投稿元:
レビューを見る
『そして、遺骸は嘶く』も凄まじい作品だったが、この作品の凄まじさも半端なかった。
正直うまく言葉にできなくて、凄いとしか言いようがないのがもどかしくある。
ミステリでありながら、人間の綺麗な部分も醜い部分も、愛情も憎しみも、孤独も怒りも丁寧に丁寧に描かれていて、読み進めるたびに酸欠を覚えるほど。
謎解き自体も面白いが、その感情表現が印象に強い。
淡々と描写しておきながら、こちらに伝えてくる感情が津波のようで。
押しつぶされないようにするには、こちらもそれなりの気力をもって立ち向かわざるを得なくて。
いい意味で非常に疲れる読書だった。
それだけ力強いのだ、この話。
その感情の波を逆方向に振り切っているのが主役の二人。
動と静を煮詰めるだけ煮詰めた正反対の二人。
特にヒバリの感情には、常に抱えた怒りには、触れると痺れるほど。
対照的に冷め切ったシキョウ。
生い立ちゆえ仕方のない部分はあるが、そんな彼がだんだんとヒバリに馴染んでいった矢先の終盤の展開は、また受け止めるには心のゆとりが必要だった。
重くて、重くて。
それでいて、描写は美しいんだよなあ。
でも、やはり愛が深くて、重くて。
この物語という大海で酸素を求めて喘ぐ、終盤の酸欠ぶりは本当に凄まじかった。
ヒバリの父親の名前がまた皮肉だよなあ。
宮沢賢治の某作品を思い出して、また涙が禁じえないという。
色々だらだら書いたけれども、この物語の根底にあるのは、「愛」かなと思う。
ヒバリの怒りも、シキョウの諦めも、作中様々なものも形が違えど、結局はそれぞれの「愛」の形なのかなと。
共感できるできないという問題は別として。
本当はもっと物語について書ければいいのだが、いかんせんまだ衝撃から立ち直っていないので、だらだら感想を書いただけで終わることが心苦しい。
もっとしっかりレビュー書ける方にそれはお願いするとして、取り敢えずまずは実際に読んで感じてほしいと思う。
サブキャラ一人一人の背景も丁寧に書かれている、この世界観の練り上げ方は本当に本当に凄まじいので。
たった一冊の本にこれだけの熱量を込められるのかと。
それでいて暑苦しさは感じない、静かな熱なのだ。
二作目もこのクオリティなのだから、本当に凄い作家さんだと思う。