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セルオートマトンって役に立つんだなぁと実感。
本筋とはあまり関係ないのだが、最終章の「複雑系科学においては、複雑な対象を複雑なまま理解する、というフレーズをよく耳にするが、これを文字通りできる人は果たしているのだろうか。」に始まるくだりには、全くそのとおりだと思った。自分自身始めてこの言葉を耳にした時の違和感と、またその時考えたことと同じことを考える人は結構いるのだろうな。
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さまざまな流れの停滞を数理モデルによってシミューレーションしている。内容は、高速道路の車の渋滞、地下街や航空機から避難する時の人の渋滞、アリのフェロモン走行による渋滞、ネットのパケット渋滞、山火事(渋滞が起これば拡散しない)、人体内の分子モーター(神経繊維内部でタンパク質を運搬する)などである。基本的には、人や車は自己駆動粒子であり、ニュートン力学に従わないし、流体の運動法則であるベルヌーイの定理(流体の速度は通過する部分の断面積に反比例する)もなりたたない。数学的モデルとしては、ASEP(前方が空きならば進め、同じ場所には一つしか入れない)で解析するのだが、高速道路の渋滞などはスロースタートルールを加えると、渋滞特有の「人」字カーブがあらわれるそうである。しかし、アリでは追い抜きが怒らず、バッファに収まらないパケットは破棄されるなど、流体によってそれぞれに特長がある。また、建築法も引いており、一つの非常口から逃げられる人数は幅1mあたり1.5人/秒、60mをこえる地下道では、どの場所からでも30m以内(普通に歩いて23秒)に直接地上へ抜ける道があり、粒体でも人でも出口が粒体の直径の6倍あれば、「目詰まり」がおこらない。こういった知識は渋滞がおきた時にどれくらいで逃げられるかを計算できるので重要な知識だろう。粉粒体の運動は「ブラジルナッツ運動」(大きな粒が浮く)などまだ数学的に解けないものが多く、砂時計の内部の動きもまだ嚴密に示す式がないそうだ。今後の渋滞学はネットワーク理論やゲーム理論(協力や譲りあい等)と連携して進める必要があると指摘している。お金が貯まるなどといった現象も渋滞として考えられるそうだが、これはまだ分からないらしい。
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ASEP セル・オートマトン法
ブラジルナッツ現象
時間調整のため停車します
高層ビルのエレベーター
コンピューターが間違える計算
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世の中で話題になっていた時期に当時の上司に借りて読んだ一冊。
渋滞を起こさない一番簡単な理由であったり、混雑をどう解消するか、を学問にするだけでこんなに面白くなるのか、という点で目からうろこでした。
東大の先生が本気になればこんな実験もできるのね、ということで、社会のためにこの学問をもっと効果的に使って欲しいものです。
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半分わかったかどうか。全体を通して思ったこと。何故か会社の会議の動員予測について、「うちの会社の会議は微分化し過ぎかとおもう。得られた結果を要素還元的なアプローチで料理できてないなあ、科学的でないな〜」と、しみじみおもってしまいました。
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素晴らしいの一言。
渋滞の解明には、いろいろなアプローチがありますが、まずは適切なモデルの構築がカギ。
そのモデルを用いた説明をしているわけですが、シンプルかつ丁寧で、非常にわかりやすい。
また、そのモデルの応用も素晴らしい。
そして何より、西成先生の、基礎科学と応用科学に対する姿勢、自然科学観には、強く共感します。
是非、たくさんの人に読んでほしい本です。
そして、不快な渋滞を、みんなでなくしていきましょう。
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一番心に残ったのは、自然渋滞の発生する原因。体感しない程度の緩い勾配・サグによってもたらされるのね。確かに考えてみればなるほど納得。気づいたら10-20kmスピード落ちてること、確かにありますもんね。
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車だけでなく人の混雑,アリの群れから森林火災やたんぱく質の合成まで,ありとあらゆる渋滞現象の発生原理が分かりやすく解説された名著。あなたが渋滞に直面した際取るべき行動のヒントがここにある。終盤,デジタルコンピュータの限界をカオス理論におけるパイこね変換に基づき紹介し,数学の重要性を説くあたりは秀逸。
*推薦者 (工教)S.H.
