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日中戦争の最中、日本の密偵として中国に入りラマ僧に偽装してチベット方面に行き、敗戦後にも更に印度まで行くが、日本人であることがばれて日本に強制送還されたというノンフィクション。
密偵とはどのような情報を取得し、それをどうやって日本に伝えたのか興味があったが、そんな話は全く出てこない。
では期待外れだったかというと、そんな事は無く、ほぼ徒歩で中国からチベット、中東、印度までの波乱万丈、何度も死の淵に立たされるという紀行文として面白かった。
最後の方にこうある。この戦争で日本軍はその土地その土地の人々の感情や習慣を無視して、どれほどの失敗を犯したことだろう。それは多くは無知によるものだった。何も学ばず知ろうともせず、ただ闇雲に侵略していった、と。戦後もなお日本軍に好意的だったマラヤ兵ですら、ビンタはしないで欲しかったと…。また日本兵はイスラム教の人達に「豚を食わせるぞ」などと頻繁に脅したりしたらしい。それはイスラムの人達にとって本当に恐ろしい言葉なのだという。
最近あった入管法難民申請2回却下で強制送還改正騒動を見ていても、外国人に対する日本人(当改正案は与野党ほとんどの賛成を得たので日本人と括る)の意識は当時とあまり変わっていないように見える。
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大陸の奥地で密偵として漂白。ラマ教の巡礼僧として終戦後も8年間に及ぶ旅を続けた一人の男を追った、構想から25年、筆者渾身のノンフィクション。
本書の題材西川一三の生涯を辿った作品。著作「秘境西域八年の潜行」を読み解き、西川自身が気づかなかった誤りも含めて筆者は西川の著作に描かれた旅を探っていく。
あっけない旅の終末。蒙古人ロブサン・サンボーから西川一三に戻される。前後のあまりに異なる人生。漂白のうちにどこか悟った西川の謙虚な人生。人はそれぞれ人生という長い旅を過ごしていることをこれ以上なく感じさせてくれる。
旅、人生。人間の本質に深く迫った圧倒的なノンフィクション。
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足るを知る。
これほどの情報やモノに埋もれながらも常に渇きを感じている、そんな日々を送っている現代人には西川さんの生き方は人としてあるべき姿のように感じる。
広い世界を知りたい、ただ沢山のことを知りたい。その本質はか変わっていないが、日々新たな情報をインプットすると同時に沢山のモノもコトも消費している。
じっくりと何かに向き合うことのない慌ただしい日々に空虚さを感じ、休みになれば高いお金を払って静けさを求めてわざわざ田舎へ出向く。
そんなことまでしなければ自己を見つめることすら出来なくなっている。
そんな生活に矛盾を感じながらもまた慌ただしい日常に戻っていく。
一杯の汁やツァンパに涙を流すような究極の状況を求めているわけではないが、日々の暮らしの中に自然と自己を見つめ、思考を深める時間があることはとても贅沢のように感じる。
托鉢で予想以上に食べ物をもらい困ってしまう場面がある。
托鉢ではあくまでその日食べる分を得られればそれで良く、荷が重くなりすぎるとかえって前へ進めなくなる。人生も同じ。
そんな場面があった。
余分な荷は持たず、なるべく自然体で生きる。
そんな生き方にとても憧れる。
現代は自分で自分の首を絞めやすい。
様々なものに翻弄され、あれが良いこれが良いと多くを求め、本当に自分が求めているものとはかけ離れてしまったり、高みを目指しすぎたり、自分の幸せのハードルを上げ過ぎているのではないか。
デジタルデトックスすすめなんていう記事をよく見るが、私に限らずこの世に翻弄されて辟易しながらも身を沈めたままの人は大勢いるのは間違いない。
だからこそ西川さんのような淡々とした愚直な生き方は新鮮であり心を奪われてしまうのだろう。
自分が求めているものは本当は何なのか、この本は今一度立ち止まり自己の本質を見つめ直す機会をくれた気がする。
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572ページ。第二次世界大戦ユーラシア大陸を「密偵」としてモンゴルからインドまで徒歩で旅をした西川一三氏の足取りを辿った物語。主人公目線でユーラシア大陸の底辺の暮らしや過酷な旅を本表紙裏の地図で場所を確認しながら読み進めました。かつて夢中で読んだ「深夜特急」を思わせる面白さ。先日、NHKBSの番組で中国の奥地でかつてラクダを連れた隊商が泊まった宿、とかを紹介していましたがそんな様子も想像しながら読み進めました。主人公はラマ僧として修行したりアジアの言葉をいろいろ覚えたりとその8年間の努力が垣間見られます。読み応えありました。
