紙の本
人間って欲張り
2023/02/16 17:39
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投稿者:mk - この投稿者のレビュー一覧を見る
子どもができないことのつらさからも、貧困から抜け出せないつらさからもお互いに抜け出せるメリットがあるように思える代理母システム。でも、人間はそんなに簡単に割り切れるものじゃない。結末には少し驚いたけれど、このあとみんながどうなったのか本当に知りたいと思う。
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最初から最後まで考えさせられる本だった。
代理母出産をすると決めたリキと、依頼した側の夫婦それぞれの心情の変化にリアリティがあり、ページをめくる手が止まらなかった。
初めは2人の子供が欲しいという夫婦の思いがいつしか夫は自分の遺伝子を残すことに固執し、妻は自分だけが蚊帳の外だと気づき夫婦の気持ちは離れていく。
卵子ドナーにも容姿や学歴といったランクがあるという話や、夫とその母の間に交わされる会話で妻の遺伝子を必要としていなさそうな内容があったり。ギクっとする内容だが、あり得る話である。貧困から抜け出すために代理母という選択をするということも、あり得る話なのだ。
実際に体を痛めて子を産むのに、産んだら切り捨てられるリキの様々な思いや、悠子がどうしても代理母出産を受け入れられない気持ちがよく描かれている。りり子という存在も面白い。
ラストはなぜだかスッキリした。
昔から桐野さんのファンだが、ここ何作かは初期の桐野さんらしさが感じられて特に面白い。
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何の特技も才能もない、地方出身の女性(短大卒)。
仕事を求めて上京する → 正社員にはなれず、派遣労働者になる
手取り14,5万の生活 → 貯金などムリでむしろそれまでの貯金を取り崩す
次第に年老いる → 将来の展望なし、さぁどうする??
東京で、家賃を払いながら派遣労働者として生きる人のリアル?に驚愕です。
もう10円1円単位の節約。服なんて古着で当たり前。メルカリ、流行るはずよ。
コンビニでの買い食いさえ贅沢で、自作の弁当が当たり前。外食なんてありえない。
給料日に買う発泡酒が楽しみ。それも1本だけ。
だったら、地元に帰って実家で生活しろよって思うかもだけど。
地方にはロクな仕事がないのよ。介護とか福祉とか。キツいだけの低賃金。
この閉塞状況をどう打破するのか、ヒロインが選んだのは「代理母」。
本来、違法なんですけど、そこは魚心あればなんとやらで。代理母で得られる報酬(いうて一千万くらい)を元手に、捲土重来を図るヒロインなんですが。
タイトルの「燕はもどってこない」ですが、「燕」ってなんだろうって。
なんとなく「幸せ」とか良いことの象徴のように思えるんですが。
ヒロインのリキちゃんは、幸せを掴むことができるんでしょうか。
ニコ的には、親子ともども貧困に逆戻りしていく未来しか見えないんですけど。
女ならなんとかなるんでしょうか。
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すごいなーと思うのは
読者が桐野夏生という作家に対して
何を求めているかよくわかっていること。
代理母をめぐっての生と性という
難しそうなテーマをどうしたら
ドキドキハラハラしながら楽しめるのか
ちゃんと知っていて言葉にしている。
読み終えて本を閉じるとき
一気に走り抜けてきた
疾走感と爽快感と快い疲労感が残る。
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2022/03/06リクエスト 10
29歳、女性、独身、地方出身、非正規労働者。
この条件だけで圧倒的不利になる。
頑張るかそうでないか、なんて言う人は、きっともともと有利な何かを持っているのだろう。
このリキの気持ちは、私にも痛いほどわかった。
憧れの東京に来て働こうとしても、家賃は高く、派遣にしかなれず、かなりの貧困層にいる。
そして同様のバッググラウンドを持つ同じ職場の友人、テルに誘われエッグドナーになるはずが、代理母になることに。
一冊の本の中に、経済格差、性行為、結婚、離婚、妊娠出産、母性、そして倫理。盛りだくさん。とても分厚い重量のある本で、内容も重量感ある。
代理母とは、結局、貧困層で差し出すものは子宮しかない女性からの搾取である。それも一つだけど、それでも、その金銭が必要な人もいるのだろう。
搾取されるもの、労働力や、内蔵と並んで、今後は、子宮という項目も増えるのだろうか。
社会的貢献だと思う、裕福な層。
代理母はビジネスだと割り切って、貧困層から抜け出そうとするリキ。
それでも、産まれる子が双子で破水から出産が始まったため、経膣分娩ができず帝王切開になる。お腹についた20センチの傷。それがリキの10,000,000円の代償。ビジネスの対価。
そしてリキに代理母を依頼した裕福な夫婦は結局元サヤに収まるらしい。振り回されまくったリキは最後にとんでもない決断をする。
その決断は、私には理解できなかった。
私がリキなら、帝王切開になったぶん追加で請求する。
でも、出産後、リキに母性が芽生えたのか?
