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音大の危機を煽るようなタイトルだが、中身は音楽教育の危機に真摯に向き合いながら、さまざまな解決法を提示している。
著者の文は、主に大学側や各省庁の問題点を厳しく指摘しているが、それだけ著者が問題に真剣に向き合っていることが伝わってくるため、不快感はない。
また、経営や国にだけ問題を預けず、音楽指導者や学習者がそれぞれどのように行動するべきかも示唆している。
音楽関係者だけでなく、教育関係者や組織に閉塞感を感じているビジネスマンなどに参考になる箇所も多々あり、響く内容ではないだろうか。
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音大の現状を理解するには役立った。
ただ、pp.175-176はナッシュ均衡ではなく、支配戦略均衡(ナッシュ均衡の一部)であり、筆者は「囚人のジレンマ」を引用したかったのだと思った。(支配戦略とは、相手の戦略がどう選択されても、自分にとってこの戦略を選べば最善の結果が得られるという戦略。)
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みずほ銀行の行員を経て、名古屋芸術大学芸術学部の教授を務める著者が、日本の音楽大学が直面している悲惨な現状とそこからの復活の方向性を述べた一冊。
一部の有名校を除けば音楽大学の志望者が減り、存続の危機に立たされている大学は多いのだろう、とうイメージを持っていたが、その通りでありつつ、その実態に危機感を持たずに大学運営の改革すらままならない学校もある、という点には率直に言ってどうでも良いと思うし、であればそういう音大は淘汰されるだけの話である。
音大を出てもプロの演奏家になれるのはごく一部にすぎないという事実は、大昔から当然のことだった。こうした悲惨な事態になったのは、プロになれない多くの学生に対して、卒業以降の現実的なキャリアプランの教育やそれに見合ったカリキュラム・学科編成などの改善を行わなかった大学側の経営サイドの怠慢に他ならない。
余談であるが、本書では「音大生のスキルは日本を救う!」というテーマで1章が割かれ、学びに向かう力や人間性、思考力・判断力、知識及び技能を兼ね揃えた音大生が、プロ演奏家以外の道で活躍できるはずだ、という説明がなされる。が、このような結論ありきの議論はかえって読み手をしらけさせるし、端的に言って著者の知能指数が低いのではないか、という疑念すら抱かせるので、語らない方が良いと思う(というか、こういう奇妙な文章を止めない編集者も編集者である)。
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■第1章 音大は何を間違えたのか?
・すばらしい学びの環境
・定員減、定員割れの負の連鎖
・音大が大幅に学生数を減らした原因
・女子音大生半減!?の衝撃
・音大生減少の背景
・社会や意識の変化が大学に及ぼした影響
・音大は何を間違ったのか?
・「ヤバい音大」を見分ける3つのポイント
・「音大崩壊」は、日本を衰退させる!
■第2章 日本の音楽教育が無視した7つの視点
・『音楽万歳』に見る警鐘
・(1)演奏家の志、音楽を学ぶ目的
・(2)聴衆育成
・(3)音大教員のあり方
・(4)義務教育としての音楽
・(5)世界の中の日本の音楽
・(6)新しい楽器対応
・(7)生涯の学びとしての音楽
■第3章 音大生のスキルは日本を救う!
・音大生のスキル・能力とは?
・(1)学びに向かう力と人間性
・(2)知識及び技能
・(3)思考力、判断力、表現力
・スキル・能力の源泉
・音大7不思議
■第4章 音楽教育の本当の威力
・学習指導要領の変遷
・学力と読解力の低下
・読解力低下の行き着く先
・音楽教育の位置づけ
・世界各国で芸術教育に力が入らない理由
・芸術教育が持つ威力(1)――イノベーションの源泉
・芸術教育が持つ威力(2)――高い普遍性
・芸術教育が持つ威力(3)――「世界の共通語」としての音楽
・日本の学校教育の問題点
■第5章 音楽を学ぶ真の目的
・「生きる力」だけでは生きていけない現実
・文科省の学習指導要領に代わる3本柱とは?
