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諸処批判もあるだろうが、備忘録としてブックメモとしたい。
日本共産党の創立100周年の節目に、著者は「はじめに」で、「日本共産党が組織として刊行した公式党史、綱領集などの資料、機関誌「しんぶん赤旗」、党幹部が実名で公刊した書籍を情報源」とし、加えて議員個人のSNS上の発言までも調査し、批判的に分析するという方法をとったと説明する。読み込んでみて、「敵の出方論」や「暴力革命の党」、「自衛隊活用論」などについて、国内外の情勢や日本共産党の置かれている立場や歴史的経過を複眼・多面的に検証し、熟考した批判文章と言うよりは、文献や歴史の一部分を切り取った形での矛盾に対して、批判を繰り返し、「と思う」や「と考える」などのまとめが続く点は、後味が芳しくない。例えば慶應義塾出版会から出版された高橋伸夫氏の「中国共産党の歴史」に見られる、事実の積み重ねによる検証を行った書籍とは明らかに趣が異なった、佐藤優氏の個人的見解が全面にでているように感じてならない。
佐藤優氏が指摘する「敵の出方論」については、インターネットで見る限り、日本共産党として繰り返し説明が行われている。「暴力革命の党」、「自衛隊問題」についても、日本共産党として、繰り返し「国民の合意に基づく」事を前提に説明されているのではないかと思う。
少なくとも、私が知っている日本共産党の議員や党員、その支持者の方々が、「暴力革命」を行おうとは微塵も思ってないであろうし、政権を取れるのは「自分が死んだ100年後かな」と発言を夢物語の様に語っておられる方ばかりである。革命の前提として、民主主義を徹底し、嘘や欺瞞のない健全な政治や社会を望んでおられる方々で、「日本共産党員には真面目な人が多い」と著者も本書の246項で指摘しているとおりである。
おわりにで、「この党をより深く理解したいと考えている読者には、本書とあわせて志位和夫『新・綱領教室 上下巻』(新日本出版社、2022年)を読んで、見解や解釈が異なる部分については、読者自身の良識に基づいて判断していただきたい」と結んであり、佐藤優氏の指摘の通り、文献でしっかり検証していく事が重要だと理解した。
(注意)項28に「コミュンフォルム(1947年設立)に隷属した」とあるが、1928年の「赤旗第3号」を引用した時代背景や文脈からは「コミュンテルンに隷属した」が適切ではないかと思われる。
【党創立当時の綱領草案でかかげた22項目について】
本書36項に「党創立当時の綱領草案でかかげた22項目について」の記述があり、佐藤優氏がよくここまで調べ上げの点は、さすがだなと思った。
九、現在の軍隊、警察、憲兵、秘密警察、等々の廃止。
十、労働者の武装
私も調べてみたが、この22項目を記載した日本共産党の正史では見つけきれなかったが、別の方法で22項目を確認した。
当時の強権的な「軍隊、警察、憲兵、秘密警察等々」に虐げられてきた日本共産党に取って、廃止が適切であったのであろう。一方で、「労働者の武装」にはギョッとするが、強権的な官憲に対抗するために、警察権力程度の武装は必要と考えていたのか、ロシア革命の様に武力が必要と考え���たのか、コミュンテルンの強力な指導によるものか(佐藤優氏は本書でコミュンテルンに隷属したと指摘する)、興味深い点である。
この武装に関連して、大日本帝国憲法から戦後の日本国憲法への憲法改正に関して、日本共産党の5人の国会議員は憲法改正案に反対している。その理由は2点ある。1つは「天皇条項が主権在民と矛盾したものであり、戦後の日本では、天皇制の廃止と徹底した民主主義の政治体制への前進がもとめられていた」、1つは「日本共産党は憲法九条のもとでも、急迫不正の侵害から国をまもる権利をもつことを明確にするよう提起」したものの、吉田首相は九条のもとで自衛権はないとの立場をとり、日本共産党は、これを日本の主権と独立を危うくするものと批判して、草案の採択に反対したこと。日本共産党は独自の憲法草案を提起した。(国会図書館 https://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/02/119/119tx.html)
