- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
2 件中 1 件~ 2 件を表示 |
紙の本
高度経済成長期以前に、つましい生活を余儀なくされた日本の農村社会の知恵が野良着には凝縮されている。
2000/10/25 00:15
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:挾本佳代 - この投稿者のレビュー一覧を見る
だいぶ立ち直ってきたとはいえ個人消費が落ち込んでいるこの時代、意外に受けているのが、タンスの肥やしになっている古着のリサイクルだ。テレビでも、古着を活用した今風デザインへの再生方法などが特集されたりしている。確かにその方が洋服のためにもなるし、第一、生地の原材料のムダ遣いをしなくて済むし、余分な燃料を使わなくていいし、・・・めぐりめぐっては地球のためにもなる。
ところで、こんな豊かな時代のリサイクルとは比べものにならないほど、かつての農村社会では切実に一枚の着物を野良着として再生させてきた。着物にできたちょっとやそっとの鉤裂きや虫食いは、当たり前のように布をあてて修理され、そのあて布の厚さが逆に厳しい農作業から身を守ることにもなった。野良着を見れば、貧しいながらもたくましく生きてきた農民の知恵を知ることができるのだ。
著者の福井貞子氏は、そんな知恵が凝縮された野良着をコツコツと山間の農村を歩いては収集してきた。集めた野良着は、明治初期から昭和40年まで実際に活用されていたものである。しかし、その野良着はそう簡単に手に入れられるものではなかったという。なぜなら、野良着を着ていた人々がすでに処分してしまっていたり、仮に置いていたとしても、彼らにとって野良着が過去の貧困の象徴であるために、あえてその存在を明かさないことが多かったからだ。
着物ほどリサイクルに向いている衣服はない。一度バラしてしまえば、それは元の並幅の反物に戻すことができるからだ。野良着は、その着物の利点を最大限に生かして作られている。1枚の長着物が解かれて、野良着へと生まれ変わる。それは見事なほどだ。もんぺ、はっぴ、綿の入った袖なしの胴着、子負い着、前掛け。布地の節約を考えたり、手作業を助けるために袖幅を狭くしたものや、布地の損傷を補うために天地を逆にして再生されたものもある。長着物は、野良着として布の寿命がくるまで使い切られたのだ。収集された野良着のどこに破れがあり、どこに当て布がされていたのかも図示されている。肩や腰付近に損傷が多いことからも、農作業の厳しさもうかがい知ることができる。
誰も見向きをしなくなった野良着の収集を、ここまでのこだわりをもって著者がやり続けてきたのは、木綿や絣から作られた野良着そのものの美しさに惹かれたのはもちろん、野良着から人間の営んできた生活が見て取るように浮上してくるからだろう。布地についた綿や糸屑から、その布地が綿入れ着物を改縫いしたことがわかる。布地の破損箇所や摩擦の具合から、作業内容や着用頻度がわかる。そんな著者と「野良着との対話」は、高度経済成長を経て、大量生産された安価な衣服を当たり前のように手に入れることになった日本人がとうの昔に忘れてしまった「ものとの対話」だ。いまもてはやされているリサイクルの原点を教えられたような気がした。 (bk1ブックナビゲーター:挾本佳代/法政大学兼任講師 2000.10.25)
2 件中 1 件~ 2 件を表示 |