*所蔵情報
http://libra.lib.utsunomiya-u.ac.jp/webopac/catdbl.do?pkey=BB00324926&initFlg=_RESULT_SET_NOTBIB
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「渋滞学」なる学問があるとは知らなかったので、手に取った本。
第一章「渋滞とは何か」は渋滞自体の説明というよりは、渋滞を説明する理論及び用語の説明が多く見られる。
「ホースで水を撒くときに先を細めると勢い良く水が出るが、人間の場合は当てはまらない」という誰にでも想像できる例をうまく用いて、物理学に疎い人でも容易に読めるように見事に書かれている。この他にも、慣性の法則、作用=反作用の法則を用いて人と水の違いを説明したり、管の中を通る空気の流れも超音速になると管を細くすると遅く、細くしなくても外部から温めると遅くなるという事を、人間は興奮・パニックに陥ると「人の温度」が上がり流れの速度が遅くなるという説明につなげたりとユニークである。
現実を表す「良いモデル」として、更に渋滞の説明にも役立つASEP(Asymmetric Simple Exclusion Process:非対称単純排除過程)という、セルオートマトン法の一種の解説がなされている。
第二章は、年間約12兆円という経済損失を発生させている交通渋滞が起きる原因を考察している。
高速道路で渋滞が起きる原因の第一位は「サグ部・上り坂」であり、すぐには気がつかない程ゆるやかな坂道の為に自分と、その後ろにいる車がどんどん減速してしまい、ブレーキを踏む強さもどんどん大きくなってゆくという連鎖反応で渋滞が発生するのだという。
交通の流れを分析する際に「基本図」が使われ、渋滞していないときのデータは右上に伸びる直線となり、渋滞が発生する所(右下がり:渋滞への相転移が見られる)を見ると、車間距離が40m以下(急ブレーキを踏んで止まれる制動距離)になった時が渋滞になるという。そして、この状態でも自由走行の80km/hを保っているのを「メタ安定」といい、通常10分程度しか持たず、渋滞に変化してしまう。
このメタ安定が現れやすい道路がサグ部であり、これ以外にもカーブ(見えづらい場所にあるとき:夕方の西日の影響)、トンネル(暗さ・閉塞感・水が溜まらないよう為のサグ:夜よりも昼のトンネルのほうが渋滞が多い)、合流部(ただし「弱いメタ安定状態」という60km/hで走れる状態が続くことがある)が主な地点である。また、混んできた時は追越車線でなく走行車線を走った方が良い、というお得な情報が明かされている。
この本が出版される8年前は、料金所が高速道路で渋滞が起きる原因の第であったらしく、それを解決したのがETCの導入であったそうだ。その効果を認める一方で、個人負担が未だに高額であること、ETCゲート通過時に速度を20km/h以下に落とさなければならないという課題が解決される必要があると述べている。
都市交通における基本図は台形をしており、ボトルネック型と呼ばれている。青信号に変わったときに自分が動ける番になるまでには、車一台あたり1.5秒かかることや、よく赤信号に引っかかる人は速度を落とすと解消できる可能性があること、先日日本でも導入されたラウンドアバウトは、交通量が適度に少ない時に最も効果があると述べられている。
第三章は人の渋滞についてである。
明石歩道橋事故の事例を参考に、通常人間は自己駆動粒子として振舞っているが、集団が極端な密着状態になって���るとニュートン粒子として振舞うようになってしまうという。そして、群衆の状態は動因によって「会衆」「モッブ」「パニック」の三つに分けられている。
超満員の電車から一斉に出ようとすると詰まってしまう(ボトルネック)構造を「アーチアクション」といい、眼鏡橋はこれを応用している。避難の際に発生するボトルネックは「ミンクの実験」でも追試が行われれおり、競争でなく譲歩し協調することが大切であることを示している。
航空機からの避難には、90秒以内に脱出が可能でなければならないという基準があり、実験ではドアの幅が約70cmより広いと競争し、狭いときは譲歩協力したほうが早く逃げられるという結果になったという。さらに、競争しながら逃げている時には、避難口の付近にわざと障害物を置くことで避難時間が短くなるという、意外な結果がある。
パニック状態でないときの移動では、お互いに衝突を避けようとして自然に進行方向ごとのレーンが発生し、そのレーンがどちらの向きになるのかはその国の走る方向と一緒だという。また、駅構内において歩行速度が遅くなるところでは、周囲に気を配れることもあり広告をみる機会も多くなるため、近年注目されているという。
