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「ブクログの作品紹介」
新型コロナ・ウイルスは世界経済に大きな打撃をもたらしたが、その衝撃波は、エネルギーの分野にも及んでいる。注目すべきは、エネルギー需要全体が大きく減退する中で、再生可能エネルギー需要が堅調に推移していることである。使用時にCO2を排出するエネルギーから排出しないエネルギーへのシフト、集中型のエネルギー供給システムから分散型のエネルギー供給へのシフトという大きな流れ、つまり「エネルギーシフト(エネルギー転換)」ともいえる動きが改めて明確になったのだ。この勢いは、パンデミックを克服した後の世界では一層強まることになろう。
加速するエネルギーシフトの動きに取り残された感が強い日本政府も、2018年に閣議決定した「第5次エネルギー基本計画」で、2050年までに「再生可能エネルギーの主力電力化」をめざす新しい方針を打ち出した。しかしながら、政府はこの決定にもかかわらず、電源構成見通しにおいて再生可能エネルギーの比率を上方修正せず、以前のままに据え置いた。それを本気で遂行する気がないがごとくである。
本書は、このような状況の中で、「再生エネ主力電源化」を本気で実現するために何をすべきかについて、正面から論じていく。リアルな議論を展開するため、再生エネ発電だけでなく、原子力発電・火力発電・水素利用などの動向も視野に入れ、エネルギー問題を包括的に検討、さらに、「再生可能エネルギー主力電源化への道」それ自体については、(1)既存の枠組みを維持したままのアプローチと、(2)「ゲームチェンジ」を起こす新たな枠組みを創出するアプローチの双方を採り入れる必要があると、この課題に果敢に、かつ冷静に取り組む。
政府機関や自治体の担当者、電力・ガスなどエネルギー産業関係者、またエネルギー事業への参入を狙う方たちにとって必読の書であるが、議論の過程では石炭火力発電「悪者」論や原子力政策の近視眼的なありようも批判しており、エネルギー問題に関する俗論などについて第一人者の見解を知ることもできる。その根拠示しつつ、我々は何をどう選択することができるのかを考えさせる、幅広い読者がそれを自分ごととして捉えるのに有用な一冊である。
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第5次エネルギー基本計画を軸に、現在のエネルギー政策を概観しつつ、筆者の主張を展開。
再エネの課題に対する踏み込みが浅い分、原発、石炭火力への積年の思いが垣間見える。
石炭火力海外移転等は既に時代の大きな変化を感じるが、現在地点を知る上で有用。
◯第5次エネルギー基本計画2030年「原子力20-22%、再エネ22-24%、LNG火力27%、石炭火力26%、石油火力3%」
を
「原子力15%、再エネ30%、LNG火力33%、石炭火力19%、石油火力3%」
にすべき
・再生可能エネルギー主力電源化に向けた論点
①発電コストの削減
②系統制約の解消
③設備廃棄への対応
④将来的な再投資の確保
⑤FIT制度の見直し
⑥各種規制・制度の見直し
・2つのアプローチ
1既存枠組み維持
・系統制約の解消
→既存系統線の効果的・効率的利用
→次世代NW構築(投資促進の仕組み)
・送電線を必要としない方式の導入
→スマートコミュニティの拡大、地産地消
→蓄電機能を高める、水素形態で融通
2ゲームチェンジを起こし新たな枠組みを創出
・パワー・トゥ・ヒート:電気を熱で調整する
例)デンマーク
・地域熱供給
・50℃以下の低温水(第4世代)
・移行戦略が参考になる
◯原子力発電
・現存33基、うち2030年12月末、運転開始40年未満は18基
・現在建設中(中国電力・島根原子力発電所3号機、電源開発・大間原子力発電所)2基
→20基、稼働率70%とすると2030年総電力需要見込み9808億kWhのほぼ15%
・原子力依存度を最低限にとどめながらリプレースする路線はあり得るか
※全て60年延長されても、2050年末18基、2070年末0基
→脱炭素化の選択肢になり得ない
・福島対応、バックエンド問題
◯火力発電
・LNGのベースロード電源化
・高効率火力発電の海外移転による二国間クレジット制度拡張
