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紙の本
未読のままにあった一時代前の傑作を読むというのはいつもと違う高揚感があるものだ。安心して読めるからでしょう、物語に没頭しながらもあれやこれやと雑念がわいてくるのが楽しいからです
2011/07/05 23:30
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和59年から60年にかけて「週刊新潮」に連載された隆慶一郎の処女作である本著を当時どうして読まなかったのだろうとまず考える。どうやらあのころは本を読む時間がなかったんだと思い当たる。
そして剣豪小説もいろいろ読んだなと感慨にふける。ずっと昔同じ「週刊新潮」で連載された五味康祐『柳生武芸帳』と柴田錬三郎『眠狂四郎無頼控』が剣豪小説と付き合いの始だった。『柳生武芸帳』は筋書きがなにがなんだかわからなかったが、「裏柳生」「柳生武芸帳に記された国家の一大秘事」「後水尾天皇の皇子暗殺」などの素材は『吉原御免状』でも形を変えて上手に料理されている。
柳生烈堂はマンガ『子連れ狼』で充分に慣れ親しんだ。『子連れ狼』の烈堂のほうが凄みはあった。
剣豪小説の見所は「剣技」「剣戟」を描く作者のユニークさの競い合いであり、『吉原御免状』でもこのよさは充分に踏襲されている。
山田風太郎のセクシャル忍法は楽しかった。この作品でも妖術によるセックスシーンはかなり官能的に描かれる。
半村良の『産霊山秘録』『妖星伝』の伝奇時代小説の流れもここにある。本著は剣豪小説というより伝奇小説風の味付けがこってりしている。
この作品後にでた、宮本昌孝『ふたり道三』や荒山徹『十兵衛両断』も同系統の作風だ。
吉原の慣習は松井今朝子の『吉原手引草』『吉原十二月』で私も詳しくなっていたが、先人として隆慶一郎の研究もかなりのものだとわかった。
いずれにせよ、この作品は大衆娯楽小説の多様なエッセンスをてんこ盛りにして、独自の隆慶一郎流を世に問うた傑作である。
「宮本武蔵に育てられた青年剣士・松永誠一郎は、師の遺言に従い江戸・吉原に赴く。だが、その地に着くや否や、八方から夥しい殺気が彼を取り囲んだ。吉原には裏柳生の忍びの群れが跳梁していたのだった。彼等の狙う「神君御免状」とは何か。武蔵はなぜ彼を、この色里へ送ったのか。吉原成立の秘話、徳川家康影武者説をも織り込んで縦横無尽に展開する、大型剣豪作家初の長編小説」
山窩、傀儡子、巫女、遊女、八百比丘尼、芸能民、道々の者など漂白民という歴史的存在を詳らかに紹介し、その集大成として吉原設立が成立したという発想はまさにユニークであり、影武者徳川家康と同様に驚かされた。
鎌倉時代以降、世俗の権力や権利義務からも絶縁する「無縁」という考えが定着しており、そこに不入の権利が認められ「公界」という地が誕生する。一般的には縁切寺などの無縁所であるが、著者は「後記」でこの外延で堺、桑名などの自由都市も同様の地としているようだ。
そして
「徳川幕府の制度から見れば誠に驚くべきことだが、吉原の内部は完全な自治が認められていた。」
として吉原もまた
「俗世間の階級制度から解放される………『公界』である」
そして公界は苦界に通じるのである。
つまり吉原自由都市説である。
私はこれが一般に通用する考え方か否かなどとつまらぬ詮索はしない。ただ小説家として素晴らしい大胆な発想だと感心する。こういう飛躍があるからこそ、虚実をうまく織り交ぜたこんな面白い物語が作られたのだと思う。日本各地のいろいろな伝承、古い文献の引用が作品の中で語られるが、これらが縦横無尽の物語展開にみごとに調和している。
主人公・松永誠一郎(この命名の平凡なところがかえっていいのだが)の性格の素朴・純情・明朗が魅力的だ。
松永誠一郎も高貴な筋の御落胤なのだが、そういえば川口松太郎が生んだ主人公の美青年剣士・葵新吾は将軍吉宗の隠し子だったなどと思い浮かべて、こういう設定の人物像もこのところ見かけないだけに、この作品が一時代前の作品だ思い起こし、むしろ愛着を感じる。
古さは文体にもあって、著者の感情移入がいたるところに見受けられる文体なのだ。昔はあったが、最近ではあまりはやらないだけに、やはり懐かしい。
年寄りは安心して楽しめるというものだ。
紙の本
自由の風、自由の歌
2004/05/03 23:14
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風(kaze) - この投稿者のレビュー一覧を見る
読んでいてワクワクしてくる時代小説を残してくれた隆慶一郎。『一夢庵風流記』なんか本当に面白くて夢中にさせられたんだけど、隆氏のこのデビュー長編もとても読みごたえがありました。
話は、肥後の山中で宮本武蔵に育てられた松永誠一郎が、江戸は浅草、吉原にやって来たところから始まります。そして、裏柳生との戦い、傀儡子(くぐつ)一族との交流、「神君御免状」にまつわる謎へと、話はひた進んで行きます。
松永誠一郎の清々しくて爽やかなキャラが魅力的。おしゃぶという不思議な能力を持った女の子も印象に残ります。そして、本書を読んで何よりいいな、素敵だなと感じたのは、作品の底に流れている「自由の歌」の精神でした。自由を希求し、自由を守るため、命を賭して戦う道々の輩(ともがら)。中央の権力者として様々な束縛を及ぼしてくる幕府にあえて逆らってでも、己れの内なる声に導かれてたくましく生きていく彼ら、道々の輩たちの姿に胸を揺さぶられました。
本書の中でひとつ、忘れがたい感動を覚えた場面。それは、夜、吉原の街に光があふれ、さんざめく光景を誠一郎が見ているシーン。その時突然、百挺を越えようかという三味線が音曲を奏でるのです。吉原の夜の開幕を告げる「みせすががき」の音楽が波のようにうねり、盛り上がる……。まるで波濤のような三味線の合奏が耳の底に響いてくるようで、じーんとしびれました。
続編の『かくれさと苦界行』もおすすめ。
隆慶一郎の時代小説、大好きです。
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和風エンターテイメント!
2001/08/31 19:57
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:廻船問屋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
隆慶一朗の作品を読むと、時代小説の舞台立てが和製ファンタジーやエンターテイメントとして大きなポテンシャルをもっていることがわかる。飛躍した荒唐無稽さが鼻に付く人もいるだろうが、独自の世界観は一読の価値有りと思う。また、吉原の遊廓という舞台が、閉じた別世界としてうまく機能していると思う。