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2022/10/30 17:03
投稿元:
2022年から始まったウクライナ・ロシア戦争の原因・遠因は様々あると思うが、宗教(主に正教会)的な観点から両国に関する地政学と歴史を考察しており、よい読書体験になった。
2023/03/25 22:17
投稿元:
027
Religious Geopolitics という概念は、日本ではまだほとんど知られていない。
028
地政学は
1.ドイツ系 Geopolitik
19世紀ヨーロッパ的な植民地帝国
2.英米系の Geopolitics
国民国家を主要アクターとする
に大別される。
どちらも
国益を極大化するための研究。
極めて党派的な学問。
040
プーチンは、母が敬虔な正教徒。
プーチンは、幼児洗礼を授かっている。
大人になってからも、日頃、教会に礼拝に通うロシア正教徒であり
特に21世紀に入ってからは
ロシア正教の養護者として振る舞っている。
プーチンの内心の信仰は、分からないけれど。
『ウォールストリート・ジャーナル』は
正教徒が、国民の63%を占めるロシアで
モスクワ総主教キリル1世の支持が
プーチンの正当化の決定的要因となりうると述べている。
045
国際政治、英米流地政学は、直接的な政策科学であり
研究者も、戦争を含む、国家間のパワーゲーム、ヘゲモニー闘争における情報線の当事者であり、
中立でないことは、当然の前提。
089
ソ連にイスラーム国家があった理由は単純で
それ以前にロシア帝国の支配下にあったから。
090
現在、ロシア連邦内でムスリム住民が多数を占める共和国は
タタールスタン共和国
チェチェン共和国
ダゲスタン共和国
イングーシ共和国
カバルダ・バルカル共和国
バシコルトスタン共和国
カラチャイ・チェルケス共和国
2014年に、ロシアがウクライナから奪って編入したクリミア共和国
097
現在まで尾を引くソ連のアフガニスタン侵攻
105
タリバン政権にとってロシアは共存可能な相手
反米において、共通する中国、イランとともにロシアに、タリバンが接近するのは自然なこと。敵の敵は味方、だから。
116
十字軍の時代を代表として
ヨーロッパには、カトリックと正教の対立、別の言葉で言えば、
ラテン世界とギリシャ世界との対立があった。
当時は、西ローマ帝国がはるか昔に滅びてしまっていたので
権威があったのは、むしろ東ローマ帝国に庇護されていたギリシャ正教のほうだった。
126
ローマ・カトリック教会と、正教会の最大の違いは
フィリオクウェ問題、と言われる聖霊(正教訳では「聖神」)論。
カトリックが
ニケイア・コンスタンティノープr信条のギリシャ語原文にある
「聖霊は父より出で」の部分に、ラテン語訳では「父より」の後に
「子(から)Filioque」の語を付加したのに対して
正教ではそれを認めなかったことから「フィリオクェ問題」と呼ばれる。
133
イスラームは、勝てない戦争はしない、という現実的な宗教。
154
かつてはモスクワ総主教座が代表していた東スラブの宗教権威の座が、ウクライナ国内で、キエフとモスクワの2つに分裂した。
かつては、モスクワ総主教座の下にあり、ひいては、プーチンの支配下にあったウクライ���の正教が、正式に、モスクワ、プーチンから独立したことになり、これが、ウクライナ侵攻の発端のひとつになった。
155
ウクライナ正教会のモスクワ正教会離脱は、プーチンにとっても、レッドラインを超えたことを意味する。
164
ロシアがカトリックを敵視する理由
167
ロマノフ朝の正教と絡まりあった愛国主義は、対外的には
ロシア正教徒を世界の救済者とみなす、というメシアにズムと化した。
170
ウクライナ侵攻以降
プーチンの盟友とされ、ロシア正教のトップであるモスクワ総主教キリル1世が、ウクライナ侵攻を支持している。
171
ウクライナ侵攻を指示するキリル総主教は国際的に批判されているが、正教のトップが、為政者プーチンの言うことを効くのは、自然なこと。
元々が、皇帝教皇主義である正教にとっては、当たり前。
173
ロシアの仇敵 カトリックと、トルコ
190
エネルギー資源から見た、ウクライナ侵攻と周辺国
202
アメリカが金本位制を離脱したということは、ドルと金との交換の求めに応じなくても良くなることだから
アメリカはドルをいくらでもすることができる