よって、戦後から日本共産党は一定程度の国防を目的とした組織が必要と考えていた。しかし、戦前の様な下克上を伴う官僚主義的な帝国主義的軍隊は容認できなかったのではないか。例えば、2019年8月17日にNHKが放送した「昭和天皇は何を語ったか~初公開・秘録『拝謁(はいえつ)記』~」では、初代宮内庁長官の田島道治が残した「(昭和天皇)拝謁記」の番組の中で、警察予備隊の「捧げ銃(ささげつつ)」を行っているのをみた昭和天皇もまた、戦前の帝国陸軍に回帰することを愁いている発言が紹介される。しかし、結果として公職追放を免れた旧軍属が、警察予備隊、保安隊、自衛隊の組織運営を行い、今現在も続く、歪な組織関係や女性自衛官に対するセクシャルハラスメントなど、帝国陸海軍の体質が改善されているとは言いがたいのであろう。
この国防に関して、元新聞記者の伊藤千尋氏が紹介する、現行の自衛隊を災害救助隊と国境警備隊に組織再編して国防を整備する視点というのは、日本共産党が考える国防の考え方に非常に近いのではないかと考えられる。
ロシアのウクライナ侵攻によって、日本共産党の「国防論」や「自衛隊活用論」に批判が集中するが、戦後の憲法改正の時点から国防について考えていた日本共産党の視点を含めて、日本の国防を国境警備隊に整備していく考え方は、再度理解する必要があるだろう。
この日本国憲法制定時の状況について、佐藤優氏は本書で「日本国憲法制定にあたり、GHQの草案に最も近かったのが、日本共産党の試案だったこと、他の党が大日本帝国憲法から引き続き、天皇を統治権の総攬者と規定しているのに対し、共和制という処方箋を提示したことなどが他党と異なり際立っていたかもしれない」と指摘しており、日本国憲法制定に関して、このような視点をはじめて知った。また、この文章からも米国に押しつけられた憲法というより日本人によって日本国憲法が制定されたことを佐藤優氏は指摘しているのではないか。
【日本共産党の歴史に関する私の理解】
2022年7月15日に日本共産党は党創立100周年を迎えた。結党時は、大正デモクラシーを背景に水平社等が結成され、自由主義、社会科学、マルクス・レーニン主義なども議論された。結党前夜の1917年から全国的に散発的に起きた労働争議は、1918年に富山で起きた米騒動が新聞で大きく報道さ���、様々な形で全国的な労働争議等へ発展した社会運動が背景にあり、また結党翌年の1923年の関東大震災では、罪のない朝鮮人や中国人が虐殺され、亀戸事件では共産青年同盟の川合義虎は軍隊の手によって殺害され、無政府主義者の伊藤野依や大杉栄なども憲兵に連行され殺害されるという痛ましい事件も起きた。その後、1925年に制定された治安維持法による弾圧、アジア・太平洋戦争の戦前・戦中の厳しい弾圧を受け、党幹部の市川正一や作家小林多喜二、伊藤千代子や飯島喜美、高島満兎など女性党員も犠牲となった。一方で、コミュンテルンとの関係での党存続に関する方針や理論の変遷などの混乱もあった。戦後の日本共産党の再出発と「所感派」と「国際派」の理論闘争は、派閥争いや権力闘争の様相を呈し、ソ連や中国の強力な介入による理論、方針、組織の不当介入もありつつも、ソ連や中国の不当介入を許さず、自主独立の日本における共産党路線を確立し、日本共産党の1950年代問題を解決する形で1961年綱領を持って、基本的考え方や方針を明確にした。1991年のソ連崩壊の際、日本共産党は「諸手をあげて歓迎」と表明し、ソ連崩壊後に明らかになった日本共産党幹部の野坂参三の除名などを行った。ソ連崩壊後の冷戦終了以後は、2大政党論に押し込まれつつ、盛衰を繰り返し、国会に一定の議席を保持し、地方議員3000名程度有する組織を維持している。
