水面の星座 水底の宝石~ミステリの変容をふりかえる~ みんなのレビュー
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紙の本
思わず読み耽ってしまったミステリ評論集
2004/07/15 23:50
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風(kaze) - この投稿者のレビュー一覧を見る
図書館で何げなく手にとって読み始めたら、とてもスリリングで面白いミステリ評論集だった。古今東西のミステリを、「多重解決」「操りテーマ」といった趣向や、「密室もの」といったジャンルを軸に、比較対照しながら、それぞれの仕掛けの働かせ方やその妙味について語っている。未読の作品のネタバレがされているのは覚悟の上で読んでいったのだが、その作品の核となるテーマや仕掛けについて的を射た指摘がされているので、「なるほどなあ」と頷かされながら興味津々、頁をめくっていくことができた。
ネタバレされていると言っても、章の扉の箇所で、取り上げている作品と、「未読の方はご注意ください」と断り書きがついているので、「ネタバレされちゃうのは、ヤだなあ」と思ったら、その章はすっ飛ばして読んでいくことができる。いずれにせよ、東西のミステリをある程度読んできた読者でないと、本書の論評の鋭い切れ味や、あるテーマのもとに取り上げた作品を比較検証してみせる手際の面白さは、十分に伝わらないだろうと思う。
ミステリを読んだ感想を書く時、いかにネタバレに抵触せずに、その作品の面白さや仕掛けの妙味を相手に伝えるか、それも未読の方の興を削がないように書くか、なかなか苦心するところである。ここでのミステリの書評を読んでいて、「皆さん、そこんところは注意深く配慮して、うまいこと作品のポイントをすくい上げて書いておられるなあ」と、感心させられることが多い。でも、ネタバレなしでそのミステリの面白さや妙味を語ろうとすると、仕方ないこととは言え、どうしてもそこから抜け落ちてしまう部分があって、語る方も読む方も(特に、その作品を読んだ方にとっては)、もどかしさを感じることがしばしばあるのではないだろうか。
本書では、そのもどかしい思いを解消してくれるようなところがあって、日頃の渇が癒されたような気持ちになった。ミステリ横丁ではかなり有名な作品について、きっちりとその趣向の面白さや味わいについて論評しているところ。「ふーむ。なるほどなるほど。そう言われてみると、あの作品の書き方の工夫や趣向は、そんなところにあったんだなあ」と、興味をそそられながら読んでいくことができた。
なかでも、ミステリの「多重解決」の趣向を取り上げた章で、バークリーの『毒入りチョコレート事件』、貫井徳郎の『プリズム』、西澤保彦の『聯愁殺』を比較対照しながら、それぞれの作品の面白さや妙味について語った件りが、とても面白かった。西澤さんの作品は読んでいないので、これから読む時は驚きが減ってしまう点を差し引いても、ネタバレしながら語るここでの論評は、実に興味深く感じられた。
ほかの章もあちこちで、あるミステリ(ミステリ界隈では、かなりよく知られた作品が多い)の読み解き方や見方、味わい方に興を引かれた。
初読、再読時とも、「そんなにいい作品かあ」と疑問符をつけたカー(贔屓にしているミステリ作家なんだけれど)の『三つの棺』も、折を見て、また読み返してみようかなと、そんな気持ちにもさせられた。
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