・修正版「生きる力」
・「稼ぐ力」とは、新しい時代に合った「成果のあげ方」のこと
・「強み」を「稼ぐ力」につなげる
■第6章 スポーツにできて、音楽にできないこと
・音楽とスポーツの格差
・組織化できなかった音楽業界
・「ゲーム理論」でわかる音楽業界の問題点
・イメージ戦略の失敗
・スポーツをヒントに、楽器をもっと身近な存在に
・楽器を広げる主役は大人
・新たなブームがスポンサーを呼ぶ
・子どもの音楽教室の未来は暗いか?
・音楽庁創設に向けて
■第7章 激変する世界情勢とこれからの日本
・アジア新時代への突入
・国力低下の脅威と真のグローバリズム
・国力を維持するために
・スポーツ、美術、音楽の指名
・これまでの日本と、これからの日本
■第8章 無形資産から「生きる力」を生み出す教育とは?
・人を育てるには大学以前の教育から変える
・現在の学校教育の問題点
・学校教育がもたらした功罪
・教育内容を見直し、ベンチャー型人材を育てる
・全員一律教育を見直し、文化国家を目指す
・教育改革を阻むもの
・「専門学校化」のなかで大学が生き残る道
■第9章 「音大崩壊時代」の5つの戦略
・音大復活の必要性
・音大復活に向けた戦略
・(1)音楽教育機関の連携
・(2)目的別のコース設定とグループレッスン・オンライン授業の活用
・(3)多様な音楽が学べ、需要のあるテクニックが身に付くカリキュラム
・(4)他大学や専門大学との連携
・(5)生涯社会人学習の場の
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私の妻は音大卒で音楽関係の仕事をしています。そんな妻にこれ読んでみてと言われて、読んでみました。(妻は自分で読むほどではないけど興味のある本は、私に読ませて内容を知ろうとします)読む前に著者がどんな方か見てみると、なんと元銀行員。私は4年しか務めておりませんでしたが、何かと私たち夫婦と関わる分野に従事している方のようで、私たち夫婦と著者の3人で食事に行ったら盛り上がるね、なんて話していました。
著者が言うように、これからの日本の興亡は、芸術分野にかかっているといっても過言ではないと感じました。先進国が先進国たる理由に、経済的に豊かであることや治安が良いことは重要ですが、最も重要なのは音楽や芸術・スポーツ等の文化の豊かさです。音大には日本の芸術面の豊かさを維持、向上する為に非常に重要な役割があります。これから日本は人口が減少し、経済的な豊かさでは先進国と呼べなくなる日がくるかもしれません。このような状況下、音大の果たす役割の重要性は増しているようです。
音大を卒業される方の持つスキルの強みやこれからの社会でいかに活かすことができるかということも述べられておりました。
妻に内容について伝えたところ、かなり納得感があると言っていました。私の仕事は日本の芸術振興に直接関わることはありませんが、これからも音大を卒業し、音楽関係の仕事に携わる妻と仲良く暮らすことで、日本の芸術振興に一助できればと思います。
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音大に限らず文化も55年体制でやってきたものは変えないとへしゃげる、でも文化をへしゃげさせるのはまずいよね。まずは高齢者からお賽銭をとって才能のあるかないかわからない入り口の育成費用とする。才能がなくて専門教育を受けて専門家にならなくても食える教育にする。
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この本の主張を真に受けて音学教育を救おう!と思う人はそんなにいないだろうけど……いたら全力で止めたい。著者は元銀行員という見地から音大を救うためにいろいろ考えたのかもしれないが、一番大事なはずの音楽を愛するハートがどうにも伝わってこず、最後まで共感できなかった。畢竟、書けば書くほど詭弁を弄しているように読めてくるのである。
そもそも、日本の大学運営は先細りである。国力は落ちているし少子化は進んでいるのに、大学の定員はなかなか減らない。勢い、大学進学率が斬増しても、人気のない学部学科から定員割れして採算が取れなくなっていくのは未来の話ではなくて現在進行形である。資格が取れますとか就職ができますとかでは間に合わないので、留学生をたくさん受け入れよう等どこの大学も必死なのだ。音大に限った話ではないのである。
