紙の本
読みやすく楽しい物語。しかし、もちろん意欲作であり、新鮮な読み心地であった。
2022/09/03 16:57
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投稿者:タオミチル - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルの「千代田区一丁目一番一号」って、皇居の所在地?そして、そこにラビリンス=迷宮って、なにかの暗喩?と思って手に取って、本書は、譲位前の天皇と皇后の物語だと知った。1ページ目から、なぜか、その物語が、穏やかなホームドラマのように描かれていて魅了された。だって、かの人がお忍びでひとりセブンイレブンで買い物したりするんだもの。一方、その物語に並行して「天皇のドキュメンタリーを撮って放送したい」と言い出し四苦八苦する作家の話が描かれ、「次はどうなる?」の興味が満載。
本作は、もちろん小説=フィクションだし、ファンタジー的な描写多数。しかし、時々、是枝裕和監督や山田太郎氏、さかなクンなどなど実在の人物が登場(そもそも、天皇のドキュメンタリーを撮ろうとする作家・森克也は、森達也氏がモデルだろう)。終戦直前&戦後史もリアルに描かれ、時々、あれあれノンフィクションだったっけ?ややと心地よい混乱も楽しめた。
物語終盤には、ホントに吹上御所の地下深くに秘められていた、ラビリンス=迷宮まで登場し、そんな不思議な物語を楽しみつつも、「終戦の日」以降の日本を、ある視点で眺めて深く考えることになるのである。
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著者のノンフィクション『FAKEの平成史』の中では「幻の…」と題された天皇ドキュメンタリーがフィクションに。とは言え、どこまでが現実でどこからが創作なのか、読み進むほどにその境目はあやふやになり…え?ちょっと待って?いやいやいや…ここまではさすがにと思う自分と、目を上げたら窓の外のカタシロを当然のように受け入れる自分がせめぎ合い読み始めたら本を閉じることができないまま、ぐいぐい物語の世界に引き込まれてしまう。現実社会では「記録された映像」がきっかけとなって大きな事件に発展した2022年。これからの社会がどんな風に変わっていくにしても、そこに可能性はあると信じたい。昨日88歳を迎えた「妻」と揃って散歩するおふたりのニュースを見た偶然の巡り合わせもおもしろかった。
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とても期待して本を開いたが、まずプロローグの美智子に引っかかってしまった。アンリ・シャルパンティエのクッキーを持って「神戸の老舗が焼いたのよ。高級クッキーなんだから」とは言わないだろうとか、それはともかく、立ったままクッキーを食べないだろう、手についた粉を適当に払うことはないだろうと思うと、もうここでやめておいた方がいいかと思った。いくら「普通の人」と描くにしても、これはあんまりだと思った。でも短気を起こさず、小説なのだから、まぁとにかく読もうと思い、読み始めた。
一章。大学の映画サークル仲間とのラインのくだりがよくわからない。何年の話?LINEあった?ラインはLINEではないんだ。今ラインと言えばLINEと思ってしまうよ。メールのグループみたいなのもラインって言ったの?私が知らないで一人引っかかってるのか。はずかしい。
小説なのだから桜子がマンションを何年振りかに訪ねてきて、何をしてくれてもいいのだが、なんかもう無理。
最後まで読んでいない本は、この本棚に残さず、感想も書かないのだけれど(今までで例外が1冊だけある)、ここで読むのをやめてしまうのはおそらくもったいない。問題作なんだ。期待していたんだ。
読み進められない今の私に問題があると思い、このまま置いておく。また時を置いて読みたい。
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実在する人物を多数登場させてるが、天皇家とマスコミを代表する社会を題材にした、ファンタジーである、と解釈している。平成の天皇と皇后に取材を試みるドキュメント番組を企画して、取材に至るまでの道のりをテレビ放送しようとする、作者自身かと思われる主人公。皇居奥深くでの二人の会話や生活ぶりが、想像力を刺激する。穢れとして忌み嫌われるカタシロなるものと、菊のタブーに挑む物語は、どこへ辿り着くのか?正直、最後まで読むのは結構しんどかった。この題材を書く勇気は認めるが、私は最後まで興味をつなげず、残念。
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昭仁と美智子の日常に現れるカタシロ(世の中におけるけがれ)を通して、その存在を見ることができる森克也と桜子からの取材
当然、美智子と桜子がいなくなるが、昭仁と克也が協力して地下から二人を救いだす 過去のけがれを払拭できたのだろうか?今後、取材された映像は放送される機会はくるのだろうか?
