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裏社会から足を洗って2年、自動車整備工場を経営するボーレガード。
近所に出来た別の店との価格競争に勝てず、仕事が急激に減り、資金は底を付く間近。
右に出る者のいない走り屋としての己の腕を頼りに、なけなしの財産をはたいて賭けレースに出向くも、警察の取り締まりに合い財産没収。
ペテンであることを見抜くが、時すでに遅し。
全額を取り戻すことはできず、取り戻せたのは誇りばかり。
整備工場の家賃ばかりか子ども達の生活に関わる出費、さらには保険の手違いにより母親を預ける施設の代金が大きく請求されることに。
こののっぴきらない状況の中で取りうる策は、そう、裏社会への復帰。
そこにタイムリーに舞い込む、宝石店からのダイヤモンド強奪計画の誘い。
話を持ち込んできた因縁の相手ロニーの無計画性や胡散臭さ、ロニーの仕事仲間クアンのはりぼての威勢の良さに辟易としながらも背に腹は変えられないと、ボーレガードは計画に手を染めていく。
が、そこで狙った金品のせいで思いもよらぬギャングの抗争に巻き込まれていく。
デイヴィット・ゴードンの『用心棒』とかジョーダン・ハーパー『拳銃使いの娘』を彷彿とさせる、怒らせちゃいけない人を怒らせちゃった系の物語。
思っていたよりアクション寄り。
ボーレガードの抜け目なさや、走り屋としての腕の良さ、車を愛する気持ちがとても魅力的ではあるけれど、やっぱりこういうのは映像向きかなぁと。
それと、ボーレガード自身も「呪い」とまで評するように、無情なまでに暴力で解決していく展開がちょっと辛いところあり。
そんな綺麗ごと言ってられないのはわかるし、そういう展開が逆に感情の昂りを与えてくれる面もあるのだけれど。
邦訳2作目の『頬に哀しみを刻め』は本作とは全く関係ないらしいけど、本作シリーズ化する気はないのかな。
失踪した父との清算やら、運命的な巡り合わせとなってしまった母子との関係やら、なんか宙ぶらりんな点も数々。
いろんな起点から続編書けそうなんだよな。
未訳の次作「All the Sinners Bleed」もなんか違う話っぽいし、謎。
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エンタメ小説を読みたいなと思って以前にチェックしていた本作を読んだ。アメリカの近代ノワールとしてめちゃくちゃオモシロかった。こんなん即映画化されるだろうなと思いながら読んでたら、やはり映画化されるらしい。ここまでハードな環境ではないとはいえ、父となった今ではファーザーフッドについて考えさせられる作品でもあった。
訳者あとがきにもあったように物語の大筋は非常にベタ。しがない自動車整備工場を営む男が元裏社会の人間で、凄腕ドライバー。足を洗ったつもりだったが、そうは問屋が卸さないということでしがらみ、暴力の渦に飲み込まれていくというもの。どこにでもありそうな話なだけど、本著が特別なのは南部のアフリカンアメリカンが主人公であること、あとは著者のとんでもない描写力と細かい設定の巧さ。アフリカンアメリカンが直面している過酷な現実が細かく描写されており、そのストラグルの過程でとんでもない量の血が流れるところが圧巻。主人公が最初から無敵過ぎる問題はあるとはいえ、自身以外の身に降りかかる不幸の量もハンパじゃない。ゆえに見どころが途切れなく続き、最後の方は飲み食いも差し置いて読み耽っていた。またカーアクションの描写がとてもスリリングだし、思いも寄らない設定もあいまって楽しんだ。もう一作、同じ著者で翻訳されたものがあるので読みたい。
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激しいカースタントを文章だけで表現するのはすごかった。単純なストーリーだが、凄まじい描写の嵐。圧巻の犯罪エンターテイメント小説だった。