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クローズアップ現代で「天路の旅人」を上梓したということで沢木耕太郎氏が出ていたのをたまたま見て、第二次大戦中、情報収集のため中国西部を辿った西川一三という人がいたことを知る。スタジオにはダンボールに入った西川氏の原稿もあり、そして戦後は盛岡で美容器具卸売業をし元旦以外は働いていた、と紹介されそのストイックそうな人物に興味を持った。
検索してみると戦後になりインド滞在中、同じ諜報部員の木村肥佐生の密告によって捕らえられ日本に帰国した、とあった。読む順番としては木村肥佐生「チベット偽装の十年」 西川一三「秘境西域八年の潜行」 そして沢木耕太郎「天路の旅人」の順番になった。
沢木氏のを読んでみると、沢木氏は木村氏、西川氏の本を丹念に読み、西川氏の膨大な著書による、西川氏の足跡を分かりやすく整理し、そして木村氏との関係もフラットな視点で示してくれていた。
これには1年余にわたる西川氏との飲み屋での聴き取り、また西川夫人、西川氏の娘さんとの面談の成果もでていると思う。西川氏との面談で著作以外の何かが出てくるに違いないと考えていた沢木氏だが、著作以外のものは出てこなかったと書いている。だが、書かれている面談時の西川氏の様子からは西川氏の輪郭が浮かんできている。読み終わってみると、それはまさに「天路」の「旅人」であった。
木村氏は、西川氏の最初に出版された芙蓉書房からの本をみて、自分を悪しざまに書いていると憤ったようだが、西川氏の著作を読んでもそうは感じなかったし、沢木氏も「中傷」や「個人攻撃」と思われる場所は存在していないと書いている。また沢木氏と面談中も西川氏は木村氏のことは一言も非難しなかったという。沢木氏が西村氏の著書で「・・木村君が私のことを、すべて密告したことを悟った」という「密告」の言葉は強すぎると感じるが、しかしこう言うしか表現のしようがなかったのだろう、と書く。西川氏に「もし西川さんが木村氏の立場だったら木村さんのことは喋りましたか」ときくと「自分だったら、自首する前に、木村君の意思を確かめます」と言ったとあった。
木村氏の本は昭和33年の講演速記録が元。西川氏の本は氏が帰国後3年を費やして書いた3000枚余の原稿が元。
2022.10.27
※「新潮」2022.8月号 第一部
※「新潮」2022.9月号 第二部
新潮社 2022.8
https://www.shinchosha.co.jp/news/article/2877/
訃報 西川一三さん 2008.2.11
http://tibet.way-nifty.com/blog/2008/02/post-01e8.html
出版経過、テレビ番組
「秘境西域八年の潜行」上巻 芙蓉社1967.11
「秘境西域八円の潜行」下巻 芙蓉社1968.2
「秘境チベットを歩く すぐに秘境西域八年の潜行別巻との題になる」芙蓉社 1968.10
TV東京12チャンネル「私の昭和史」司会三國一郎に出演
ラジオ NHK で話をする
TV「新世界紀行」1988 遥かなる秘境 西域6000キロ大探検 出演を打診されたが同じところに二度行ってもと断る。4回にわたり放送 沢木氏はこの番組で西川氏のことを知る
「秘境西域八年の潜行」中公文庫 上中下 1990
※
木村肥佐生「チベット潜行十年」1958.7.5初版 毎日新聞社 1958.8.1第9版
木村肥佐生、スコット・ベリー編「チベット偽装の十年」1994.4.25 中央公論社
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ノンフィクションであるということ、第二次世界大戦末期に実際に密偵として中国の内モンゴルからチベットを経由しインドまで旅した人がいたというインパクトが何よりも大きい。
例えば、今、西川一三さんや木村肥佐生さんと同じ任務を与えられてやり遂げられる日本人はどれくらいいるのだろう?と思ってしまった。
私も昔から、生きている間にできるだけ色々なところに行って色々なものを見たいと思っているので、西川さんの「何も持たない代わりに自由に生きる」ことへの憧れは、ほんの少しだけど、わかる気もするけれど…
人には本当に様々な生き方があるのだなぁと思った。こういう方のお話を一度、生の声で聞いてみたかったな。
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西川一三の辿った旅の凄さに圧倒されました。
巻末で著者本人が書かれているように旅の工程そのものではなく「西川一三という旅人」について、その人生、生きる姿が伝わってきました。こんな生き方をしている人がいたなんて。