しかも、音大に進む源となる子ども向けの音楽教育が昔に比べて人気がない。子どもの習い事で人気が高いのは将来役に立つ英語だとか体力のつくスイミングとかであって、ツブシもきかなければ練習も大変なピアノ教室はずいぶん前から人気を落としている。そこが減っているのに音大進学者だけ増える道理がないのである。
各論で見れば、中等教育でお金の話をちゃんと教えろとか、音大のカリキュラムに指導法の授業を入れろとか、全面的に賛成できることもたくさんある。あるのだが、根本的なところで共感できていないためどうも響いてこない。
西洋古典音楽のための単科の音楽大学はどう考えても今の日本には多すぎる。ごく一部しか今の形では残らないのが正常な淘汰であろう。他の大学は、総合大学の一学部(あるいは学科)として文学や哲学と横並びで存在するようになるものと、職業訓練を中心とした音楽専門学校のようなものの二つになるのが自然だと考える。音大の崩壊を避けたいのであれば、再編・再生産すれば良いのである。
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元銀行員で、今は名古屋芸大の教授をやり音大生のキャリア教育を(他の教育もやっているのかわからないけど)やっている先生の話。いかに現在の音大は生徒数激減で危機的状況にあるのか、なぜ音大がそのような状況になっていて変わろうとしないのか、という話。データを示し根拠を述べた上で論を展開する、という、ビジネス書にありそうな本。最後の方は、著者による理想像、提言なので、現状を考えると虚しいと思ってしまう話だが、そこまでは分かりやすく、興味深い。
確かに音大というのは少なくともおれにとっては身近な存在ではないし、音大に入るのは特殊技能を幼い頃から身につけて英才教育を受けた人なんだという意識もあるせいで、勝手なイメージを持っていたが、卒業生の現実とはこんなもの、ということがよく分かった。「卒業後は『演奏活動』という名の1日1万円にも満たない単発のアルバイトと、飲食業などでのアルバイトを組み合わせて過ごす卒業生が多くなります。これでは30代になると年齢的にアルバイトの募集が少なくなり、生活に行き詰まって困窮するケースが増えるのはある意味当たり前」(p.35)という現実があるらしい。確かに音大に入ろうと考えた時点でこんなこと本人が想像するのは難しいよなあ。そして、昔から音楽教育は「演奏家になることが目的化してしまい、人間性を置き去りにした教育が横行していた」(p.53)というのも、やっぱり教える人がそういう教育を受けたからそのまま引き継がれているのだろうか。最近、中高の音楽教育の勉強をしていて、その時に音楽科指導法の先生が「公教育は生徒みんながおおむねB評価になる教育をするべき。専門にしたければどっかのスクールでやればいい」というのを仕切りに言っていて、そしてそういう教育とはどのような教育なのかという勉強をしたが、音大の世界では、あるいはそういう世界にいた人の中には、これとは正反対の「機械かロボットのように音楽と向き合わせ」(同)るような教育をする人もいるんだなと思った。そしてその義務教育に関する指摘も行われており、「音楽的才能に恵まれない生徒や学生が、少しでも音楽を楽しめるようにしてやる」(p.61)べきなのに、実際には授業時間数が低減の一途をたどり、「いくら教員が頑張って音楽の楽しさあを伝えたくても伝えられません」(p.62)という状態になっているという。これには中高の音楽教育を専門にする人が「『心の豊かさ』のような感情面からの議論ばかり」(p.63)ということが問題、という手厳しい批判を加えている。「『脳科学』の知見や、AIが発達する時代の中で必要とされるスキルや能力、価値観からアプローチ」(p.63)すべき、というのが著者の意見だ。でももっと単純に音楽教育を盛り上げるイベントとか発信とかがあればいいんじゃないかな、とも思うけど。そして新しい学習指導要領の枠組みを紹介し、「学びに向かう力、人間性」と「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力」という3つの力が、いかに音楽教育を通して身につくか、ということが説かれているが、これは当たり前のことなのだろうけれど、本当その通りだと思った。音楽の練習について、「明日は変えられないが、1年後は大きく変えられる」(p.79)というのは、英語教育でも使えそうなフレーズ。