それなら、女の子だけの理由はなんだろう。
とても考えさせられる、よい作品だと思う。
男性にも女性にも読んでほしいと思う。
少なくとも、代理母をビジネスと言うには割が合わないと思うだろう。
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子供の出来ない夫婦が代理出産で
子を持とうとする。
そこに貧困で喘ぐリキが困惑しながらも
お金に釣られて流されるまま代理出産を
する事になる。そこから代理出産選んだ
夫婦も溝が出来意見の相違でギクシャクする。
代理出産をお金の為に選んだリキも
事務的な夫婦の対応に疑問を感じ他の男性
と関係を持ったりして、リキの曖昧な心の動き
もいい加減で共感出来ず、草桶夫妻の悠子の
気持ちが一番リアリティーがあった。
最後のリキの行動はまたリキの様な人生を
歩まなければならない女性をまた一人増やしただけで、子供が幸せになるとは思わない。
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ウクライナで代理母がブラックフライデーセール対象になってたまげたが、日本でも子宮移植という、この本でいうところの"夢の世界を他人に負担を強いてまで作る"行為が現実化してきている。自衛隊は三食食べれることをPRしているし、貧困による身体への資本主義化は止められないのか。
作中にはっきりAセクシャルのキャラクターが出てくるところは◎、役回りも美味しい役でした。
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凄い本だった。家族って何?血筋?DNA?同居?戸籍?似てる、似てない?
全てを取り払ってもう一度考えさせられる。
リキは危なっかしいと思ってたけど、どんどん自分の考えを言えるようになって、母として強くなった
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『ずっと値踏みされる人生じゃん』29歳、女性、独身、地方出身、非正規労働者。リキ。〈代理母〉となり子宮を草桶基、悠子夫婦へ差し出す。その代償として大金と引き換えに。貧困とこどもは誰のものなのか? 決心と揺らぎ。信頼と不信。不安と恐怖と迷いと。登場人物の心が迷路のように迷い混む。こどもは誰かのものではない。ぐりもぐらもしあわせになってと願う。
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非正規労働、貧困、29才独身。東京に行けばきっと楽しく暮らせる、そういう思いで地方から出てきたリキ。
けれど目の前にあるのは雇止め。食費を削り、古着で済ます暮らしさえ今後あやうくなる。
そんなリキが選んだ道。卵子提供、のつもりがあれよあれよという間に人工授精による子宮の提供、つまり「代理母」。
これは、ありえない話ではない。実際に国内では認められていない代理母出産という形で子どもを迎えている夫婦はいる。
子どものできない夫婦にとってこれはある意味福音ではある。けれど、その福音をもたらす女性にとって、それはどういう意味を持つのか。
好きでもない男の精子を身体の中に入れる。40週、自分の中で子どもを育て、そして産む。対価を得るわけだからこれはビジネスなのか。
いや、そこにあるのは、どこまでいっても女性にとって性の身体の心の搾取だろう。
代理母出産を完全に否定するわけじゃない。いろんな理由で子どもを授かれない夫婦にとって得難い道ではあるし。でも、その身体を貸す女性にとって、それは割り切れるものなのだろうか。
自分と夫の子どもであっても、妊娠や出産というのはとてつもなく重い負担である。そりゃそうだ、身体の中に別の「人間」を存在させるのだから。ちょっとやそっとじゃ割り切れるはずがない。