ほとんど書籍、映像化されない天皇家の私生活の一面を描いた小
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『#千代田区一番一号なラビリンス』
ほぼ日書評 Day616
#天皇もの
#ファンタジー
#サスペンス
著者はかつてオウム物のドキュメンタリー映画で、ベルリン映画祭でも賞を取ったという人。
書評等では、「天皇モノの問題作」的な紹介のされ方が多いようだが、その観点だけから見ると見誤る気がする。
オススメは、冒頭に示した3つの要素をバランスよく持ちながら、フィクションを楽しむ読み方だろう。
とはいえ、自身が作中主人公となり、ひょんなことから天皇・皇后(現在の上皇・上皇后)とちょっとした冒険をするというプロットを通じて、新たな「天皇制(≠天皇)観」の創出を試みようとしていることは間違いない。
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「皇室を巡るタブーに一石を投じる問題小説」という自画自賛は、兎も角、ちょっとあざとさ感じる。最後に「風流夢譚」の夢拝借したと思えば、生の御言葉でリスペクト。全体的にはお二人への好感度アップだけど、「生の御言葉」引き出すドキュメンタリーは何だったの?それでも、この本が評判になって皆が考えることは大事。最長在位のエリザベス女王が亡くなった日に、「象徴」を取り巻くあれこれについて。
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千代田区一番一号のラビリンス
著者:森達也
発行:2022年3月20日
現代書館
以前に読んだ「天皇と戸籍『日本』を映す鏡」(遠藤正敬著)によると、皇居にはずっと住所がなかったらしい。戸籍のない天皇が住所を持つ意味、登録する必要がなかったから。ただ、皇居内官舎に住む宮内庁職員などが住民登録する場合に町名が必要だったため、いつの間にか便宜的に「千代田区千代田一番」と呼ばれるようになり、1967年から皇居の住所として表示されるようになったそうだ。
この本のタイトルになっている「千代田区一番一号」は皇居の住所を示しているが、そこを舞台に上皇夫妻が天皇夫妻時代に繰り広げた物語がこの小説。明仁と美智子という〝実名〟で描かれ、報道等で公になっている言動の切り貼りという形ではなく、完全な著者の想像としての2人の言動が描かれている。つまりは勝手に考えた物語なのであり、かなり大胆な〝問題作〟とも言える。明仁はちょくちょく一人で警備抜きの外出をし、コンビニでブリトー(ブリート)を買って店の前でマスクを外して立ち食いまでする。誰も見ていないと思っていたが、誰かに撮影され、SNSにも上げられる。
実名で描かれているのは他にもいっぱいいて、たまたま今朝の新聞に死亡記事が載っていた渡辺又兵衛氏をはじめとした(コントグループの)ザ・ニュースペーパーのメンバーが、禁断の密室芸である天皇などの皇室の真似を大胆にも皇居一般参賀でするという場面も描かれている。
著者はドキュメンタリー監督として地位を確立している森達也氏だが、小説もこれまでに何冊か出している。この小説では、主人公として森克也という著者とイコールの人物を登場させている。40歳前後のドキュメンタリーなどの映像を手がける監督で、文章も書きつつ生きている。監督としては有名だが、お金はなく1DKの部屋に住む独身で、生まれてから一度も勃起したことがなく、バイアグラもほとんど役立たないが、女性と恋愛はするし、性欲もあるという男性として描かれている。
フジテレビの深夜放送ノンフィクション枠「NONFIX」(実在する番組枠)で主にテレビを主として活躍する6人のノンフィクション系有名ディレクターによるシリーズ企画をする、という話から始まる。フジテレビのスタッフ以外はみんな実在の人物で、劇映画でも有名な是枝裕和(テレビマンユニオン)、長嶋甲兵(テレコムスタッフ)、中村裕(スローハンド)、長谷川三郎(ドキュメンタリージャパン)、そして森克也。もちろん、彼らの言動や性格分析なども全て著者の空想で展開していく。
番組テーマは、森の企画により日本国憲法となった。誰が何条を取り扱うか決める中で、森克也は第1条、すなわち天皇をテーマとすることになった。森克也が目指すのは、あくまで天皇への直接取材、すなわち天皇の日常を撮影し、話を聞くこと。誰もがそれは不可能だと言う。本人もそう思ってはいるが、ドキュメンタリーの常道としてアプローチしていくプロセスでもカメラを回し、ダメだった場合でもちゃんと帰結するような企画にまとめた。