そして、音楽と比較してスポーツ、について取り上げられているが、確かに音楽はそんなに盛り上がらないのに、スポーツは世間的にもすごく盛り上がるのはなぜか、というのも興味深かった。やっぱりスポーツをやると見た目が変わるからじゃないかな?と、これを書きながら思ったのだけれど。でも「運動中の突然死については、運動していない場合の17倍」「過度なジョギングは免疫力を低下させる」「過度な筋トレは血管への負担が大きい」(p.158)といったネガティブ面は、あまりに知らなさすぎると思う。「会社員の習性として目標を持ちたがる傾向」(pp.158-9)があるので、追い込んだりしちゃうから、むしろ危険、というのは、なんかおれの周りにいてランニングに目覚めている人が多いので、なんか納得した。でもその人たちはやっぱり素地があるから、追い込んでも大丈夫なんだろうか。おれみたいなど素人がこういうことをするとやっぱり危険なんだろう。それにしても、音楽は小さい頃からやってないと無理、というのはおれも思っているけど、「佐賀県で海苔の養殖を営む漁師の徳永義昭さん」(p.160)の話には勇気づけられた。「ラ・カンパネラ」を1年で弾けるようになる、という。1日8時間毎日続けたらしいけど。でも50歳を過ぎてからでもこれくらい時間をかければできるようになるという。あとはいかに音楽が衰退していくことが、日本の国力を下げるか、という話も、危機感に迫るものがある。この本は2022年の6月に書かれた本だけど、「勢いがなくなれば外国為替取引で円が売られる要因になりますし、輸出入で取引価格を決める際にも足元を見られ、不利な条件を飲まざるを得なくなります。」(pp.181-2)、「『円の実力』ともいえる実質実効為替レート(2010年=100)は、22年1月、67.55と1972年以来50年ぶりの低水準」(p.182)、「いずれ日本の国際的地位低下に伴う円安と交易条件悪化のダブルパンチによって物価は上がり、必要な物資も入って来なくなることは避けられません。」(p.225)と説く著者は、今のこの急激な円安の状況を著者はどう見ているのだろう。ちなみに、2022年9月では、この実質実効為替レート57.95だそうだ。
中高の教員として、音楽教育を盛り上げたいなあと思った。とりあえず自分の学年からでも何かできないだろうか、と考える。(22/11)
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予想以上に面白かった。音大とタイトルに付いているけれど、音大卒や音大生・目指している人だけでなく、音楽が趣味の人も読んでとても楽しめる内容で良かった。
確かにそうだよなぁーということばかりで、気付きを与えられる本。
音大が無くなってしまうと、日本がどうなっていくのか考えたこともなかったけれど、大変なことになると分かった。また、現状の教育や音大の体制、ひいては音楽業界全体の体制に対する問題提起も納得感があった。
「生きる力」として、学習指導要領が定める何とも漠然とした3つでなく、「健康・体力」「変化への対応力」「稼ぐ力」としたのは大変分かりやすく、こちらこそ真実だと思った。
学力偏重主義でなく、個々の強みをさらに強化する教育に切り替えるべきとの持論には本当に大賛成。社会に出てから、自分の強みや得意分野こそが自立して生きていくのに不可欠なものだと実感している。
「ゆとり世代」と言われる私も、著者が提案したような教育(学校での授業を8割にして、残りは民間の塾や音楽教室などと連携して自分が好きな事を伸ばす、というもの)を受けたかった。
新たな取り組みを始める時は、「連携」と「変化への対応」が鍵だそう。
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少子化、卒業後の進路・就職、親の所得は一昔前に比べて減少の一方など、音楽大学が晒されている現状は厳しいこと、この上ない。一般の高校、大学でさえ、潰れる時代。従来までのやり方で維持・存続できるはずがない全国各地に点在する私立音大。実際、学生定員を減らすも、それも充足できていないのが現状でしょう。もともと音大とは無縁のヨソ者である筆者であるからこそ、見えてきた音大の摩訶不思議。筆者の指摘、その通りだと思いました。そして、そのことは、私立音楽大学に限らず、一般の地方国公立大学、私立大学にもそのまま通じること。