投稿元:
レビューを見る
題名が示すとおり、<大坂の陣>を巡る物語である。
<大坂の陣>とは、「反江戸幕府」の旗頭になる可能性が在る豊臣秀頼を排しようということになり、大坂を舞台に展開した戦いで、「冬の陣」と「夏の陣」とが在る。「冬の陣」の停戦後、少し経ってから「夏の陣」の戦端が開かれ、豊臣家の本拠地であった大坂城は焼け落ちてしまう訳だ。
本作は「豊臣秀頼を排しよう」と徳川家康が思うようになったという辺りから、何年間かの江戸幕府での動きも入って、やがて「鐘銘の問題」で<大坂の陣>に突入し、展開する戦いや様々な出来事の末に大坂城が焼け落ちてしまうまで、加えて徳川家康の人生の終焉までが淡々と描かれている。なかなかにボリュームが在るが、少し厚い一冊の本に纏まっている。
この<大坂の陣>を巡っては、多彩な人々の様々な動きが在る。本作は、一貫した特定の主要視点人物を設定して、掘り下げているというような感は薄い。
強いて言えば、徳川家康、徳川秀忠、豊臣秀頼、片桐且元、大野治長という辺りが、何度も出る感じだ。加えて真田信繁も少し出番が多目だ。本作は「群像ドラマ」という様相で、そして<大坂の陣>という「出来事そのもの」に加えて、関わった様々な人達に関する「ドキュメンタリー」のような雰囲気も色濃かったと思う。
「ドキュメンタリー」のような雰囲気と思ったが、読んでいて何か「東映の“実録”」で多用されたような演出の画を思い出した。あの種の映画では、抗争事件等で作中人物が落命するような場面になると、何やら「画が停まって字幕やナレーションで落命の旨が伝えられる」というような映像が出たものだ。そういうような方式で「〇〇〇〇 討死」と「停まった画に字幕」という場面が入る、大作映画のような感じが思い浮かんだ訳だ。
<大坂の陣>に関する物語では、「圧倒的!」な大軍を差し向けた幕府側に対し、必死の抵抗で勇戦する者やその限りでもない者が混淆する大坂方の様子が興味深いと思う。本作はその辺が幅広く描かれている感だ。
本作は伝えられる史上の出来事のあらましと、そこで蠢いた実に多くの人達の様子が要領好く纏まっていると思う。色々な方が各々に愉しめる作品であると思った。