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出くわした時「何やら凄い感じな題名…」と感じ、手に取らずには居られないと思い、入手して紐解いた一冊だ。そういうように出来て善かったと読後に思っている。
「核開発」とでも言う場合、核兵器、原子炉を使う発電、艦船への原子炉の搭載というような事柄が在るであろうが、そういう事柄に関する「ソ連での経過」を判り易い通史として紹介するのが本書である。
一口に「歴史」と言うが、それを論じる中では“政治”、“経済”、“文化”というような様々な要素が在ると思われる。ここで“科学技術”ということを想うと、場合によってそれは“政治”、“経済”、“文化”が融合するような面が在るのかもしれない。“政治”として新技術の開発や導入が唱導され、“経済”の状況が唱導される新技術を求めるような面が、またはそれの実現を可能ならしめるか否かを左右し、更に技術開発は高度な学術的な積上げや、専門家の作業が必要であるという意味で“文化”だ。本書を読むと、「核開発」という新たな技術の開発と導入は、ソ連に在っては“政治”であり、“経済”であり、“文化”であったということに想いが至る。逆に言えば、“科学技術”とは人の社会の様々な要素の中に在るということに気付かされる感だ。
「ソ連の核開発」と言えば、原子力発電所の事、チェルノブイリ原発事故が在る。本書はそれにまつわる挿話を冒頭に引きながら、「核開発」の「事始め」ということになる「原水爆の開発」という辺りから説き始めている。そして原子炉を利用しようと開発が重ねられた経過、発電所にそれらが実用された経過が在る。また(本書で言及は無いが『K19』という原子力潜水艦の事故の映画も在ったのだが)潜水艦への原子炉搭載に関することも取り上げられている。
こういう様々な経過は「知らなかったこと」で、各々に大変に興味深く読んだが、更に興味深い要素も在った。ソ連は石炭、石油、天然ガスを豊富に有している筈だが、大胆に原子力発電を行っていた。そして原子力発電は現在も行われている。それは何故なのか?本書では社会や軍事や経済の状況ということで、その「何故、原子力発電?」という辺りも論じている。
これらの「ソ連」での経過に加えて、所謂「東側」の国々への技術移出の経過にも言及が在る。「中国の核開発」が起こる辺りのことも判り易く纏まっている。そして「ソ連の後」の時代、比較的近年の<ロスアトム>による原子力発電等のビジネスの事や、原子力発電所を擁しているウクライナに関する言及も在る。
非常に興味深く有意義な一冊で、夢中で読んで素早く読了に至った。「現代」へ至る「前史」として、様々な要素を織り込みながら「ソ連の経過」を考える材料になる一冊だ。広く御薦めしたい。