沢木耕太郎さんだからこそ描ける話かもしれません。深夜特急からつながり、沢木さんと西川さんのお二人が部分的ではあっても呼応しているように感じられました。
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傑作。傍らにアジアの地図を置き、地名を確認しながら読み終えた。あたかも長い旅を終えたかのようだ。8年に及ぶラマ僧ロブサン・サンボーとしての西川一三の旅は想像を絶する。日本の敗戦により密偵の使命が消滅した後も、自ら望んで未知の土地を歩き続ける姿は、旅とは何なのか、人生とは何なのか、修行とは何なのか、という青臭い問いを考えさせられた。長い旅の後、第15章と終章で語られる著者の随想もまた感慨深い。
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第二次世界大戦末期にこのような旅をした日本人がいた事は知らなかった。その工程を取材でここまで生き生きと書ける筆力が素晴らしいと思った。
どんな所でも生きていけると言うことが自分の強さであったりするのかなと考えた。
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NHKの番組で、この本の特集をしていた。著者の詳細な調査。事実は、小説を上回る。金や名誉とは異なる至福を得た者が持つ謙虚さ。同じ価値観を持つ著者の言葉も重かった。
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これはやはり沢木耕太郎にしか書けない作品だなと思う。
『深夜特急』は発売日を待ちわびて初版で読んだものだけれど、これは『深夜』に対する、ご本人からの返事というか、1つの解答のような気がする。
それにしてももう30年以上も彼の作品を読んできているわけだけれど、いつも真っ先にそして一番感じるのは真摯さだ。取材対象の物事、相手、そして己れ自身の疑問やどうして書こうと思ったかなどに対して、どこまでも真摯。
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2023/2/2読了。事実に基づいたドキュメンタリー小説。久々に夢中になれた。スケールが壮大。旧日本軍の荒唐無稽なインパール戦の悲劇などを読ませられる事を考えると…。一日本人の青年が当時の日本支配の内蒙古からチベット、ネパール、ブータンからヒマラヤを越えてインドまでを走破。時代背景を考えながら主人公と同伴するドキドキ感には驚きの連続。内偵と称する『任務』ながら次第に『冒険』へと変わって行く主人公の気持ちも共感してくる。政治的な背景を感じさせないところが不思議と面白さが加わった。
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タイトル間違えて覚えてた。
天空の旅人かと思ってた。天路のなんだね。自分も一緒に旅をしている。だから読み終わるのが惜しい。
毎日読む事が楽しいと思える本はそうはない。だけど、何故、潜入の旅を志したのかはわかりません。
でもそんな事はどうでもいいか!
結局天路って何?
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構想から何十年もかかって完成させたとあったけど、まさに労作であったであろうことは想像に難くない。
この西川一三という人物を初めて知った。
なんと25歳から33歳までの8年間、蒙古人の巡礼僧になりすまし、中国大陸に潜入し戦後も蒙古人のラマ僧になりすましてチベット、インドにも潜入してたとは。
180cmの屈強な体格であったらしいので体力は十分であったのだろうし、どこでも眠れるというのも大事な資質に恵まれたのだろう。
でも、この西川一三氏のタフさ、勤勉さ、手を抜かない仕事ぶりには脱帽する。だから移動する先々で手助けしてくれる人たちにも恵まれたのだろう。
言語もほぼ独学でチベット語、蒙古語、ウルドゥー語、ヒンドゥー語、中国語、英語を操れたというからどこでも生きていけたと思う。
同じ密偵として派遣されてた木村氏の密告(この言い方に相当木村氏は気分を害したようだけど)がなけれな、ずっと帰国せず蒙古人の「ロブサン・サンボー」として生涯を終えたかったのではないかと思ってしまう。
でも本人にとっては不本意な帰国になってしまったかもしてないけど、こうして書物になって読めただからお許し頂いて(誰の?)ということにしましょう。
著者は、このコロナ禍が終わったら西川一三の辿った行程を旅するつもりとあとがきにあったけど、それもまた読んでみたい。
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西川さんと共にいつまでも旅を続けていたいと思わせてくれる話でした。『秘境西域八年の潜行』も読んでみたい。