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インドから中国を経て日本へと伝えられた密教の歴史を、師から弟子への相承関係をたどりつつ解説している本です。
本書ではまず、密教の基本的な考えかたが説明されています。そのさい著者は、密教の二大経典である『大日経』と『金剛頂経』が、実在する釈尊ではなく大日如来によって説かれているということに目を向けるとともに、密教において相承が重視される理由を明らかにしています。
その後、大日経系(胎蔵部)および金剛頂経系(金剛部)の二部の相承関係をたどり、その担い手たちの人物像を解説しています。そのうえで、二部を統一した恵果と、その教えを受け継いだ空海をとりあげ、さらに天台密教における相承関係についても触れられています。
一般の読者にも読むことのできるわかりやすいことばで書かれた本ですが、著者が「文庫版のあとがき」で「呱々の声をあげて以来、もう十数年たつが、不思議なことに類書はまったくといってよいほど見かけない」と述べているように、密教の入門的解説書のなかでもユニークな構成となっていて、密教に関心をもつ読者に裨益するところが大きいのではないかと思います。