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レイプ犯グループへの「制裁」を企てたことから窮地に追い込まれ、一人の力を用いて心中を図ったふたりの行く末は…? というところから始まる下巻。
過去に戻された歩和は一ヶ月間、存在しないものとしてこの世から消えていたが、一人に『本当の名前』を呼ばれたことで姿を取り戻す。
どうやら、名前を呼ぶことが『消された』存在をこの世へと呼び戻す手段のようで…?
歩和の消えていた間、性暴力のターゲットは新人アルバイトの綾乃へと成り代わっていた。
『一度目』で過ちを犯した一人たちは、もどかしいほどの正攻法で卑劣な犯罪へと立ち向かうことになるが、ここからも上巻をものともしない激動の不幸のオンパレードが二人を襲う。
『虐げられる側』だった歩和がいままでの朝丘キャラとは異なった、素直で優しいいい子ちゃんでなく、剥き出しの怒りをぶつけるキャラクターだったことが印象的。
登場人物皆が不安や恐れや孤独や痛みを抱え、やり場のない感情から取るべきではない手段にでてしまう。そしてその矛先を向けられた時、いままで一方的に傷つけられていた側だった歩和は全てを消してやりたいと怒りに震えるが、自らの力の責任に向き合うべきだと覚悟を決めた一人は必死に歩和を止めようとする。
正直、この会社にはまともな奴がいねえのかよとあまりの非道さ身勝手さに怒りすら込み上げてきましたが、人間の狡さ弱さ身勝手さの心理をこれでもかと暴き、歩和の言葉で彼らの内面が剥き出しにされていく様の壮絶な筆致や、そこから自身の弱さや偏見、人の数だけある正しさに向き合い、折り合いをつけようとする様は読み応えがありました。
二人で幸福を得ようと色彩豊かな愛で彩られた道を歩み始めるも、さまざまな欲望は容赦なく彼らを傷つける。
そこに立ち塞がるのは、世間から押しつけられる正しさや偏見との戦いだ。
互いに手を取り合い、理解を重ね合いながら安らかな愛を育んでいきたいーささやかなその願いを叶えるためには、立ち向かわなければいけないものがあまりにもたくさんある。
人間の理不尽と悪意をこれでもかと見せつけられる展開にはうわぁ、となりますが、決してただのいい子ではなく、時に怒りをぶちまけながら根気強く一人と対話を重ねていく歩和の姿や、厳しさと優しさを持って力になる継父の姿には引き込まれた。
ここまで書くのか、という作家としての覚悟と、それを送り出すレーベルの思いの強さをすごく感じさせられた。
四六判の上下巻、人を選ぶタイプの癖のある作風と、難しいところのある作品ではありますが、注目されてほしいなぁと個人的には思わされた作品でした。
人間は身勝手で横暴で美しくないが、それでも、だからこそ美しい愛に焦がれるのかもしれないと思わされた。