紙の本
常識的だった「砂漠の狐」の実像
2008/05/07 03:12
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:いえぽん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ナチス・ドイツの人種至上主義やそれに伴うユダヤ人廃絶行為、そして、独裁者ヒトラーを軸とする征服志向などの残虐性や危険性は、二度と繰り返してはならない歴史上の教訓として、洋の東西を問わず、多くの国や地域で語り継がれていますが、ナチズムへの共感とは関係のない形で、ドイツ第三帝国軍への関心と評価は、多くの軍事研究者やファンたちにとって、極めて高いものになっています。他に類を見ない撃墜等のスコアを誇る、無数の現場のエースたちと、先鋭的な兵器群、そしてそれを実際に運用していく指揮・命令系統の先進性など、極めて多くの面において、他国に勝っている部分があったからでしょう。
そんな第三帝国軍にあって、ほとんど伝説的な名将として語り継がれているのが、この本のテーマとなるロンメル将軍です。圧倒的に敵が数的優位を確保している北アフリカ戦線で、戦術的勝利を挙げ続け、「砂漠の狐」とまで恐れられながらも、最後はヒトラー暗殺計画に加担しているとして自死を余儀なくされた彼は、ナチスが戦後断罪されるようになってからも、政治には全く興味を示さず、ナチス党に入ることもなかったこともあり、高潔な軍人として語られるようになりました。本書では、彼の名声を決定的なものにした北アフリカでの死闘もさることながら、そこに至るまでの過程、生い立ちから青年将校だった頃の第一次世界大戦時の頃の戦いぶりや、軍再建期に教官として辣腕をふるい、昇進を重ねていった辺りの事について、極めて詳細に描かれています。
そして、そこから見えてくるのは、至って常識的な手段やシステムを積み重ね、実績を上げていく、ロンメルの堅実な姿です。何か事が起きると、常に陣頭に立ち率先して行動を行い、合理的で厳しい訓練を課していく一方で、実用的で誰にでも理解できる、新たな戦術論を組み立て、教壇からそれを普及していく……北アフリカの「奇跡」は、常に常識的な枠内で最善を目指したロンメルの姿勢が生み出した、必然的なものだったということが分かります。もちろん、閃きや判断力といった才気も、常人よりはずっと優れていたのは確かですが、彼の戦略思想の軸にあったのは、ごく基礎的で常識的な要素を、いかに丁寧に実行するかという部分だったと言えるでしょう。彼の戦術論は、高級士官やその候補生たちだけを対象にするものではなく、歩兵学校の生徒たちにも(ロンメルは歩兵学校で教えていたこともあります)、言うなればナチスお抱えの少年団であるヒトラー・ユーゲントの構成員たちからも広い支持を受けていたことから、彼の戦術論がいかに平易で理解しやすく、しかも実用的だったかがわかります。恐らく、こうした積み重ねが結果に繋がっているということは、万事に言えることなのでしょう。
名将の目覚ましい戦術や采配を見たいという方にはもちろんですが、歴史を通じて、仕事や学業、趣味といった事柄にヒントを見出したいという方にも、模範的かつ常識的な将軍としてのロンメルの実像は、大いに参考になるのではと思います。「ロンメル将軍」の誕生の裏側には、実戦で叩き上げた経験ばかりでなく、兵学校、士官学校教官として、実績を積み上げた事が大きかったりするのも、戦場の活躍からすれば意外で、面白さを感じる部分だと言うことができるかも知れません。
ロンメルの全体的な実像を示した本が、日本にはほとんどない中で、全体像を示しているにも関わらず、とてもリーズナブルである事も、素晴らしいポイントです。第二次世界大戦を舞台にした小説やシミュレーションゲームは無数にありますが、そうした書籍やゲームの副読本としてもおススメです。
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ノルマンディ前の状況など、よく分かって、面白かった。
「史上最大の作戦」で、パラシュートで降下した兵が、みんな
迷子になる、みたいな話があったが、
あえて、嵐の夜に、作戦を実施したせい、と分かった。
アイゼンハワー(だったか?)は、事務職上がりとか、
色々エピソードが入っている。
スターリングラード、クルスク、など、有名な戦場も
ちらっと出てくるのだが、ほとんど触れられていない。
パットンも、名前が少し出てくるだけ。
ただし、ノルマンディー上陸作戦には、意外な形で
貢献している(パットンだけに注目していたので、
ノルマンディーから来るとは思わなかった)