・EOR(Enhanced Oil Recovery)+CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)
・カーボンリサイクル
-化学品:含酸素化合物、バイオマス由来化学品、汎用物質
-燃料:微細藻類イバイオ燃料、CO2由来燃料、ガス燃料
-鉱物:コンクリート製品・構造物、炭酸塩
-その他:BBCCS、ブルーカーボン
◯水素
・エネルギー構造全体を変えるポテンシャル
・パワー・トゥ・ガス
・千代田化工建設SPERA水素:水素+トルエン=メチルシクロヘキサンで輸送
・アンモニア発電
・メタネーション
◯担い手
・国策民営化方式からの脱却
・分散再エネ、需給調整を行う新規事業者、地産地消システム導入を行う自治体、非原発依存・ネットワーク重視型の電力会社、メタネーションを担うガス会社
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初心者には割と難し目の内容だった。ただ水素やCCUSが将来ゼロエミッションを達成するのに大事だと分かった。2050年に達成できるのかまだまだ分からないけど、自分達の世代でなんとか達成したい
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160ページ程度なのに濃い内容である。
①再生可能エネルギーの主力電源化と諸課題について
②原子力発電においては、リプレースや使用済み核燃料問題に、政治家や官僚には2〜3年の目先の視野しかなく戦略も司令塔も不在という状況
③高効率な日本の火力発電技術の海外での運用
④水素やアンモニアの可能性など
これらを諸問題と解決策を示しながらの提言ではあるが、エネルギーシフトには問題山積とも言えるだろう。
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日本の経営とエネルギー産業の専門家により、日本のエネルギー政策の問題点と提言をまとめたもの。世界中で脱炭素に向けて取り組む中、日本政府としての取り組みにはちぐはぐなところがあり、その問題点を論理的に述べている。わかりやすい。
「現在人類が直面する最大の危機は、今もって、貧困と飢餓である」p4
「SDGsの目標17項目:①貧困をなくそう、②飢餓をゼロに、③すべての人に健康と福祉を、④質の高い教育をみんなに、⑤ジェンダー平等を実現しよう、⑥安全な水とトイレを世界中に、⑦エネルギーをみんなにそしてクリーンに、⑧働きがいも経済成長も、⑨産業と技術革新の基盤をつくろう、⑩人や国の不平等をなくそう、⑪住み続けられるまちづくりを、⑫つくる責任つかう責任、⑬気候変動に具体的な対策を、⑭海の豊かさを守ろう、⑮陸の豊かさを守ろう、⑯平和と公正をすべての人に、⑰パートナーシップで目標を達成しよう」p5
「SDGsは、⑬の「気候変動に具体的な対策を」に重きをおいて理解され、地球温暖化対策が中心的な内容だと思われがちである。しかし、①は「貧困をなくそう」であり、②は「飢餓をゼロに」である。⑬達成のためには化石燃料の使用抑制が求められ、①②実現のためには化石燃料の使用拡大が不可避である。SDGsもまた、二律背反に陥っているのである」p6
「わが国における太陽光発電コストが割高であることについては、その一因として、FIT制度の逆機能をあげるべきであろう。当初の買取価格が高く設定されたために、コストダウンへのインセンティブが後退したのである。国民負担の軽減という観点からだけでなく、太陽光発電コストの低減という観点からも、FIT制度の根本的な見直しは、必要不可欠である」p36
「日本国内の電源立地に関して、自民党の国会議員の多くは、原子力から太陽光・風力にいたるまで、基本的には賛成する。ところが、地熱発電の立地についてだけは、それに反対する。温泉業者関係の票が逃げることをおそれるからである。自民党の国会議員が反対する電源の開発は難しい」p41
「あくまでFITは最初の弾みをつけるエンジン役。最終的には市場ベースで勝負できる電源にならないとサステナブル(持続可能)な形で入っていかない。将来にわたり使い続けるんだったら、国民負担がなければ普及しない電源なんて、長持ちしない」p49