現行のドル基軸制度は「アメリカに一方的に有利な不正システム」
203
多くの国々は、アメリカが基軸通貨を独占して世界の金融システムを支配することを快く思っていない。中国やインドがロシアに金本位制で、追随すれば、長く続いたドル支配に転機が訪れるかもしれない
206
中国やインドなどの国が、ロシアに同調する動きは、今回のウクライナ侵攻だけに関係しているのではなく
欧米による、資源・市場・人材の搾取、そしてドルによる支配に、天然資源を有するアジア諸国が対抗する、軍事的独立、独自の通貨制度、経済圏の構築の一環とみなさなければいけない。
その胎動は
2017年に、中露が主導して創設した安全保障経済同盟である「上海協力機構」にインドとパキスタンが加入し、人類の全人口の4割に達する世界最大の地域共同体になった時点で、明らかになっていた。
211
イスラーム世界は、トルコ、イラン、アフガニスタンというかつての帝国を中心に緩やかにまとまっていく可能性がある
288
狂犬マティス
マスティス元国防長官(在位2017-2019)は、戦争と読書だけが趣味で7000冊の蔵書を誇る
「我々の時代の悲劇は、プーチンがドストエフスキーの世界からそのまま出てきたような人物であることだ」
ドストエフスキー(1881年没)
プーチンは、ドストエフスキーのSカウ品に影響を受けた。モスクワのドストエフスキー博物館で行われた生誕200周年には自らも出席、公式にも祝うよう指示した。
ソ連崩壊後の、ロシアにおちては、ドストエフスキーの、正教を尊重する民族主義的な思想が再評価されているから。
「プーチンはドストエフスキーの世界から出てきたような人物だ」というマティスの言葉は、誇張ではない。
289
ドストエフスキーは、ダニレフスキーの汎スラブ主義の賛美者だった。
『作家の日記』では、政治社会時��を行い、西欧に対する敵意と、汎スラブ主義、大ロシア主義の信条を吐露していた。
ドストエフスキーによれば、ヨーロッパの思想には
1. カトリック的理念
2. プロテスタント的理念
3. スラブ的理念
の3つがある。
① カトリック教会は、ローマの国家権力にキリスト教の理想を売り渡し、友愛と若いではなく、唯物主義と権力による強制に基づく国家秩序の実現を目指してきたのであり、ローマ教皇庁、イエズス会、フランス革命、無神論的社会主義の思想に至るまで、すべてが、カトリック理念の名のもとに包括される
② プロテスタント的理念とは、カトリック的理念への対抗を目的とするゲルマン的理念であり、カトリックへの対抗によってのみ存在する否定的信仰に過ぎず、敵が滅びれば自らも存在根拠を失い、一直線に無神論に転落してしまう
③ このカトリック的理念とプロテスタント的理念に対立し、その葛藤を止揚するのが「キリストの真理」に基づく正教のスラブ的理念となる
ドストエフスキーによれば、カトリック理念こそが本源的でより大きな悪となる。
「荒野におけるサタンの第二の誘惑」ルカによる福音書4章5-8節 に屈したローマ教皇は、世俗主義の時代に適応スべく無神論的社会主義と同盟して、こあの大審問官の野望(
カラマーゾフの兄弟の中のイワンとアリューシャの会話に登場する作中物語)
を実現しようと務める。
このカトリック型共産主義は、第二インターナショナルの公然たる無神論的共産主義よりもはるかに多くの大衆の心を惹きつけ、恐るべき力を発揮する。
この軍勢の浸透力を阻止できるのは、ただ「東方において前古未曾有の光を発する第三の世界的理念」つまり正教スラブの理念だけだ、というのがドストエフスキーの思想。
1877年に、露土戦争が始まると
ドストエフスキーは
「ロシアがなそうとする戦争より神聖かつ清浄な偉業が他にあるだろうか」と言った。
彼によれば、ロシアは、無欲で野心はなく、西欧諸国の場合のような帝国主義的領土拡張のたまえでなく、ただスラブ諸民族の平和と自由を保証するためでしかない。
ヨーロッパ各国ならば、国力を伸ばす可能性が少しでもある場合には、必ず隣国を犠牲にしてきた。
ロシアは、ヨーロッパに対しても、侵略も略奪もせず、スラブ諸民族との愛と同胞精神による同盟によって強大化するという事実によって、剣を抜くことなく、沈着な力の自覚によって、真の平和、国家間の団結、無私無欲のお手本を示す。
292
ドストエフスキーは、帝国内のクリミヤ・タタール、ユダヤ人などの非スラブ民族に対してはスラブ民族の優位を信じていた。
しかし、歩コアのスラブ諸民族に対しても、あらゆる面で、彼らはロシアと台東ではない、と考える確信的な大ロシア主義者だった。
