざり合い、ただ単に人の立場で変わってしまうことを思わされた、SF(少し不思議)作品です。
ブラックな職場と妻とのすれ違いで、心がすり減ったサラリーマンの鈴上誠一。彼はある日、ふと降り立った駅のホームで、現実世界とはどこかズレた世界に迷い込む。居心地のいい世界に徐々に馴染んでいく鈴上。そんな彼の元に、ある日地球からやってきたという男が尋ねてくる。そして男は鈴上に地球の危機的な状況を伝え……
個人的な読みどころは二つの世界の対比。鈴上が迷い込んだ、穏やかで平和で幸せな、何不自由ない世界と、一方で謎の生物の襲来によって多数の犠牲者が出続ける地球。
地球での主な語り手となる二人の人生も、それぞれに友人や家族の死であったり、境遇であったりとこの地球だからこその悲劇や波乱に満ちている。一方で鈴上は地球のことを認識しつつも、自分の世界で生き続ける。
こう書くと、鈴上が怠惰だったり卑怯だったりと思えるけど、話を読んでいくとそうとはなかなか割り切れない。地球の人たちも鈴上も理不尽な事態に陥ったことは変わりなくて、でも決定的に超えられない立場がある。精一杯正しく生きようとしても、それがある人にとっては、悪でしかない。
第六章は読んでいて、バットマンシリーズの映画『JOKER』をなぜだか思い出しました。本人が悪いわけではないのに、理不尽に転がり落ちていく様子。そして彼の心理の変遷や悟った時の哀しさと可笑しさが、なんとなく身につまされました。
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これは一度読むとなかなか忘れられない小説!
設定はパニックホラーみたいな感じだけど、そこからのリアルな悪夢のような展開が恒川光太郎さんならではだと思う。
恒川さんの小説の、どことなく絶望感が漂う雰囲気を味わいたい人におすすめ
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他人の不幸の上に成り立つ幸福は否定されざる得ないものなのか?
人類に破滅をもたらす物に取り込まれた唯一の人間は夢のような世界で新たな家族と幸せを育みながら暮らす。
一方、破滅へ向かう人類は起死回生の一手を模索する。
破滅へ向かう人類の中で耐性を持つ人間達
其々の立場から生まれる葛藤
其々の正義の下に物語は進んでいきます。
個人的には夜市以上スタープレイヤー未満と言ったところでしょうか!
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自分好みの世界観で一気読み、と言いたい面白さだったが、正確には三気読みでした。
地球外生命体(未知なるもの)が地球に寄生したことで、地上にはプーニーが出現。
プーニーは牛乳プリンのような謎の生物で、突発的に増殖する。動物が誤って取り込むと、その動物もプーニー化、抵抗値の低い人間だと近づくだけで拒否反応を起こし死に至る。抵抗値の高い人間は国にスカウトされ、プーニー災害の救助活動を行なっていた。
(未知なるもの)は大きなクラゲのような姿をしており、地球の大気圏上に張り付いているが、異次元の存在であるため物理攻撃は効かない。しかし、人類は研究の末、(未知なるもの)の核近くに取り込まれている人間、鈴上誠一を発見、想念の異界(鈴上の精神世界の様な所)に向けて次元転送砲から「突入者」を送り込み、鈴上の説得を試みる。
しかし、鈴上は想念の異界で何不自由なく暮らしており、地上で勤めていたブラック企業や夫婦間の問題から解放され、新たな友人、妻、子どもまで授かり幸せな日々を送っていた。
当然鈴上がそんな幸せを手放す訳もなく対立、そして人類側による世界的な大規模突入作戦が決行される…
鈴上の説明だけになってしまったが、後のプニ対(プーニー災害対策組織)隊長となる相川聖子や、最初のプーニーコンダクター野夏旋、最後の戦いで活躍する理剣など、魅力的なキャラクターばかり。
人口の大半が抵抗値11〜80なのに対し、三人は500前後の数値を持ち、アニメ「PSYCHO-PASS」の「常守朱」的な特別感があった。
それぞれの登場人物に対して、自分だったらどうしてたかなーなどと考えながら読み進めるのは楽しいし、この作品を読んで、自分はソフトSFが好きなのだと理解した。
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まごうことなき本格SFなのに、美しい幻想の世界観と、ぞくりと空恐ろしくなるホラーの空気感を併せ持つ、恒川さんらしい大作でした。
シンプルでありながらそれゆえに奥深いプーニーの生態の設定を下地に、それに伴って発生する被害・災害、対策、人々の反応などが二十年以上の時間軸で描かれており、この「本当にこうなりそうだな」と納得できるリアルさが秀逸です。
何より、物語の主な視点となる四人の主要人物たちの、誰が正しいとも間違っているとも言えない決断や行動の数々が、読者に答えのない問いを投げかけます。「もし自分が誠一の立場だったら」「聖子の立場だったら」などと考え始めるとキリがなく、結末の読後感は決して良くはありませんが……この話を「めでたしめでたし」で片づけられるはずはなく、むしろ、これこそなるべくしてなった結末なのかなという気持ちにもなりました。
全編を通して、映像的には派手なシーンでも冷静に淡々と描かれており、その静けさが物語の奥深さに一役買っています。うん、今作も恒川さんでした。
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『夜市』で惚れてしまいすぐ2作目として手を出した恒川光太郎作品。一気に読み切ってしまった。ファンタジー?SF?を読むのは久しぶりだったし群像劇とのことで頭が付いていくか不安だったけど全くの杞憂であった。短編も長編も変わらぬ強さでグイグイ読ませてくる。