「再生可能エネルギー発電が市場ベースで普及している地域(北欧、米国、オーストラリア、中国)の特徴は、送電網が充実しているか、あるいは送電網を必要としない仕組みが導入されているかにある」p50
「再生可能エネルギーが高コストであるというイメージがなかなか払拭できない最大の要因は、既存の枠組みが、再生可能エネルギー発電を蓄電池ないしバックアップ火力発電で調整するという、「電気を電気で調整する」方式に固執しているからである」p54
「(太陽光発電の余剰電力を揚水式のダム式水力発電で調整するための壁)①ダム式水力発電と再生可能エネルギー発電とをつなぐ送電線を所有しているのは当該地域の旧一般電気事業者であり、その委託料が高い、②公営電気事業者の大半は当該地域の旧一般電気事業者への長期電力提供契約を結んでおり、それ以外の再生可能エネルギー電源と連系する自由がない、という2点である」p54
「次の選挙、次のポストを最重要視する政治家・官僚の視界は、3年先にしか及ばない。しかし、原子力政策を含むエネルギー政策を的確に打ち出すためには、少なくとも30年先を見通す眼力が求められる。このギャップは埋めがたいものがあり、そのため、日本の原子力政策をめぐっては、戦略も司令塔も存在しないという不幸な状況が現出するにいたったのである」p67
「福島第一原発事故後の9年は、原子力政策の面で政府があてにならないことを明らかにした。原子力事業の継続を望むのであれば、電力会社は、責任を持ち切る覚悟を固めなければならないだろう」p74
「原子力に関しても「実用段階にある脱炭素化の選択肢」として高い位置づけを与えた。しかし、政府が原子力発電のリプレースを回避している以上、原発が長期的に「脱炭素化の選択肢」であり続けることは不可能である。その意味で、原子力の未来は暗い」p85
「(原子力政策)問題の先送りに終始する政治家や官僚には何も期待できない。リプレースの決断を含め、原子力問題を解決するカギは、民間電力会社が握っているのである」p87
「わが国の高効率石炭火力発電技術の移転による海外でのCO2排出量削減が、決定的に重要な意味をもつことになる」p92
「世界の発電の主流を占めるのはあくまで石炭火力なのであり、電源構成比の点で石炭火力(38.5%)は、天然ガス火力(23.0%)、水力(15.9%)、原子力(10.3%)、その他(9.0%)をはるかに上回る。石炭火力のウエートを国別にみると、日本が33.2%、米国が31.0%であるのに対して、中国は67.9%、インドは74.0%に達する」p93
「石炭に関しては、供給源が原油のように特定地域に集中しておらず世界各地で産出されるうえ、2016年度には日本企業によって開発・生産された「石炭の自主開発比率」が61%に達している事実を見落としてはならない。つまり、石炭は、石油や天然ガスにはない経済面やエネルギーセキュリティー(安定供給)での優位性を有しているのである」p96
「日本の石炭火力の熱効率は世界最高水準にあり、その技術を国際移転すればすぐにでもCO2排出量を大幅に削減することができるのである」p97
「CCUSとは、CO2を回収して貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)と、回収したCO2を利用するCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)とを合わせた用語である」p110
「燃料電池関連技術の国別特許出願数の点で世界トップを占めるのはわが国であり、第2位以下を大きく引き離している。水素タンクの製造に関しても、日本メーカーの競争力は高い。水素利用分野は、地熱発電分野などとともに、わが国企業が競争優位を確保しているのである」p119
「水素とCO2から都市ガスの主成分であるメタンガスを作り出すメタネーション(水素の有力な代替利用策)」p137
「既存の枠組みを維持したままのアプローチとしては、とくに送電線問題を解決して系統制約を解消することが重要である。原子力発電所の廃炉によって「余剰」となる送変電設備の徹底的な活用、電力会社の経営姿勢の変化等がもたらす送電線投資の活性化、スマートコミュニティの拡大や水素利活用などが進展すれば、送電線問題の解決は可能である」p155