厚い壁が立ちはだかる中、森は仕事を通じて知っている国会議員の山本太郎に会って企画について話す。言うまでもなく、こちらも実在の人物。山本太郎は園遊会で天皇に直接手紙を渡すという〝暴挙〟に出て右からも左からもバッシングされていたが、実は天皇皇后夫妻は彼のことを悪く思っておらず、手紙のことを気にかけていた。山本が会いたいと申し込むと、全く予想外に会ってもいいとの返事が来た。森は彼の私設秘書として同行することに。山本の話が終わった後、森も天皇皇后夫妻の前に初めて出る。すると皇后が「会ったことない?」と森をじっと見つめた上で尋ねてくる。
この小説にはカタシロと呼ばれる謎の生き物が出てくる。人の腰ぐらいの背丈で、腕はないが常に立っていて、ほぼ輪郭しかない。輪郭の内部はバックが透けて見えたりもするが、人の顔が浮かんでも来る。見える人と見えない人がいて(半々ぐらい)、触っても大丈夫だと公式見解が出ているが、人々は穢れると触ろうとしないし、また近づくと消えてしまう。森には見えていて、いつも1DKマンションの狭いベランダに立っている。一方、天皇夫妻も窓の外に立っているのが見えている。そして、美智子がそこにいつも見ていた顔が森の顔であり、森が見ていたのが美智子の顔だった。
森と天皇夫妻とはここで通じ合い、個人的に会う約束となった。メールアドレスも交換し、最後はラインでもつながる。森は学生時代に短期間付き合っていた桜子と寄りを戻す。桜子は映画の配給会社に入って結婚したが、先頃離婚して森のところにくるようになった。セックスはできない2人だったが、天皇夫妻の元へは森と桜子と行くことになった。桜子も森同様、大学時代は映研でカメラを回していたので、小さなデジカメを回す役割を担った。
天皇夫妻の住まいに隣接する剣璽の間(三種の神器のうち勾玉と剣がある部屋)から聞こえるガサゴソという音。それを探るべく、4人は謎の地下室へと入っていく。皇居、千代田区一番一号のラビリンスが始まる。
そんな中、フジテレビの上司から呼び出しがあった。今の手法でのドキュメンタリーでは放送は難しいという。天皇への取材など現実的でないだの、宮内庁の記者クラブを通していないルール違反をしただの、いろいろな口実を駆使するが、本音のところでは、担当者がうっかり第1条でOKしてしまったが、天皇をテーマに放送をする気がないというのが見え見えだった。
さて、2度目のラビリンスが行われる。果たして結末は・・・というところだが、その締めくくりが小説としてあまりにお粗末だった。
小説のテーマはよく分かる。カタシロをつうじて天皇が禊(みそ)ぎをするという話だろう。なにからの禊ぎかといえば、昭和天皇の戦争責任についてはっきりと言わなかったことに関する決着である。森克也は左翼っぽい考えを持っている人物として描かれているが、明仁天皇が結構好きで、尊敬もしているというシチュエーションになっている。それはとりもなおさず著者森達也のスタンスでもあるが、果たして、本当に明仁天皇はそんなにリベラルだったのか。そこが問題。その点においても、これは問題小説かもしれない。
*この本で重大な誤字を見つけた。1ヵ所、「明仁」が「明人」になっている。あろうことか天皇の名前を間違え、校正もれをしてしまうとは。やはり問題作かも(^o^)
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皇室案件だし話題作だし…と、睡魔と戦いながら読了したが、なんだか設定に無理がありすぎで?しか感想出てこず。
娯楽作品というにはテーマが危険すぎる。
でも娯楽作品としかおもえない。
なんか軽すぎ。
そして文章構成ヘタすぎ。
推敲しろ。
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ラビリンスはファンタジーでした。
天皇、皇后両陛下を扱った本作は、出版自体が難航した問題作なのだとか。
この内容でどうしてそうなるのかなと、それ自体が信じられないですが、日本の現実に、暗澹たる気持ちにもなりました。
「カタシロ」という架空の鳥がモチーフになっています。
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今の言論界では言うまでもなく、不敬といえる作品。でも、そうした不敬というステッカーを貼りがちな日本社会に対する疑問符としてなら、全然ありだと思った。でも「私はピュリファイされました」は笑う。
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実在の人物がたくさん出てくるのでまるでノンフィクションのようなんだけど、未確認生物的なものが現れるのでこれは完全にフィクション。
物語だとは分かってても、上皇ご夫妻をはじめとする実在の人物を念頭に置いて読むからこそのおもしろさだと思う。
小説に描かれていることについて実際はどうなんだろう、という興味はあるけど、ほんとのところは永遠に誰にも分からないのかな。