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事実は小説より奇なり…かな、と思いながら読み進めました。平成の暗黒史である、オウム事件。ぼくらが“体験した”その恐ろしさ、マスコミの扇動、そして、彼らを“人間”として語ることがタブーだった時代の空気。水面に浮かぶ、そんな表層的な事実の根っこにストーリーを加え、関係する人々の心情を抉り取ろうとした快作だと思う。ノアール小説の巨匠だからこそ、そしてそう言われるからこそ、あの事件の加害者たちの心情をつかもうとするのは、使命にも似たものだったのかもしれない。当事者たちは死刑になり、僕らはあの事件から何も学べなかった。だからこそ、こんな“フィクション”は大きな意味を持っている。
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人はここまで堕ちていく――未曾有の巨編が迎える衝撃のラスト。
毒ガス・サリン撒布計画を実行に移す――。教祖・十文字の反社会的なエゴは肥大化し、やがて侍従長である幸田のコントロールが利かなくなってゆく。若き幹部・太田慎平は信仰のために自らが犯した罪に苛まれ、苦悩を深める。一方、金蔓と見定めて彼らと手を組んだ警部の児玉は、権力者たちの暗闘に搦めとられていく。負の感情に囚われ、死臭を放ち始めた男たち。向かう先は天国か地獄か。未曾有の巨編が迎える衝撃の結末。
一気に読んでしまった。世代的にオウムという悲惨で凄惨な事件があったというが、それをモチーフにしているとは言え、ここまで愚かな事を行なっていたとは。
とりあえず。この小説では、幸田というお金に走ったものの最後は全てを諦めてしまう元共産主義者の弁護士と高卒で勢いのまま宗教にのめり込んでしまいそのまま尖兵とされてしまう感受性豊かな太田。自らを貶めた官僚への復讐のために教団を利用する警察官の児嶋。誰1人として救われる者がいないっていうのが、この小説が問いかけてくるものだろう。
ただ、最後に十文字が言い捨てた、お前らなら止められただろ。それをしなかったのはお前等の選択だ、みたいなところは新興宗教だけの問題ではなく、広く社会的な事を言っていて身に染みた。
オウムの事件として起こった数々の出来事をここまで繋ぎ合わせる作者の力はすごかったし、教団が守られていた背景には警察と政治家のパワーバランスがあったというのは納得できる推論だとも思った。
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あのオウム事件に万が一このような背景があったとしたら、とても恐ろしい。
恐ろしいのはヒトの業と正義の揺らぎ
いやいや正義なんてこの世に存在するのか。
さらに正義があったとしても、その実現に道を誤ったら?
深く、悲しく、怖い小説だった。