その「割り切れない」心を、桐野夏生はまっすぐ容赦なく描く。阿らず加担せず冷徹に。
どうしても自分の遺伝子を持つ子どもが欲しい夫。自分だけ蚊帳の外になる妻。そして妊娠出産を請け負う「他人」。誰もが自分勝手で利己的に「出産」と向き合う。
それぞれの混乱や苦悩のレイヤーの重みの差よ。
物語は実際に子どもが生まれた瞬間から違う色を見せ始める。それぞれの変化、子どもへの濃度。
そして桐野夏生の選んだラスト。なぜだろう、私は心の底から笑っていた。この結末に最大の敬意を払いながらすがすがしいほど笑っていた。
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❇︎
初の桐野夏生さん。
『OUT』を読んでいないので25年前の物語で
描かれた困窮と『燕は戻ってこない』の中の
主人公を比較できないのですが、非正規雇用や
奨学金返済の苦労は、サービスが多様化して
物が豊かになった今の方が、数も重さも増した
のではないかという印象があります。
(そういう事に注意が向く年齢になって
小説を読んでいるからかも知れませんが……)
お金がない、だから何もかも嫌になって
現実逃避から代理母として子宮と卵子を
提供してお金を得る主人公。
その対極にいる依頼側の草桶基・悠子夫婦、
そして悠子の友人りりこに代表される富裕層。
持つ者と持たざる者の環境に応じた悩みや苦労。
それは別階層で暮らす人間にとっては百歩譲って、
仮に想像ができたととしても、共感は無理だろう
と考えて息苦しくなりました。
何が正解か分かりませんが、主人公のリキが
選択していく場面で場当たり的に思える判断や
衝動的な行動を起こすところが人間らしくもあり
腹立たしい。
共感する部分と受け入れられない部分が
ミックスされて、混乱ともやもや感が
澱のように溜まりました。
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妊娠、出産をビジネスにする事はとうてい考えられない。体の負担とリスクは、どんなに報酬をもらっても軽くならないから。でもそうせざるを得ないから引き受ける人もいる現実なのだと思った。
リキの飄々とした(これで合っているかどうかはわからない)考えと行動が、重くなりそうな内容を救っているなと感じた。
結末には驚いた、「そうきたか!」と。これからの展開を見てみたいな。
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代理母出産を大テーマにした生殖医療の話。
テーマの重さのわりにテンポよく話が進みすぎて、登場人物のすべてが嘘くさい感じにうつってしまった。
29歳、非正規雇用、奨学金の返済、と現代の問題を全て詰め込んだ結果、すこし歪みすぎた主人公が誕生したのかも。結末は想定の範囲内だったけれど、ぐらとかいう可笑しな名前をつけられて仕事もないシングルマザーに連れ去られた女児が不憫でならない。
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★4.0
北海道から上京してきた貧困女性が、代理母出産でお金をもらえると聞き…
めちゃくちゃ面白い。ラストが衝撃的だった。ガツンときた。貧困とか代理母出産とかテーマは重めだけど、どんどん引き込まれた、主人公のあっけらんかとした感じには危うさをずっと感じてた。本人も頼む夫婦も全員葛藤してた。特に女性に読んで欲しい。
ネタバレ
まさかの最後は双子の女の子を方を誘拐するとは…
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久しぶりの桐野夏生さん。主人公と依頼主夫婦ががぐらぐら揺れている様がとてもリアルだった。考えさせられる題材だった。