とにかく、この本だけだと、戦争の全体像は分からない。
あくまで、ロンメルに絞った話。
ロンメルはそもそも、戦車が専門ではないのだが、
なにか、途中でいきなり戦車に興味を持ち、転属する、という
話だった。
初期のころは、ヨーロッパを舞台に活躍。
(作者のナチ好きっぷりは、ちょっとアレだが…)
機動力で、敵の砲弾が当たる前に、移動してしまう、という戦い方や、
森など、疑わしいところはとにかく砲撃する、などの作戦で
(作者も、ベトナム戦争時、この作戦で戦ったらしい)
連勝して、有名になる。
砲弾は、数キロ離れても、ぴかっと光ったら、もう着弾しているとか、
恐ろしい威力。
ドイツ軍が誇る、高射砲(?)も出てくるのだが、
プライベート・ライアンを見たら、それが出ていた。
この時期、ヒットラーの護衛などもして、ヒットラーとは面識があった。
その後、エジプトに転属、
軍部の理解の無さで、補給物資が届かず、
次々に補給される、イギリス軍相手に苦戦。
同盟であるイタリア軍の、無能っぷりの描写もひどい。
有名なエル・アラメインの戦いで、ついに負ける。
なお、戦地を戦いの前に、飛行機で偵察しておく、
というノウハウも書かれている。
撤退戦のうまさ、というのも描かれている。
その後、ヨーロッパに帰るが、敗色濃厚。
とにかく上陸作戦を阻止して、講和条約を有利な方向に持って
いこうとする(ヒットラーが降伏するとも思えないが)。
しかし、詩集を読みあげる、などの暗号の情報を
つかんでいたにも関わらず、それは、軍部に届かず。
偽装死体作戦にも引っかかり、
さらに、上陸したての兵を、戦車で一掃すれば
楽勝だったのだが、命令が遅れ、態勢を整えられてしまう。
まさに、ノルマンディーは、幸運で、成功した作戦であることが分かる。
その後、ワルキューレで有名な、ヒットラー暗殺未遂事件が発生。
クーデターをもくろむ勢力が、ロンメルを首相にしようと
していたことから、無実であるにもかかわらず、
呼び出され、自決。悲劇の将軍として、名を残す。
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子どもの頃、ドイツの戦車を中心にプラモデルに夢中になっていた私にとって、このロンメル将軍はいわば憧れの存在。やっと彼の生涯について、詳しく知ることができました。
さすがに、小学生の私が名前を知っていただけのことはあります。優れた戦術家として彼は、第二次世界大戦、ドイツ軍人として活躍をしました。
彼のすばらしいところは、戦術だけではなかったようです。人の上に立つ者として、人の心を引きつける人心掌握術に長けていたところも見逃すことはできません。いくら優れた戦術を用いても、部下を思い通りに動かすことができなかったら、その効果を最大限に発揮することはできません。そういう意味で、人の動かしたもよく知っていたと言うことができます。
さらに彼のすばらしいところは、どんなに偉くなっても、常に陣頭指揮を執っていたということ。これは、兵士の士気を高めることに貢献したことはもちろん、敵や地形を知り、戦略に生かすために不可欠なことであったらしい。
しかし、そんな彼にも、大きなミステイクがあった。
1 著書を書いてしまったこと。
相手がそれを読んでいて、ロンメルの戦略が研究されていたらしい。
2 ヒトラーに直談判するために、何度か戦線を離脱したこと。
その行動力が、時にはマイナスになることもあった。彼の後半の人生は、肝心なときに戦場にいないことが散見される。
最後は、ヒトラー暗殺未遂事件に連座したとされ、自殺に追い込まれてしまう。
この本は参考文献も豊富で、最後に索引もあり、読み物、資料として非常によくまとめられている。ロンメル以外に当時活躍した人物のちょっとした紹介ページもあって、ロンメルを中心に、第二次世界大戦のヨーロッパの様子がよく分かる。また、文章が巧みで、読んでいる者を飽きさせない。
一つ残念な点を挙げるとすれば、ノンフィクションとフィクションが混在している印象があるところ。特に、一人一人の台詞で進行するページが何箇所かあって、これはどっちなんだろうと気になってしまった。
どちらにしても、ロンメル将軍に多少の興味がある人ならば、ぜひ読んでおきたいお薦めの1冊である。
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他のロンメル本よりかは少し物足りない所もあるがロンメルとは何ぞやを知るにはこれくらいでいいのかも知れない。偉くなったら現場離して中間管理職なんていうムーヴがいかに愚かかロンメルに見習ってほしい本邦の各会社。