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古き良きアメリカ映画のような一冊でした
はい、宝島社が毎年発表しているこのミステリーがすごい!ランキング2024の海外編1位に『頬に哀しみを刻め』が選ばれましたね
ということで、S・A・コスビーの『黒き荒野の果て』を読んでみました
『頬に哀しみを刻め』のほうは既読です
めちゃくちゃ面白かったんですが、「このミス」1位はアンソニー・ホロヴィッツの『ナイフをひねれば』と予想してたんですよね
なんとなく「このミス」って王道というか正道のミステリーが1位になるイメージがあって、それに対抗するわけではないのかもしれませんが、他のミステリーランキングがちょっと変化球で攻めてくることが多いみたいな
『頬に哀しみを刻め』はだいぶ変化球な気がしたんでね
そしてもう一つ今回のこのミスで触れておきたいのは本作の訳者でもある加賀山卓郎さんね
なんと3位にランクインした『処刑台広場の女』も加賀山卓郎さん訳なのよ
ひとりで2冊ランクインですよ、すげー
そして加賀山卓郎さんにも変化球のイメージがあるんよね
はい『黒き荒野の果て』に戻りますね
こちらは逆にめちゃくちゃ王道!王道のクライムノベルでした
そしてほんと映画みたい、構成が
もちろん読みどころは激しいカーアクションなんですが、ちゃんと最初に軽いのがきて、真ん中で激しく魅せて、最後に締めるというめちゃくちゃオーソドックスな配置
でも王道好きとしては、それが良いのよね〜
よし!『処刑台広場の女』も読むぞ!
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「V8!V8!」
『マッドマックス怒りのデスロード』をご存知でしょうか。映画内では車のエンジンが神格化しており、それを崇めるボーイズ達が叫んでるのですが本書を読んでいて中盤からずっとこの声が頭に響いておりました。
読書に集中したい時は大抵クラシックかオペラを垂れ流しているのですが(音があった方が集中出来るようです)今回ばかりはこれはあかん!とワイルドスピードのサントラを流してました。
お世話になっている1Q8401さんに『頬に哀しみを刻め』を読んだならこっちもかっこいいおじ様が出るよと教えて頂き、かっこいいおじ様は見ているだけで眼福なので拝読。
タイトルと表紙から黒人さんの悲哀がまた書かれているのかと思いきやもっと重たいテーマが隠されていました。
主人公のイケてるおじ様ボーレガードは自動車修理工場を営む黒人さん。
妻のキアと2人の子供と暮らしており、もう1人前妻との娘もいます。
ところがライバル会社にほぼ仕事を持って行かれ経営難。家庭は支えないといけないし母親は施設に入っているのでお金を工面しないといけないし、娘の学費は出したいし…読んでいてこっちも胃がきゅっとなりましたが、大金をすぐに稼ぐ方法と言ったら違法な事か宝くじで当てるか臓器を売るしか無いので(ひきずるテスカトリポカ)元は裏社会の伝説のドライバーだったボーレガードは、昔の仕事仲間ロニーに持ちかけられた宝石強盗の仕事に手を出す事になるのです。
もうこの設定が痺れる!伝説のドライバーとか伝説の殺し屋とかロマンの塊ですね。
そもそもはボーレガードの父親のアンソニーが中々の悪で、嫁とボーレガードを置き去りに逃げたか亡くなったか、帰らぬ人となっています。それを見ているボーレガードは自分は同じ轍は踏まないと必死に頑張っているのですが、父親を愛している事実と家庭を守りたい気持ちがせめぎ合って苦しむ事に。
ですが、いくらお金に困っても父親の形見のダスターを売らなかったり勤め人にならずに自営業に拘ったり、中々父親の呪縛から解かれないボーレガード。
嫁からしたらお前、ええ加減にせえよ!状態ですが、ここがまたかっこいいんですよね。ダスターは売ったらいかん!