第四章はアリの渋滞の話である。
アリは車と違い、自分と仲間のフェロモンを利用して移動することもあり、お互いの距離が近いほうが早く動ける、適度に混み合ってくると通常動きが遅い先頭のアリが早く動けるようになる(列が長いので末尾のアリのフェロモンを嗅ぎつけるようになるため)という筆者の推測がなされている。
アリも渋滞問題を抱えていたこと自体初耳だったこともあり、興味深い章だった。今後の研究に期待したい。
第五章は幅広い領域における渋滞問題を考える章である。
インターネットの渋滞は、大量のパケットが「ルーター」という交差点に集中することで引き起こされるが、車が交差点で待たされるのに対し、パケットは物理的実体がないため渋滞すると捨てられるという違いがある。現在、輻輳状態に応じてウィンドウ数(ホストが一度に送り出すパケット数)を変化させる制御を効率的に行うための研究が行われているという。
粉粒体は一つ一つは固体だが、ある程度集まると液体の動きもするようになる(例:アリジゴク)。砂時計で1分を測るための理論的な計算、ブラジルナッツ現象のメカニズムの解明が、まだ出来ていないという事実があるが、その理由には遠くの場所まで瞬時に情報を伝える「非局所性」(例:金属の玉のおもちゃ)と、三つ以上の物が同時に衝突する際にはその動きを予測できない「多体衝突」(例:ビリヤード・カーリング)による「非可換性」(順序を入れ替えると結果が異なる事)によるもと述べられている。
乗り物の渋滞についても触れられている。電車や地下鉄で「時間調整のために停車」しているのは、四章のアリと同様に、ダンゴ運転状態となり渋滞が発生してしまうのを防いでいる(先頭はギュウギュウ詰めで乗り降りに時間がかかるが、末尾はガラガラですぐに発車できてしまう)、エレベーターが勝手に動くのは「群管理」が行われているため、飛行機が離陸許可を得るのに時間がかかるのは、「滑走路の奪い合い」と「航空機が使える空域が限られている」という大きく二つの理由によるものだという。
第六章はこれからの渋滞学をどう考えるかという話である。この章には日本の理科系大学の未来の展望と、数学の重要さが分かる情報が豊富に載っているので、「数学を勉強して何になるんだ!」という人こそ読むべきだと私は思う。
ネットワークをつながりの様子によって分類することをネットワークの「トポロジー」といい、本章ではバス型・リング型・スター型の3種類が説明されている。この考え方は高速道路の建設(首都高速道路とその他の関係)や航空機の路線(高い空港使用料を取るか否かで直通・乗り継ぎに分けている)にも応用されている。
ある程度ランダムな繋がりのネットワークの中に、実は多数の接続を持つ中心的な役割をもつものが少数存在するネットワークを「スケールフリーネットワーク」というが、これは現在悪意のあるネットワーク攻撃にどこまで耐えられるか研究が進められているという。
何でもコンピューターで計算するのではなく、数学的に「紙と鉛筆で」計算しておおよその値を算出してからコンピューターで計算し、さらにその結果を「紙と鉛筆で」計算するという、得られた結果を要素還元的なアプローチをする重要性を、カオス理論である「パイこね変換」の例を用いて解説している他、大学が独立行政法人化している昨今だからこそ、一見お金にならないような数学の基礎分野の研究を国がサポートするべき、理学部と工学部の乖離化が進んでいる今は、両分野を修めた人材が育つことが望まれると述べている。
興味本位で手に取った本が大当たりだったときの喜びは、どう書き表して良いのかわからなくなる。この本も、その一冊だ。
自分用キーワード
定量的 定性的 自己駆動粒子系 臨界状態 臨界密度 相転移 待ち行列理論(リトルの公式) (非)平衡状態 プラトーン走行 映画『スピード』 スルーバンド:グリーンウェーブ(信号機) 個別要素法 ル・ボン『群集心理』 建築基準法施行令(長さ60mを越える地下道では直通階段が設置されている) 二方向避難の原則 ハリネズミのジレンマ 自発的対称性の破れ ボトルネックでの振動現象
Swarm Intelligence ブラジルナッツ現象 排除体積効果 跳ね返り係数 in vivo(in vitro) ロードプライシング ルーティング問題 ワッツ「スモールワールド」(たった6人を通して世界はつながる) パイこね変換
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理学と工学をまたぐ学際的な研究と人材の重要性について、この頃から提唱していたのですね。
著者は領域横断に活躍したフォン・ノイマンに憧れていたのだろうか?セルオートマトン、ゲーム理論とノイマンにちなんだ話題が多い。