ドストエフスキーの、このスラブ民族観は、ヨーロッパに対する劣等感の投影になる。
ドストエフスキーは、ヨーロッパの物質主義と無神論を、悪徳の元凶と批判しながら、ヨーロッパから文明を学んだという劣等感を抱いており
この劣等感が、他のスラブ人に投影され、被害���想を生み出している。
「ヨーロッパでは、我々は、居候で奴隷にすぎなかったが、アジアへは、主人として現れるわけである。ヨーロッパでは、タタール人であった我々も、アジアではヨーロッパ人となるわけだ」
というドストエフスキーの言葉は、彼の劣等感のわかりやすい表現。
彼は、ヨーロッパについては、聖なる奇跡の国、で、少なくとも科学と工業の点で、ロシアに優越しており、その影響がロシアにもたらしたピョートル改革を、ロシアの閉鎖性を解消し、文明に目覚めさせ、多民族への同胞的な愛や人類への使命の観念に目覚めた、と高く評価し、ロシアのヨーロッパへの愛を語る。
しかし、それは片思いで、かえって軽蔑され蔑まれただけであった、とドストエフスキーは、結論づける。
294
ヨーロッパに対する劣等感、いわれのない片思いの感情が、愛憎のアンビバレンツを生み出している。
その心理は必然的に、ロシアがスラブ民族であるがゆえにヨーロッパから謂れのない人種差別的憎悪、敵意を被っている、との被害者意識に変わる。
295
ドストエフスキーの言葉を長々と引用したのは
それが、プーチンの言説と見事に対応しているから。
ドストエフスキーは
「ロシアがどんなにヨーロッパに秋波を送ろうとも、ヨーロッパは決してなびかず、ロシアを仲間として受け入れることはなく、かえって蔑視、軽視する」と述べているが、これは冷戦終結後のロシアと欧米の関係に当てはまる。
欧州共通の家構想を掲げ、ヨーロッパ入を望んだゴルバチョフは1989年12月に、米ソ共同宣言で冷戦を終結させた。
イラクのクウェート侵攻に際しても、冷戦期に東側陣営だったイラクを支持せず、アメリカ主導の多国籍軍によるイラク攻撃(1991.1.)にも拒否権を行使せず、アメリカに協調し、西側に対する軍事同盟であった1991年7月にはワルシャワ条約を一方的に解体した。
しかし、欧米はこれには応えず
EUはロシアを受け入れようとせず
ソ連を仮想敵国とするNATOは存続し
結局のところ
冷戦終結の結果は、ソ連の崩壊によって、ロシアが超大国の座から滑り落ちただけに終わった。
プーチンが、ウクライナ侵攻の理由として
NATO東方不拡大の約束をアメリカが破って、ウクライナのNATO加盟を画策していることを挙げているのは
ロシアの歩み寄りを認めず、適しを続ける欧米への、期待を裏切られた失望と苛立ちの表現。
プーチンは、自らが政権についてからも
NATOの中央アジアでの軍事プレゼンス増強を容認し
2001.9.11.に、アメリカで同時多発テロが起きると
ブッシュJr大統領の「対テロ戦争」に積極的に協力した。
ロシア紙『独立軍事評論』2001.12.7.は「同時多発テロ以来、ロシアとアメリカはテロ対策においてパートナーであるだけでなく、同盟者にもなった」と米露友好関係への転換への期待を表明している。
しかし現実には、欧米のロシアに対する態度は変わらなかった。
その後もNATOは
2004年にエストニア、スロバキア、スロベニア、ブリガリア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア
2009年には北マケドニアが加盟するなど拡大の一途をたどり
2022年現在で、全30カ国にまで膨れ上がった。
297
ドストエフスキーの時代のロシアの知識人も、西欧への劣等感から、どれだけ西欧を称賛し追随しても、報われず、蔑まれ憎まれていると感じ、そこから、謂われなのない差別を受けているとの被害妄想に陥っていた。
結果として、20万人におよぶ犠牲者を出してまで、独裁者ナポレオンの支配からヨーロッパ諸国民を開放した「救い手」であった無垢なロシアを恩知らずにも二組、野蛮な全体主義として抑圧しようとする、邪悪で理不尽な差別主義的迫害者、という西欧像が生まれた。
ナポレオンをヒトラーに置き換えれば、この構図は、そのままプーチンと現代のロシア人にも当てはまる。
ヒトラーの独裁からヨーロッパ諸国を解放するために、2000~3000マン人もの死者を出してナチス・ドイツと戦った解放軍ソ連を、こともあろうか、ナチスになぞらえてファシスト扱いし、NATO拡大によって包囲、殲滅しようとする邪悪で好戦的な西欧、というイメージ。