誰にとっての救いで、希望で、絶望で、破滅なのか。善悪も正義も個人ごとにその判断は分かれる。
すでに他の著作も読まれているファンの方には何を当然のことを、と言われそうだが、物事を決断する上で選ばねばならない「何か」に迫られた時の人間の心に生まれる曖昧な滲みや、絶妙な善悪の境界線や表裏の描写がこの作者はやはり卓越しているなと感じる。
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現実世界と異世界が滅亡をかけて対立します。我々の世界から弾かれた人間が異世界で幸せを得ます。幸せを維持しようすると現実世界が厄災に見舞われる、という構造となっています。
お互いの正義は衝突します。他人の不幸の上に成り立つ幸福は容認されるのでしょうか。
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いや面白すぎん?一気読みしてしまって、頭が痛いです。
恒川さんの作品は「夜市」を読んですごい好きで。評価の良かったこの本を次に選択しました。
めちゃくちゃ面白い。パワハラに合っていたサラリーマン誠一が想念の世界に行き、人と触れ合い家族を作り再生していく。一方で現実世界ではプーニーが侵食し、人が死に、崩壊していく。それぞれの立場でそれぞれの家族とか想いが描かれており、読了後はなんとも言えない感情が残った。
プーニー抵抗値の高い人物、セーコさん、野夏旋、理剣、みんな魅力的な人でかっこよかった。
誠一も結局のところ被害者で、向こうの世界で幸せに暮らしていて、でもその事で現実世界は崩壊してきて、誠一はラスト、プーニーで家族を失った看護師に殺されるけど、誠一は誠一なりの幸せを求めただけなのに(現実世界に戻ってきてからの態度は良くないと思うけど。笑)、ただそれだけで殺されるって…「滅び」の理由って身近にあるけど、ただ気づけないだけなのかもしれないなって感じました。
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ホラーやファンタジーを得意とする著者がSFに挑戦した作品である。『スタープレイヤー』シリーズもSFの要素を孕んだ作品だが、本作はこれまでの恒川作品と一線を画している。
突如サラリーマンの鈴上は知らない世界で目が覚める。最初は困惑した鈴上だが、そこの住民の温かさや不自由のない生活に安らぎを感じていた。
一方地球は人類滅亡の危機に瀕していた。「プーニー」と呼ばれる白いぶよぶよした生命体が繁殖し、世界を飲み込んでいった。天には謎の巨大な物体があり、その中心にいたのは鈴上だった。
人類を救うため選ばれ者が特殊な装置で鈴上とコンタクトを取り、巨大な物体の破壊を嘆願するが、鈴上はそれを拒絶する。
正義の衝突、トロッコ問題、集団心理、これら現代社会における重要なテーマを恒川節を交えダイナミックに描いている。
正義の実行の先にあるものとは。是非ご自身の目で確かめていただきたいです。
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この人にダークな世界を描かせたら、
秀逸だということをすっかり忘れていた。
最初は安心して安穏とした気分で読んでいたのだが、段々と暗雲が立ち込めてきて…そして、どんどん暗さに拍車がかかってゆく。
なんて救いがなく絶望的なのだろう。
この絶望感の破壊力は半端ない。
恐怖感や衝撃を淡々と描くことで、冷徹さが増している。
鈴上は、ただ幸せになりたかっただけだと思うのに。
彼に希望ある気持ちがあると、現実世界が災厄に見舞われるという、最悪な世界観。
気持ちがすっかり憂うつになりました。
胸を太い釘で打ち付けられたかのような、鈍い痛み。
悪夢を見そうで今夜は怖い。
やはり恒川光太郎氏は凄い…!
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面白かった。
鈴上は悪人なのか?でもその場その場で手に入れたささやかな幸せを守りたくて、何が悪いだろう。
人はその人その人の感じたことでしか、何かを判断することはできないと思う。
鈴上の身に起こったことから語り起こされるので、まず鈴上とかれの身近な良い人たちに感情移入してしまう。
そもそも鈴上のそれまでの生活に、何ら良いことがなくて、私だってそんなところに戻りたくないと思う。
新たに得たささやかな幸せを守りたくなる。
それが現実ではないとしても。
現実では、とても悲惨な事態になっている。
その事態を鈴上は伝聞でしか知らない。実感がない。
地球上の全てが滅びを待つような状態。
地球上全てを救うために、自分の子を殺せと言われて、言われただけで、それを信じて子を殺し身近な良い人たちを失えるかどうか。
私は無理だと思う。まず話を信じない。
地上では、具体的に脅威にさらされた中で、いろいろなことが起きる。
脅威によって家族も何もかも失う人たちが描かれる。
しんどいことばかりで、本当に地獄。
いったいどうなるのかと先が気になってどんどん読んでしまった。
結末は出たけれども、それで何もかもすっきりする!とはいかない。ザラッとした舌触りの何かが心にずーんと残った感じ。
なかなか考えさせられるラストだった。
現実世界で、唐突に土方歳三資料館という単語が出てツボった。
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恒川さんの作品はどちらかというと、ノスタルジックさが漂うものの方が私は相性がいい。とは言え、しっかりとした世界観はさすがで、独特の世界を作り上げている。プーニーという名前が可愛くも恐ろしい。
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壮大で美しい幻想群像劇と言う通り、素晴らしい作品。SFファンタジー要素もあり面白かった。わたしの絶望は、誰かの希望。色々考えさせられた。