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2013年に長野県の特養でおやつにドーナツを食べた利用者が意識を失い、1か月後に死亡したことで准看護師が過失を疑われ裁判になった。その顛末を振り返る60ページほどのブックレット。弁護に当たった上野格弁護士と看護師・著述家の宮古あずささんの対談「特養あずみの里裁判を振り返る」のほか、水谷渉氏「医療・介護事故における刑事弁護」、鳥海房枝氏「ケアの現場から考える「予見可能性」」、工藤うみ氏「看護職と介護職のはざまで」、上野千鶴子氏「ケアする者のつつしみ」の4稿が収録されている。
上野・宮古氏の対談から気づかされることが多い。特に上野氏の「振り返るな」ということ。とかく、事が起こると反省の意を込めてか本来できないようなことまで「ああしておけばよかった。これからはそのようにしよう」ということになりがちだけど、そのとき、たとえば「窒息だった(かもしれない)」ことを前提に振り返ってしまう(「かもしれない」が限りなく希薄になりながら)ように最悪の条件下を仮定して振り返りがちだが、そこは事実のみに基づき、当時わかっていた状況のみから判断すべきだと。
それを受けたような上野千鶴子さんの稿もさすが、大いにうなずける。医療職・介護職や介護家族は無限責任感を背負い背負わされることで、相手のすべてに深くかかわらなければいけないかのような思いに陥りがち。しかし本来、可能なことと不可能なことがあるし、すべてに深くかかわられ干渉されることは、被介護者にとって幸せなのか。ある種の限界を見定めることが「つつしみ」だと説く。
最終的には無罪が出た特養あずみの里での出来事は、両上野氏の指摘されるようなことがあったために、こじれたともいえる。罪を仕立てたがる検察から身を守るために、そして何より介護し介護される当事者のために大切な考え方。