昔の血が騒ぎハンドルを握って「飛ぶときだ」と呟くボーレガードに車なのに飛ぶって表現するんだ、と痺れておりましたら本当に飛んでしまった。
こちらもアドレナリン大放出でしたが、文章でアメリカ産のカーチェイスを読むのがこんなに楽しいとは!!私も飛んでみたい!藤原とうふ店のように溝落としとかしてみたい!(実際はチキンなので超絶安全運転な私)
しかしこの仕事が後々に家族を巻き込む大変な事件へと発展していまいます。
前も思いましたが内容がスッキリと分かりやすく、翻訳本に慣れていない方でもあっという間に読み終えてしまえると思います。相変わらず『クソ車』という表現には笑ってしまいますが、その『クソ車』がこんなにかっこよく走ってしまったらもう、「V6!V6!」と心の中で叫んでしまうわけです。(ボーレガードが積んでいるのはV6エンジンなのです)
初っ端のドッグレース以降、中盤までは丁���にボーレガードおじ様の家族の事などを書いてくれているので一旦熱狂はお預けなのですが、仕事に着手する中盤からその後の後始末にかけてタイヤがアスファルトに擦れる匂いがしてきそうな勢いでテンションが上がります。
その裏では悲しい事件もいくつか起こってしまいますが、果たしてボーレガードは家族を守る一般人に戻れるのか、それともアンソニーの影を追ってしまうのか…。
ハリウッド映画みたいな本をお探しなら、こちらと同作者の次の作品『頬に哀しみを刻め』セットでお勧めです。
前のバイト先の店長がマツダセブンに乗っていたので乗せて貰えば良かったと心から後悔している私が1番好きな車はプジョーです。(完全にTAXiの影響)
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先日読んだ『頬に哀しみを刻め』があまりに良かったので、その興奮が冷めないうちに前作の『黒き荒野の果て』に手を出した。期待通り、とても良かった。
作品の根底に流れるものは『頬に哀しみを刻め』と変わらない。主人公バグことボーレガード・モンタージュは、『頬に〜』の主人公アイクと同じく過去に犯罪を犯した黒人男性で、裏社会の「走り屋」のようなことをしていた。現在は中古車修理工場を営み、問題を抱えつつも、家族を愛している。しかし、抱えていた問題が徐々に大きくなり、大金が必要となったボーレガードは、かつての裏社会の仕事に復帰する。仕事を持ちかけてきた相手が信用のおけない男だとわかっていても、選択の余地はなかったのだ。そして、事態は思わぬ展開を見せ、ボーレガードは窮地に立たされていく。
ボーレガードは、自分が決して正しい人間ではないことを認識している。怒りに我を忘れてしまうことに苦しみつつ、裏社会の水が自分には合っているという事実から目を背けようとしている。彼と友だちになりたいとは思わないが、彼の抱える苦しみは読む者に強く訴えてくるものがある。
本書の白眉は、何といっても走り屋であるボーレガードのカーチェイスのシーンだろう。私はこれまで、これほどまでに鮮烈かつスピード感のあるカーチェイスを本で読んだ経験がない。ぜひ本書を手にして、疾走感満載のシーンが脳内で再生されていく驚きを味わってもらいたい。
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主人公は、犯罪に絡む逃走を請け負う元プロフェッショナル・ドライバーで、今は堅気の自動車修理工場の経営者だ。経営は苦しく、昔の仲間から持ち込まれた宝石店強盗の仕事に絡めとられていく。強盗に入った宝石店が組織暴力と関連があったことから、主人公は泥沼のような悪と暴力にはまっていく。
主人公の父親から続く暴力性が立ち切れず、彼の子供まで悪の素養に魅入られたように染まる。一見、暴力の世界から縁が切れたように見えたが、暴力の血は濃く、きっかけさえあれば見る間に増殖していく。
主人公の苦悩や暴力のリアリティが群を抜き、物語に引き込まれる。主人公が運転する車のように、スピード感をもったまま終盤を迎えるが、決してハッピーエンドではない。
人の中にある暴力性を考えさせられる秀作だと思う
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裏社会から足を洗って家族を守るよき父親であろうとする元走り屋が主人公。
カーチェイスシーンを文章だけでこんなに魅力的に描ききるのは凄い。手に汗握り引き込まれた。