ウィーナーの『サイバネティクス』やサイモンの『Artificial』を読んでいるような感じ。
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●『渋滞学』(西成活裕/新潮選書)
渋滞というのは、目の前にあれば不快だし、どっから始まるかもわかんないし、なんだか正体がわからない「ぬえ」のようなモノという認識だった。ところが、近年ではこの「ぬえ」のしっぽをつかまえているっぽいつーか、ちゃんと「学問」になってるっぽい。
具体的には、簡単なモデルをつくって、それを動かしながら検証していくと。そのモデルというのは、こんなの。
□□●●□●□□●□□□
四角い箱□の1コマに、●は1個だけ入ることができる。で、1コマ先が空いてれば移動できる。こんなふうに。
1)□□●●●□●□□●□□□
2)□□●●□●□●□□●□□
3)□□●□●□●□●□□●□
もちろん、□を0、●を1として(0010101010010)と表すこともできる。こうして渋滞をモデル化することで、コンピューターにのっけてシミュレーションして……ということができるようになって、渋滞を物理学的に研究できるようになってきた。なるほどね~。
で、この本では、車の渋滞に限らず、人の渋滞、アリの渋滞、インターネットの渋滞、はては人の細胞の中での渋滞なんかをとりあげて、それがどういうしくみで起きてるのかを明らかにしてる。「渋滞」という不快な現象の裏に、どんな法則があるのかというのがわかってくると、ちょっとなんだか楽しいぞ。
科学の先端の話というのは、現実生活とどう結びついているのかがわかりにくい話が多い。そこんところ、この「渋滞学」というのは、すぐに役に立つので身近に感じるし、メリットもわかりやすい。最後まで退屈しないで、楽しめる本だった。
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車や人を自己駆動粒子をみなしてモデル化・シミュレーションする、待ち行列理論以上のスタンスが渋滞学だということか。インターネット上のパケットの輻輳や生物内のミクロ系で見られる渋滞などの事例も紹介されている。著者の立場は複雑なシステムもできるだけ単純化して見ていこうといった感じで紹介されている数理モデルは離散的なかなり単純なものなが多い。巻末には理学と工学を融合できる人材の必要性なども述べられている。
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≪目次≫
まえがき
第1章 渋滞とは何か
第2章 車の渋滞はなぜ起きるのか
第3章 人の渋滞
第4章 アリの渋滞
第5章 世界は渋滞だらけ
第6章 渋滞学のこれから
≪内容≫
横須賀図書館。予想外の展開…最初から。それは、「渋滞学」は車に関することだけでなく、人やネットやエレベータなど幅広い分野に関連すること。さらに、中心的な考えは、”複雑系”であること(数学ですね…)。したがって、理解は半分くらいだったかも?まあ、難しいこと!ってわかっただけで十分かな。
ネタとしては、
待ち時間×人の到着率=待ち人数(リトルの法則)
渋滞の一番の原因は、サグ部(ちょっとした上り坂)であること
車間が40m以下で渋滞が発生すること
2車線道路では追い越しの方が遅くなること(原則)
車は止まると発進まで車1台あたり1.5秒かかること
こんな感じかな?
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交通の渋滞から、人の渋滞、アリ、ネットワークの渋滞まで色々な渋滞があり、様々な分野の問題を単純化して画一的に捉える面白さ。締めに、理学と工学を横断的に理解のある人が今後必要だと作者は説いている。
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書評などで見て買いたいと思いながら、買いそびれていた本。図書館で借りて読み出したのだけれど、おもしろすぎて即購入。渋滞についての研究。しかしそれは何も自動車の渋滞だけではない。緊急避難時の人間の動きであったり、アリの行動パターンであったり、コンピュータのネットワークだったり、血液の循環の話だったり。とにかく、渋滞を発端に、いろいろな話に広がっていく。しかしモデルとして出てくるのは、本当に単純な箱と○。本当に簡単なルール。そこから、次々に新しい動きが見つかってくる。少しルールを変えるだけで新たなことが分かる。どんなモデルを作るか、それが研究者のカンの働かせどころ。安全学など新しい学問との融合も期待できる新しい領域だと思う。