紙の本
鑑識のように精密に
2022/06/29 02:31
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投稿者:はいどん - この投稿者のレビュー一覧を見る
音楽マニア達が、持ち寄った3枚のレコードを聞く”だけ”の鑑識レコード倶楽部
入れ替わるメンバーそれぞれの思いが交錯し、倶楽部の様相も変化していく…
章立てがなく、最初から最後まで一気呵成に読ませる本書
倶楽部のレコードプレイヤーから流れる曲達のグルーヴ感に身をまかせるように、マニア独特の尖った(そして身勝手な)感性につきあってみるのも一興かと
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パブの奥の部屋で、持ち寄ったレコードを一切のコメントも感想もなしでただ聴く倶楽部。この設定だけで既にクスクス笑ってしまう。
何かの比喩なのかなと思うと、そうでもなくて。でもどこか不条理の匂いもあって。
あとがきでトービー・リット氏による書評に触れられていて、そこに「人が何らかの『私たち』を築くとたん、それに応えて『彼ら』が形成されることをミルズは示唆している。」とあり、そんな大仰な意図あるかな?とも思いながら、でも読みながら感じた可笑しさと不条理感は、確かにそれに由来するのかもと思う。
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「レコードを聴くこと」が主要なテーマ (というよりそれしかない)作品なので、作中に出てくる曲を聴きながら読むと作品世界に入り込んだような錯覚にも浸れて面白さが何倍にも膨らみます。
自分は普段漫画や小説が映画化されたりすることに特別興味を持っているわけではないのですが、この作品に関しては生身の人間が演じる芝居として観たらものすごく面白いんじゃないかと思います。
しかも、映画じゃなくて舞台演劇で観たい。
絶対ありえない妄想として書くなら、鑑識レコード倶楽部を主宰するジェームズは山下達郎さんに演じてほしい。そんなの面白くないわけがない。
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”鑑識レコード倶楽部”(The Forensic Records Club)というタイトルからして謎めいているが、小説自体はもっと謎めいている。
一切の背景・動機などが語られぬままに描かれるのは、1人3枚のレコード(必ずEP!)を持ち寄って順番にかけていき、一切の発言を禁じられたままにストイックに聞き続ける・・・という半ば神秘主義的・秘密倶楽部的な活動である。この謎の結社を巡って、徐々に状況が複雑化していく状況を描いたのが本作である。
にしても、途中で描かれる様々な状況の変化にしてもやはりそうした変化が起こる背景・動機は一切語られない。即物的に、ただ変化が起こってそれに対する反応だけがシンプルに書かれていく。唯一、詳細に描かれるのは、恐らく100曲は登場しているであろう、レコードの楽曲のタイトルだけ。しかし、それもアーティスト名は一切伏せられるため、その原題から「あ、これはあのアーティストか」、「聞いたことある気がするけど、誰だっけ・・・?」と読者は謎を楽しむことができる。
作者、マグナス・ミルズは初めて知る作家であったが、デビュー作がかのトマス・ピンチョンに激賞されたというイギリスの作家らしい。翻訳は柴田元幸先生ということもあり、この面白さは保証されている。
ここ数年に読んだ小説の中でも、トップクラスに奇妙でいて魅力に溢れた作品。
なお、著者自ら作成した楽曲のプレイリストがSpotifyで公開されている。自分は読了後にプレイリストを聞きながら再読して楽しんだ。