国内外の情勢の変化や中国や北朝鮮など隣国との緊張が高まる中で、日本共産党は綱領等の見直しを行い、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻において、日本共産党の国防、防衛方針に対する一部国民の冷ややかな批判も受けつつ、自衛隊の活用論に対する批判も少なくない。2021年の衆議院選挙では市民連合と野党共闘を前面に闘うも立憲民主党と共に議席数は後退し、2022年の創立100周年を迎える参議院選挙でも2議席減の後退となった。日本共産党の見解によれば、野党共闘の後退とロシアによるウクライナ侵攻という「二重の大逆流」との激烈なたたかいの中で、「政治対決の弁証法」という角度から深く分析し、今後の党躍進の方針を検討するという。
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本書は、日本共産党を分析して批判しています。
しかもその原因が「民主集中制」と「前衛意識」にあると指摘しているのですから、共産党組織の根源的なものにあるというのです。
さすが佐藤優氏です。「公式資料や公式文献」に、その組織の内在的論理が埋め込まれているとは、着眼点がすごい。
通り一遍の歴史観を並べるだけでない切り口に、日本共産党創世記の赤裸々な姿が見える思いを持ちました。
しかも人物の息遣いが聞こえるような描写には、緊張感が漂っています。
それにしても、なんと凄まじい時代であったのか。
日本共産党の結党後の混迷は、後から見ると訳がわからないと思っていましたが、著者のわかりやすい視点には納得する思いを持ちました。
「福本イズム」などもは日本共産党創世記のエピソードとしては知られていますが、その中身は知りませんでしたが、本書で初めて理解できた思いがしました。
また戦後の「51年綱領から」「51年文書」の名称変更についても、初めて知りましたがこれも興味深い。
また著者は構成がうまい。
古い歴史を並べるだけでは、さすがに読者も飽き飽きしてしまう。
現在の日本共産党の政治行動を、1920年代30年代の綱領やテーゼからその「内在的論理」をさぐりだし分析するとは、客観的でわかりやすい。
なるほど、これならなかなか理解しにくい日本共産党の主張の背景がよくわかると思いました。
著者の得意とする手法であり、実に興味深かった。
しかし著者による「民主集中制が抱える宿痾」をついて読むと、究極の権力との緊張関係の下での組織原則の難しさを痛感します。
そもそも「民主集中制」とはみんなで討議はするが、結論にはみんなで従うという内容と理解していますが、日本共産党の民主集中制はあまりにも徹底しすぎているようにみえます。
著者は、その上部に下部は従うという組織原則のもつ功罪を冷静に、日本共産党の公式文献を時代を追って検討することから、厳しく評価していると感じました。
著者は最終章で「共産党の知的水準は低下している」と指摘しますが、これはひとり日本共産党のみではなく、日本全体の事ではないのかとも思いました。
最後に、本書での著者の記憶に残る言葉をあげておきたいと思います。
「批判と言うのは相手を否定することではなく、相手の内在的論理をとらえて、さらに評価を加えることだ。全面的に賛成する場合も批判となる」。
心に残る言葉でした。
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共産党=戦争反対運動のイメージを持っていたが、そもそもそれは社会党の考えで、社会党なき後にその支持者を集めるべく共産党が言い出した戦略だったそう。
そもそも、共産党の発端はロシア共産主義を世界に広めるべくして結成され、世の中を良くするためには暴力を暴力を辞さないという考えから始まっている。
平和的なイメージを今まで持っていたが、内部では権力で下を押さえつける体制があり、結局綺麗事を言っているだけで行動は一致していないような組織なのだろう。
最近、党首公選を訴えた松竹氏を除名した出来事も、対外的には平和を訴えながら党内部では権力を使った暴力をおこなっているのだと個人的に感じてしまった。