ウクライナについても同じ
「ロシアが開放したスラブ人たちは、ヨーロッパから解放を承認されるが早いか、すぐさまロシアを憎むようになり、ロシアに対する憎悪者、羨望者、中傷者、ついには公然たるロシアの的になる」
とのドストエフスキーの言葉は、そのまま、プーチンのウクライナに対する見方になる。
ウクライナは
同じ正教を戴き、キエフ・ルーシの継承国家であるロシアによって、カトリックのポーランド・リストニア、イスラームのクリミア・ハン国(オスマン帝国)、プロテスタントのナチス・ドイツの支配から解放してもらったにもかかわらず、1991年にソ連からの独立をNATOに承認されるや、ソ連を恨み、憎悪、羨望、中傷の末、ついには、ロシアを仮想敵とするNATOに加盟しようとしている。
299
ロシアの望みはただ、988年にウラジミール1世をが受洗して東ローマ帝国バシレイオス2世の妹アンナと結婚し、ギリシア正教を国教として採用した由緒ある正教国家キエフ・ルーシの正統な継承国家の一つとして、ウクライナに名誉ある独立を与えることでしかなかった。
それなのに、ロシアから独立したウクライナは、カトリック、プロテスタント、無神論、ユダヤ教の欧米、イスラエルと手を組み、イスラームのトルコ支配下のコンスタンティノープル全地総主教座の陰謀により、2019年にはカトリックのユニエイト合同派についでロシア正教総主教座からウクライナ正教総主教座を独立させ、スラブ諸民族をタタールの軛から開放し西欧カトリックの侵略から護った正教の守護者としてのロシアの栄光の歴史を乗っ取ろうとしている。
ウクライナの現在の動きは、プーチン、そしてロシアの篤実なロシア正教徒の目には、そう映っている。
300
ドストエフスキーの西欧観、スラブ民族観、正教観、ロシア観、戦争観が、プーチンのものと同型であることが分かれば、なぜプーチンがウクライナ侵攻に踏み込んだのか、なぜ、ロシア正教会総主教がそれを指示し、正教の復興が著しいロシア国内で、反戦運動が盛り上がらないのかが、腑に落ちる。
エマニュエル・トッドは言う。
2003年、イラクに対し、アメリカが独善的に行動したときも、西欧の自由な空間の保全に��献したのはロシアだった。
スノーデンをあえて迎え入れることで、西洋の市民の自由の擁護に貢献したのもロシアだった。
そのことに、我々は感謝すべきだ。
そもそも
第次世界対戦時に、自ら多大な犠牲を払って、ドイツ国防軍を打ち破り、アメリカ・イギリス・カナダの「フランス解放」を可能にしてくれたのも、ソ連だった。
ソ連は2000万人以上もの犠牲者を出しながら、ナチス・ドイツの悪夢から、ヨーロッパを解放するのに、ある意味で、アメリカ以上に貢献した。
ところが、冷戦後は、ロシアに対して、その歴史を忘却したような振る舞いをしてきた。
西洋社会では、新自由主義によって貧困化がすすみ、未来に対する合理的な希望を人々が持てなくなり、社会が目標を失っている。ロシアを悪魔化して、スケープゴートに仕上げることにより、ニヒリズムから抜け出して、自分たちの存在意義を確認して、承認欲求を満たそうとしてる。
と、エマニュエル・トッドは評している。
2023/03/26 21:37
投稿元:
ロシアのウクライナ侵攻から1年以上経過するが、終わりは見えない。
これまでにウクライナ関連本を読んできたがよくわかなかった。過去にあった事件からウクライナからロシアに対する怨嗟があることは知っていた。ロシアからウクライナにはそれほど怨嗟はないだろう。しかしことはそんな単純ではない。著者はカソリック社会と正教社会、そこに割って入ったトルコ、イスラム社会があり。複雑な様相を呈する。
それがここ数百年の流れであある。ロシアはいつも西洋社会から疎んんじられ、嫌われてきた。にもかかわなず、オスマントルコの力をそぎ、ナポレオンを撃退し、ヒットラーを撃退し、9.11以後は米国追従の立場をいち早く表明した。しかし、いつまでたってもロシアは仮想敵国とされ、それだけでなく、旧社会主義陣営の国々が次々とNATO傘下に入る。
そんな状況でにっちもさっちもいかなくなってウクライナ侵攻にいたったようだ。
これってどこかで聞いたことなかったか?そう、真珠湾攻撃である。攻撃せざるを得ない状況が周りから徐々に準備されたのである。
再読が必要な本です
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